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 球場に救急車が到着して、一番家の近い僕が担任の先生と同乗して病院まで行く事になった。

 救急車が出るとき、試合が終わったのか、まだ継続中なのか大きな歓声が沸きあがっていた。

 病院に着くと直ぐ診察を受けて点滴が行われ、今日一晩は点滴治療の必要があるので泊まるように言われた。

 一旦病院の玄関まで下りて、家へ連絡してまた病室に戻った。

 直美は病室から窓の景色を見ていたが僕に気が付くと、ゴメンね迷惑かけちゃってと力のない笑顔で笑い、僕は答えに困ってただ頷いた。

 暫くするとクラスメートたちが来て、その直ぐあとにユニフォーム姿の野村も来た。

 “決勝に行ったら答えを出してあげる”

 屋上で直美から聞かされた“約束”を思い出す。

 野村は森村直美と話が出来るかと僕に聞いてきたので、点滴治療で一晩泊まるだけだから構わないだろうけど、直接本人に聞いてくれと答えを返した。

 野村は分かったと答えたので、僕は病室から出て行く。

「三木は一緒に居てくれないか」

 と言われたので、渋々残った。

 こんな日に、こんな場所で、しかも一応の目標を達成したとはいえ、僕は屹度野村が森村直美の返事を要求するのだと思い、そしてその森村直美がどう答えるのだろうとドキドキしていた。

 答えは聞かなくても分かっている。

 野村は背も高く顔もいい。

 それにスポーツマンで性格も良い。

 頭も良いらしいが、そこだけはガリ勉が趣味の僕の方が上。


 出来ることなら何も知らないままいたかったのに……。


「おめでとう!さすがだね」

 森村直美のほうから口を開いた

「有難う。君のおかげだ」

 直美は、ただニッコリと微笑んだ。

「約束のことだけど」

「うん」

「破棄しても良いかな」

「いいけど、どうして」

「残酷だな」

「女ですもの」

「まったく君には敵わないよ。君のダチにもね」

「敵わないでしょ」

 直美が悪戯っぽくニッコリ微笑むと、野村もそこで微かに笑った。

「三塁打、だったんだよ。二塁を周ったところで君が倒れるのが見えたから報告しておくけど……そのあと三塁ベースの上で何も出来ない自分に気がついた。君に応援して貰ってここまで来られたけど、結局俺が君に与えられるものが何もないって事が……俺には俺を支えてくれる人が必要だったけど、もっと必要なのは俺が支えてあげられる人も必要だって事に気が付いた。そして残念だけど俺が森村さんを支えられないのが三塁打を打った喜びの瞬間、止まったベース上で思い知らされたのさ。まったく自分自身をコテンパンに殴りたいほどだったよ……」

 野村はそこまで言うと、明日の試合は来られないだろうけど、最後の力を振り絞って頑張るから、お大事に!と言って森村直美に背を向けた。

 部屋から出ていく時にドアの前で立っていた僕に目を合わすと拳で軽く腹を殴られた。

 そして野村は部屋から出て行った。

 野村が出て行った瞬間に、なんで僕が残る必要があったのか分からないでポカンとしていると、その顔を見た森村直美がアハハと笑ったので何で笑うのか聞くと、それには答えないで「可笑しくて涙が出る」と言って更に笑い出した。

 夕方遅くなって森村直美の家族と僕の両親が来たので、僕は両親と一緒に帰った

 帰り際に彼女が寂しそうな顔をしていて後ろ髪を引かれる思いがした。


 “僕だって、一緒に居られるのなら一緒に居たい”


 でも、もう僕たちは子供じゃないんだ……。

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― 新着の感想 ―
[一言]  もう子供じゃないんだ。  と言う言葉が二人の重ねて来た時間の深さを感じました。  きっと子供の時はこんな時、一緒に居るって家族に駄々をこねられたのでしょうね。  見えない絆を感じました。
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