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8.伯爵令嬢、魔導士と会う(3)

「だけど、門前払いだろ? これじゃまるでオレが嘘をついているみたいだし。と思い出したのが、この制度の発案者ね。ドッカンした魔導具を見てもらって、ついでにその発案者がどんな奴か見てみたいな、とね。で、気に入らなかったら、やっぱりこの話は断ろうと思ったわけ。だけど、君なら合格。パンが食べられないことは悔しいけど」


「でしたら。魔導パン焼き機、贈りますよ。そろそろ、次の試作機ができあがるので。そちらでよろしければ」


「え? 試作機? どこの魔導パン焼き機なの?」


「言っただろう? カリーネはホルヴィスト国から来てるって。あのロード伯の娘だからな」


「ロード伯? 魔鉱石の? てことはレマー商会?」


「そうです、そうです。レマー商会の魔導パン焼き機は私が設計したのですが、最初に設計したパン焼き機は少し大きかったので、次のは小型化を狙いました。こちらで勉強して、小型化できるって気付いたので。それの試作をお願いしていたところだったんですけど、そろそろできあがるって連絡があったので」


「レマー商会の魔導パン焼き機ってさ、本当にこっちには出回ってなくて。ホルヴィストからはすごく使い勝手が良いという話も聞こえてくるし。それで、あれを買っちゃったんだよね」


「はい。ですが、あのラベルゴ商会の魔導パン焼き機の設計は本当に酷いです。悪いものを売って、金儲けしようとする感じがひしひしと伝わってきます。ですが今、そういった魔導具を流通させないようにする制度がなくて。それで、あの認証制度を考えたわけですが」


「あのさ。あの魔導具。ドッカンさせたのがオレだったから、すぐに対処できたけど。普通の人間だったら、今頃、家が一軒無くなっててもおかしくないからね」

 そもそも、普通の人間であれば魔力干渉は起こらない、とラーシュは思ったが、口にするのはやめた。このマルスランという男の魔力が規格外なだけであって。


「そうだな、カリーネ。試作機をこいつに使ってもらうのはいいことかもしれない。こいつ、団長なだけあって、魔力だけは人一倍強いんだ」


「おいおい、オレが魔力だけで団長になったような言い方をするなよ」


「違うのか?」


「見てわからない? 人望、信頼、尊敬。あいつらが見るオレへの視線から感じるだろう?」

 イヴァンとカルロスは首を横に振っている。

「ま、いいや。そんなこと。だけど、レマー商会の魔導パン焼き機がもらえるなら、喜んでもらう」


「試作機なので、それなりのものになりますがよろしいですか? それに、使い勝手とか、そういったところも教えてもらいたいのですが」


「ああ。そういう文句言うのは得意だから」


「届き次第、お持ちしますね」


「やったね。噂のレマー商会の魔導パン焼き機なら、美味しいパンが食べられそうだ」

 やっとマルスランの機嫌は直ったようだ。

「というわけで、よろしくね。カリーネ嬢」


 マルスランが怪我をしていない方の手を差し出してきた。恐らく、握手しよう、という意味だと思うのだが、その手をペシッと叩く人物がいた。それはもちろんラーシュ。


「なんだよ、ラーシュ。お近づきの挨拶をカリーネ嬢としようと思っただけじゃないかよ」

 叩かれた手を見つめながらマルスランは口にする。

「何も触れる必要はないだろう?」


「っていうかさ。ラーシュ、それって無意識?」


「何が」


「オレに対する威嚇」


「威嚇、だと?」


「そ。ま、いいや。だけどね、この制度が通って、カリーネ嬢もこの委員の一員となれば、カリーネ嬢を狙ってくる輩もいるわけだ」


「どういうことですか?」

 カリーネは首を横に倒す。


「カリーネ嬢は、あのロード伯の娘だろう? ロード伯といったら、魔鉱石の鉱山を持っている。そしてカリーネ嬢は、認証制度委員の一人。お近づきになりたいと思う人間はたくさんいるだろう、ってことだよ。で、ところで、カリーネ嬢は婚約者とかいるのか? ま、ラーシュがそれだけべったり近くにいるわけだから、いないと思うけど」


「厳密に言うなら、いたんですよ。でも、ここに来る前になかったことにされちゃいました」

 えへへ、と笑うカリーネ。


「へぇ、そいつももったいなことをしたよね。カリーネ嬢もこんなに可愛いのにね」


「ここに来る前は、貧相な身体って言われてましたよ。年相応に見えないって。成長したのも、こちらに来てからなんです」


「そうなんだ。じゃ、カリーネ嬢の元婚約者というやつは、今のカリーネ嬢をしらないわけだ」


「そうですね。会ってもわからないと思いますよ」

 カリーネが自分で言うくらい、こちらに来てからはぐんと身体が成長した。


 ふぅん、と頷いているマルスランは、じっとラーシュを見ている。

「じゃ、カリーネ嬢。オレと付き合わない?」


「いいですよ。どちらまで付き合えばいいのでしょう?」


 ぎょっとしたのはラーシュだ。だが、カリーネが付き合うという意味を取り違えていることにすぐに気付いたのだが。


「そうだね、カリーネ嬢。できれば結婚まで付き合ってもらいたいんだけど」


 カリーネはきょとんとする。まばたきをいつもより多めに。ぱちぱちと。


「どういうことでしょう?」


「あれ? カリーネ嬢。お付き合いの意味、わかってない? 交際を経て、婚約して、結婚しましょうってことを言いたかったんだけど」


「ええっ」

 ぼっとカリーネの顔が熱を帯びて、赤く染まった。


「カリーネ嬢さ。そろそろ自分の立場を分かった方がいいよ。男除けの一人や二人、作っておいた方がいいから。ということで、オレなんてどう?」


 左手の親指を自身に向けているマルスラン。それを見て、どうしたらいいかわからないカリーネ。

 ラーシュがすっと立ち上がり、その指に手をかけた。


「バカなことを言うな」


「おお、怖い。バカなことじゃないだろう? 本当のことだ。これからカリーネ嬢が表舞台に立とうとするのであれば、彼女を邪な目で見て、付け入ろうとする輩だって出てくる。こういう純粋な子は、誰か守ってやらなきゃならないだろうが」


「だからって、なぜそれがお前なんだ」


「君が何もしないからだろう?」

 ふん、とマルスランはラーシュの手を払った。


「カリーネ嬢。考えておいて。オレと付き合うこと。結婚したとしても、オレ、浮気はしないから。カリーネ嬢、一筋だってことだけは伝えておく。それに、カリーネ・カルネリって語呂もいいと思わない?」


「あ、はい」


「そこで返事をするな」


「ラーシュ。カリーネ嬢に八つ当たりするのは良くないよ。あ、カリーネ嬢、返事は……。そうだな。この認証制度が正式採用になるまで、ね。それまでは委員会とかで顔を合わせることになると思うけど、よろしくぅ」


「帰るぞ」

 ラーシュはカリーネの腕を掴んだ。帰るぞ、と言われたためカリーネは立ち上がり、慌ててリュックを背負おうとしたのだが、そのリュックをラーシュに奪われる。


「じゃ、またね。カリーネ嬢」

 マルスランは左手をひらひらと振っているし、彼の部下であるイヴァンとカルロスは深々と頭を下げていた。カリーネもペコリと軽く頭を下げて、その部屋を出ていく。

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