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2.伯爵令嬢、隣国へ行く(2)

 誘導された駐車場に魔導車を止めたフラン。


「ねえ、あなた。ここからは近いの?」


「そうだね。カリーネが世話になる工房は歩いて十分くらいなんだけどね、荷物があるから荷馬車を頼んでおいたんだ」

 できる男は何かが違うようだ。

 フランは駐車場の受付にいき、そこにいる騎士に幾言か声をかける。どうやら、手配していた荷馬車がどこにあるのかを確認している様子。受付の騎士も答えに慣れているのだろう。このパンクハーストの街の地図をフランに手渡しながら、説明をしている。フランが陽気に礼を言えば、受付の騎士もにこやかに返す。ここで彼の人当たりの良さというものが役に立っているようだ。


「リネーア、カリーネ。荷物をその荷馬車に運んで。自分の手荷物だけでいいから」

 言いながらフランは一番大きな鞄を手にしていた。それはもちろんカリーネの着替え一式が入っているトランク。


「荷馬車の御者は? どなたかを頼まれたのですか」

 リネーアがきょろきょろと周囲を見回したのだが、御者のような人間は近くにいない様子。


「まさか、私が手綱を握るよ」


「お義兄(にい)さまが?」


「カリーネ。いちいちそんなことで驚かないでちょうだい。この人、何でも自分でやる人だから。ま、そういうところに惚れたんだけどね」


 うふふ、と隣国にきてまで姉は惚気ている。カリーネは小さく息を吐いてから、姉を見た。やはり、顔はニヤニヤとして惚気ている。


「さあ、二人とも。荷物を乗せたら、君たちも乗りなさい」


「荷台に?」

 カリーネが尋ねると「そうだよ」とフランは答える。

「楽しそうだわ」


「だけど、お尻が痛くなるからね。そこだけは気をつけなさい。でも、そんなに長い時間ではないからね。少しは我慢しておくれ」

 リネーアは荷台の奥の方に進み、カリーネのトランクに腰をおろした。荷馬車には(ほろ)があるため、奥までいけば風に当たることも無い。だけどカリーネはわざと荷台の入り口付近に座り、足をぶらぶらとさせる。風邪が頬を撫でていくが、流れていく景色が面白い。


「カリーネ。そんなところにいたら危ないわよ」


「大丈夫よ、きちんと掴まっているから」


「もう。そういうところは本当にまだ子供なんだから」

 そんな姉の言葉に耳を貸さないカリーネは、流れていくこの王都の風景を楽しんでいた。子供たちがカリーネの姿を見つけては手を振ってくれる。だからもちろんカリーネも手を振り返す。そんな些細なことであるのに、どこか楽しい。そして、お尻から伝わってくる振動も、どこか心地よい。規則的な揺れに次第に瞼が重くなり始めた頃、ガタッと音を立てて荷馬車が止まった。あのまま眠っていたら、この荷台から落ちてしまっていたかもしれない。と思って、ぼんやり重い瞼を必死の思いでこじ開ける。


 フランが華麗に馬から飛び降りて、荷台の方にやって来た。


「なんだ、カリーネ。そんなところに座っていたのか」


「ええ。ずっと動いていく景色が面白くて。私に気付いた子供たちが、手を振ってくれるのよ」


 フランは目を細める。


「リネーアもカリーネも荷物をおろして。ここが、カリーネが世話になる工房だ」


 カリーネはこの留学の間、魔導具の工房で世話になることが決まっていた。これもフランの昔の伝手らしい。そして両親がそれを承諾したのは、この工房主が女性だからというのが大きな理由。もちろん、フランはそういった工房をわざわざ選んだわけなのだが。


「ハイケ。フランです。例の子、連れてきました」

 ダッチドア式の玄関。上は開放されているため、そこからフランが大きな声を張り上げた。


「はいはいはいはい、そんな大きな声を出さなくても聞こえてるから」

 中から女性の声が聞こえてきたが、姿は見えない。

 カリーネは周囲を見回した。荷馬車を止めた場所は恐らくそれ専用の場所なのだろう。この建物はレンガ作りの家のように見えた。というよりも、本当に一軒家だ。レンガ作りの二階建て、地下一階。屋根からは煙突が立っているのが見えるが、煙は揺らめいていない。

 玄関の向こう側に黒髪の女性が現れた。どこか異国情緒あふれる、という表現が似合うような女性。


「久しぶりね、フラン。で、そっちが奥さんで……。娘?」

 玄関越しに声をかける。

「いや、妻の妹だ。カリーネ、こちらが工房主のハイケ・ペッツォ。こう見えても凄腕の魔導具士だ」

「こう見えては、余計なんだけど。っていうか、この子供を弟子にしろ、と? まだ未成年じゃないの?」

「デビュタントは済ませているから、立派な大人だな。カリーネ、挨拶を」

「あ、はい。カリーネ・ロードです」


 ハイケは顎に手を当てて、カリーネの全身を上から下まで撫でまわすかのように見つめている。


「カリーネ。魔導具を設計するにあたり、魔導具から他にもらい火が起きないようにするためにはどうしたらいいかわかる?」


「はい。もらい火の原因となる火種を作らないこと。もしくは火種があったとして、魔導具自身内に封じ込めて、外には出さないこと。この二つですね」


 じっとハイケはカリーネを見下ろしている。ハイケが特別背の高い女性というわけではない。カリーネが同年代の女性よりもやや小さいだけで。

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