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2.伯爵令嬢、隣国へ行く(5)

「まだ、勉強をさせてもらっている身だから、当主ではないよ。それに、私には他にもやりたいことがあるからね」


「なんだよ、やりたいことって」


「決まってるだろ、ラベルゴ商会をぶっ潰す」


 フランが口にした途端、お菓子を口元に運んでいたハイケの手は止まり、ラーシュも目を細めてフランを見つめ、尋ねる。


「ラベルゴ商会?」


「ああ、その名の通り、代表はグレアム・ラベルゴ」


 フランがその名を口にすれば「あいつか」とラーシュは呟く。どうやら、ラベルゴ商会の代表をハイケもラーシュも知っているらしい。もちろん、カリーネは知らない。

 ハイケは止めていた手を動かし、口の中にお菓子を放り込んだ。


「お義兄(にい)さま、ラベルゴ商会ってその……」


「ああ。ラベルゴ商会とつながっているのはブラント子爵家」


「ブラント子爵家といえば、カリーネから婚約者を奪ったスザンナよね」

 つい、リネーアが零してしまえば、ハイケとラーシュの視線がカリーネに向かう。その視線からは哀れみのようにも感じるのだが。


「子リスちゃん……。君は、その、婚約していたのか? それが駄目になった?」


「そうですけど?」


「それで、こちらに来たのか?」


「うーん、そう言われるとそうかもしれませんが。あの、その婚約が駄目になったからって、そんなに落ち込んでるわけでもなんでもなくて、ですね。それがきっかけになったというのはあるんですけど。まぁ、その婚約者には会ったこともありませんし、むしろこういった機会をくれたことには感謝しているわけです。ね、お義兄(にい)さま」


「ラーシュ。カリーネはこういう子なんだよ。婚約解消は、まあ、縁がなかったということで。むしろ、私も解消されて良かったと思っている。相手が、あれだったからな」


「誰だ?」


「モンタニュー公爵家だよ」


 そこでまたラーシュは目を細めた。

「彼らの悪評は、こちらまで届いている」


 だが、ロード伯爵家は知らなかった。その悪評というものを。だから、カリーネを望まれた時に、承諾してしまったのだ。その悪評を知っているラーシュというこの男、一体何者なのか。いや、フランの知り合いなだけあって、ただの情報通なのかもしれない。


「話がそれてしまったな」

 そこでフランが無理矢理話題を変えれば、カリーネのこれからについて、が説明される。

 カリーネは魔導具士養成学校に通いながら、ハイケの弟子としてこの工房で技術を磨くことになるようだ。ハイケの工房では、主に魔導具の修理を受け付けているらしい。他、一点物の魔導具や市販魔導具の改造などを受けているらしい。いわゆる、特注というもの。


「よし、子リスちゃん。昼飯は俺と一緒に食べよう。学校には食堂があるんだ」

 ラーシュがそのようなことを口にする。

「一人で食べれます。子供じゃありませんから」


「ラーシュ、頼むよ」


「お義兄(にい)さま」


「カリーネは一人だと、大した食事をとらないだろう。だけど、ラーシュが見張ってくれるなら安心だ」


「もう」

 そこでカリーネは、ぶぅと膨れた。そんな彼女をラーシュは子リスちゃんと言って、ほっぺたをツンとつつく。みるみるうちに膨れた頬はぷっと空気を失う。


「あら。カリーネとラーシュって、意外といいコンビなのでは?」

 リネーアが楽しそうに隣にいる妹を見る。


「お姉さま、コンビって……。その、ラーシュさんとお師匠さまが恋人同士なのではないのですか?」


 ぶほっと飲んでいたお茶を吹きだしたのは、意外にもフランだった。


「ごほっ……。あ、はぁ……、そうか。カリーネには、そう見えるのか」


「違うんですか?」


「残念ながら違うよ、子リスちゃん」

 目の前のラーシュは笑っている。


「何しろ、ハイケはこう見えても年がよ……」


「ラーシュ。余計なことは言わない」


 ピシャリとハイケの声が飛んできて、遮られた。とにかくわかったことは、二人はそういう関係ではない、ということ。

「では、私はお邪魔虫ではないんですね?」


「お邪魔虫って……。君は一体、どんなことを考えていたんだい?」


 ラーシュが頬杖をつきながら、楽しそうにカリーネを見つめている。


「ですから、その。お師匠さまとラーシュさんが恋人同士なのかと。だから、私がここにいたらお邪魔なのかと思ったのですが」


「仮にそうだったとしても、君はここ以外、行くところがないだろう?」


「でも、気を使うことくらいはできますから」


「じゃ、気を使う必要は無いな。俺とハイケはそんな関係ではないのだから」


 つまんない、とカリーネが呟いたのをリネーアは聞き漏らさなかった。どうやらこの妹。他人のことになれば、恋愛沙汰にも興味があるらしい。その事実に、リネーアはちょっとだけ安心した。


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