表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/41

1.伯爵令嬢、婚約破棄される(2)

 実はこのカリーネ。ロード伯爵の娘である伯爵令嬢でありながらも、魔導具製作が大好きという一面も持つ。幼い頃から、工場を遊び場のようにしていたカリーネ。魔導具に興味を持たないわけがなかった。今では十六歳という若さでありながらも、魔導具に必要な魔導回路の設計までこなしてしまう始末。それを喜んでいるのは父と義兄のフランだけであり、母親はもう少し女性らしい趣味、つまり刺繍の腕をあげて欲しいと嘆く日々。


「そうか。まだ、時間はあるからゆっくり解析しなさい。だが、今日は駄目だ。風も強くなってきたし、これから雨も酷くなるだろうからな。屋敷からは出るなよ」


「はい。お父さまから、そう言われると思いまして。試作基板は持って帰ってきました。部屋で解析をすすめます」


 父娘(おやこ)の会話を聞いていたフランは、くすりと笑った。隣にいるリネーアが不思議そうに夫の顔を見つめる。


「ああ、ごめん。仲が良い親子だなと、思っただけ」


「ほら、カリーネも座りなさい」

 母親が娘を促した。カリーネの席は姉のリネーアの隣。これが、この五人の定位置。

 そして母親がお茶を淹れるのが、この時間の過ごし方。


「お父さま、顔色が優れませんが、何かありましたか?」

 父の異変に気付いたのは上の娘のリネーア。彼女はこういった気遣いが人一倍できる娘だ。


「あ、うん。まあ、そうだな」

 後回しにしてもいずれ伝えなければならないことなど、この父親だってわかっている。

「実はな。モンタニュー公爵から書類が届いてな」

 と、まずは隣に座っている妻にその書類を手渡した。その書類に視線を走らせていく夫人の顔色も次第に青くなっていく。

「あなた、これ」


「ああ、そういうことのようだ」


「お父さま、お母さま。一体何が書かれているのですか?」

 両親を案じているリネーアの元に、書類が渡される。リネーアが受け取りそれを読むと、隣から夫のフランも顔を寄せて、共に読む。


「ちょ、な。ば。は、え? なんなの、これ」


 あまりに姉が動揺しているため、お菓子に手を伸ばしていたカリーネも不安になる。


「カリーネ。あなたお菓子を食べている場合ではないわ。これを読みなさい」


 お菓子をつまんだ手をお仕着せの裾でごしごし拭いてから、カリーネは姉から渡された書類を読み始めた。


「えっと、なになに。『モンタニュー公爵家の長男であるヘルムートと、ロード伯爵家の次女であるカリーネの婚約を解消させる……』って、これ、なんですか? なぜ、ここに私の名前があるのでしょう?」


 カリーネが口にすると、四人からの冷たい視線が突き刺さる。


「カリーネ。意味、わかってる? 大丈夫?」

 隣の姉が、心配そうに顔を覗き込んでくる。


「え、意味? あ、はあ。まあ。ようするに、婚約解消しろっていう話ですよね?」

 そこでカリーネはその書類を父親に手渡した。


「あ、わかってたんだ」

 リネーアが呟き、ほっと安心したようにお茶を飲む。


「あなた。これは一体どういうことなの?」

 恐らくこの五人の中で、一番怒っているのはこの母親だろう。


「どうもこうも。この書類の通りだろうな。ヘルムート殿とカリーネの婚約はなかったことにされた、と」


「そんな、一方的過ぎるでしょう? なんとか申し入れできないの?」


「お母さま、お母さま。そのようにカリカリされていては、小皺が増えますよ。申し入れも何も。私にはヘルムート様に伝えるような希望はありませんから」


「カリーネ。あなた。この婚約解消を黙って受け入れるとでもいうの?」


「相手がそれを望んでいらっしゃるのですよね。てことは、このまま婚約を続け、結婚をしたとしても、私の未来はお先真っ暗ではありませんか」


「だけど」


義母(かあ)さん、落ち着いてください」

 フランが間に入る。

「考えてもみてください。相手はあのモンタニュー公爵です。歴史はあるけれど、最近は金が無いと言われている公爵家です」

 意外とこのフラン、言うときは言う男である。

「ヘルムート殿がカリーネと婚約したのも、このロード伯爵の金が目当てだった」


「そうなの?」

 カリーネは思わず口にし、隣の姉に助けを求めると、姉は唇を噛みしめていた。となれば、本当のことなのだろう。


「その公爵家がロード伯爵家との婚約を解消したいと言い出した。となれば、新しい金づるを見つけた、と考えるのが妥当です」


「その新しい金づるというのに、心当たりはあるのか?」

 腕を組んでいるロード伯爵は義理の息子に尋ねる。


「ええ。恐らく、ブラント子爵だと思われます。あそこは、最近できたばかりのラベルゴ商会に出資しているという噂ですから。ただ、そのラベルゴ商会も金儲けはしているが、いい噂を聞かない商会です」


 フランの言う「いい噂を聞かない」。つまり、何やら黒い噂がまとわりついているということ。表にならない噂。知る人ぞ知る噂。フランはこの領地で義父から仕事を教えてもらっているが、たまに王都に行き、レマー商会の仕事も手伝ってくる。それが出資する者の役目であると思っているからだ。

 働き者でキレ者を息子にできたことを、ロード伯爵は密に喜んでいる。

 そして、そのラベルゴ商会の黒い噂というのも、フランが王都に行ったときに関係者から仕入れた情報。とにかく「ラベルゴ商会には気をつけろ」と。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=904704382&size=88
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ