②
僕にとって殆どのクラスメートは“面倒くさい”人間にあたる。
当然、僕が思っている以上に向こうも同じ気持ちを僕に抱いているはずだから、僕には極端に友達が少ない。
それも仕方がない。
何しろ僕ときたら走るのは遅いし運動神経も鈍いから学校教示のメインイベントである“体育祭”ではいつも“お荷物”
成績は悪くなく寧ろいつも上位に居るが、背が低い上に極端な近眼でルックスも良くないから、学校生活で有りがちな“成績優秀=モテる”と言う図式の恩恵にも与れない。
しかも家が近所で母親同士が仲の好いという理由で、今ではその幼馴染の森村直美の奴隷だ。
かくして僕は狼どもから森村直美の水着を守った。
いや。
正確に言えば、僕は僕の身を守ったのだ。
あのまま彼ら狼どもに、このスイミングバッグを取られたなら、僕も“わいせつ罪”の共犯者。
いや、彼らの性格を考えると、首謀者に祭り上げられかねなかったから。
直美の水着の入ったスイミングバッグを両手に抱えて教室を後にして廊下に出ると、早くも吹奏楽部の練習の始まっていて、その中に直美の奏でるオーボエの音色がひときわ高く響いていた。
“ちぇっ。人に厄介な物を預けやがって、いい気なものだ”
中学時代の森村直美は、その長身を理由にバレーボール部に所属していて、3年生の時にはエースストライカーでキャプテンも務めていた。
彼女は僕と違って運動神経が良い。
高校に入っても、バレーボールを続けるのかと思っていたが、何故かバレーボール部には入らず、吹奏楽部に入部した。
しかも楽器は、演奏することが難しいとされるオーボエ。
“直美に音楽の才能なんて、あったっけ??”
と、最初は思っていたし、予想通り酷かった。
僕たちの住む家は、マイカーが普及する前の昭和という時代に栄えた古い商店街にあり、彼女の家は美容院で僕の家は酒屋。
当然のように車社会の現代では寂れていて、家と家はどうやって建てたのか理解できないほど、くっ付いて建っているが隣同士ではなく3軒離れているのがせめてもの救い。
近所がくっ付いているから、直美が家でオーボエの練習をした途端、夜鳴きラーメンのチャルメラの音色と間違えて何軒かの家から人が出て来る事件があった。
かくいう僕もそのひとり。
それからというもの直美は商店街から少し離れた、バス停のある道向こうの河原で練習を始めた。
これなら近所迷惑にもならず、誰もラーメン屋と間違えてノコノコ家から出てくることもない。
ただ厄介なことは、彼女が河原で練習する際に危ないという理由で、うちのお母さんが僕を彼女のボディーガードに着ける事を勝手に直美の母親と約束してしまったこと。
なにが“ボディーガード”だ……僕より直美の方が強そうなのは誰がどう見ても明らかだ。
ただ聴いているだけでは耳障りなだけなので、僕はいつも練習する直美の隣で参考書を持ち込んで勉強していた。
そんなこんなで、高校に入学してから3年生のこの時期まで、雨の日以外直美の下手くそ練習をほぼ毎日聴かされている。
1年生の頃は本当に下手くそだったが、2年生になるとソコソコ聞けるようになり、3年生になった今では違和感なく聞けるようになった。
“努力に勝る才能なし”とは、良く言ったものだが、ただ練習に付き合わされている僕にとっては何のメリットもなかったことは言うまでもない。