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3.伯爵令嬢、学校へ行く(5)

 研究棟は一階から三階までが吹き抜けになっており、階段が三階まで続いているのを下から見上げることができる。その階段の両脇に通路があり、通路の壁にはそれぞれ一定間隔で扉がついている。


「後で、研究棟の地図をあげるよ。興味、あるだろう? どこでどのような研究をしているのか。階段は三カ所あるからね。二階や三階にあがってしまうと、つながっていない場所もあるから、ぐるりと回り込む必要がある。気を付けないと遠回りになってしまうこともあるからね」

 初めて踏み入れた不思議な造りの建物に、一人で来たら迷子になってしまうのではないかという不安が襲ってくる。


「基本的には、似たような研究をしている者たちの研究室は近いから、あまり他の階の研究室に行くことはないな」


 まるでカリーネの心を読んだかのような、ラーシュのフォロー。カリーネはじっとラーシュを見上げてしまう。


「どうかしたのか?」


「いえ。あまりにも綺麗な建物でびっくりしています。それに入り口の、その選ばれた人しか入れないっていうその仕組みも。まだホルヴィスト国では採用されていないです」


「ここは魔導具の国だからね。さて、着いたよ。ここが俺の研究室。研究棟の入り口から遠いのが難点なんだが、隣に地下室があるからね」


「え、地下室には何があるんですか?」


「環境試験室。さっきも言ったような加速試験ができる設備が置いてある部屋だ」


「うわぁ」


「見たいだろう?」


「はい、見たいです」


「だけど、今日は見せてあげない」


「えぇっ。何故ですか? やはり、通常生は入れないんですか? 見たいです、見たい、見たい、見たい」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、カリーネはラーシュに尋ねた。せっかくここまで来たのに、肝心の環境試験室を見学することができないなんて、悔やんでも悔やみきれない。


「違うよ。今日は、と言っただろう? また別な日に見せてあげるから」


「てことは、またここに来る必要があるってことですか?」


「そう。だから俺に会いに来なさい、と言っただろう?」


 むぅ、とカリーネは唇を尖らせた。できることなら、今すぐその環境試験室というものを見せてもらいたいのに。


「膨れたって無駄だよ。今日は別なものを見せてあげたいから。ほら、こっちに入っておいで」

 ラーシュは自分の研究室の扉を開けると、カリーネを中に招き入れた。研究室の中は両脇に本棚が並んでいて、真ん中に大きなローテーブルとソファ。そして、窓際には、窓を背にするような形で執務席のような立派な机が置いてある。


「え、水道も通っているんですか?」


 扉の脇には水道があった。蛇口を捻れば、水が出るあれ。


「そう。研究にはもってこいの環境だろう?」


「うぅ……」


 とカリーネが唸っているのは羨ましいと思っているからだ。

「荷物はそこに置いたら、そこに座りなさい。お茶を淹れてあげる」


「あ、場所さえ教えてもらえれば、私がやります」


 リュックをおろしたカリーネはラーシュの隣に立ち、お茶のある場所、カップのある場所、ポットのある場所を教えてもらう。そして、戸棚には焼き菓子があることもちゃっかりとカリーネは確認してしまった。


「大きなソファですね」

 お茶を飲みながら、カリーネは座っているソファの大きさに感心する。


「ああ。ここで寝泊まりもできるように、と思ってな」


「え。じゃぁ、ラーシュさんはここに住んでいるんですか?」


「住んでいるというのは語弊があるな。帰れないときはここに泊ることもある、という程度だ」

 さて、と言いながらラーシュはテーブルの上に資料を並べた。そして、カリーネの隣に座り直す。

「今日は、加速試験の方法と、それがなぜ製品寿命試験において有効なのかということについて教えよう」

 そこから二時間、びっちりとラーシュの講義が始まったのだった。

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