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清楚な彼女も怒る時はある

 皆で帰った日の翌日、僕は昨日と同じように起床して、朝食を食べていた。

 しかし、昨日とは違い携帯がメッセージを受信した


『おはようございます! 今日はちゃんと起きられましたよ!』


 沙原さんからそんなメッセージが届いていた。はは、メッセージ越しに彼女のどや顔が見えそうな文章だな


『おはよう。ちゃんと起きれて偉いじゃないか』


『何だか子供扱いされてる気がしますが……とにかく、今日は私が黒木君の家に行くので、待っていてください』


『うん、分かった』


 そこで、彼女とのやり取りは終わった。僕の部屋がどこかは昨日教えてあるから、迷うことはないだろう


(よし、じゃあさっさと準備しておこうか)


 沙原さんがいつ来ても良いように、僕は学校の準備を終わらせて待つことにした。






 それから少しして、部屋のチャイムが鳴った。来たのかな?

 僕はそう思いながらインターホン越しにドアの前を確認すると、予想通りに沙原さんの姿があったので鍵を開けた


「おはよう、沙原さん。わざわざ来てもらって悪いね」


「おはようございます。いえ、私が言い出した事ですから」


 そう言ってにっこりと笑う沙原さん。朝から見惚れてしまうような良い笑顔だ


「あれ? 黒木君、ご両親は?」


「ああ、二人とも一緒に暮らしてはいないんだ。仕事で海外とかにも行く機会が多いからね。今は一人暮らしなんだよ」


「えっ? そうだったんですか。黒木君、一人暮らしだったんですね……」


 僕の事情を聞いて、沙原さんは驚いた後に何かを考え出した。

 そして、こんな事を言い出した


「いつも一人で寂しくなったりしませんか? 私で良かったらいつでも遊びに来ますよ。何なら毎日でも大丈夫です」


 わーお、またとんでもない事を言い出したなこの娘は……。一人暮らしの男の家に毎日遊びに行くとか危ないとか思わないのだろうか? ……思わないんだろうなぁ


「あはは、気持ちは嬉しいけど大丈夫だよ。もう慣れっこだからさ」


「むぅ……でも……」


 安心させる為に笑顔で言ったけど沙原さんは引き下がらなかった。

 ……仕方ないな、ここは僕が少し折れよう


「毎日はお互い大変だと思うからさ。たまにだったら遊びに来ても大丈夫だよ、僕も嬉しいしね」


「本当ですか!? なら、今度の日曜日にでも!」


「ず、随分急だね」


「せっかく仲良くなれたんです。休みの日も一緒に遊びたいじゃないですか」


 キラキラした目で沙原さんは言ってきた。

 うん、最近本当にこの娘を子供扱いしてしまう事が多くなってきたけど……仕方ないと思う。本当に子供みたいに純粋な女の子だからね、沙原朱凛って娘は


「うん、分かった。じゃあ今度の日曜日ね」


「やった! えへへ、楽しみにしてますね」


「はは、期待に応えられると良いけど……。よし、じゃあそろそろ行こうか」


「はい! ……あっ」


 学校に行こうかと思い、声をかけると沙原さんはにこにこした表情から何かを思い出したような顔に変わる


「ん? どうかしたの?」


「あ、あの……今日は私、ちゃんと早起きできましたよね?」


「うん、そうだね……?」


「だ、だから……あの……昨日みたいに……ほ、褒めてくれても良いんですよ……?」


「昨日みたいにって……まさか……」


 あれか? 昨日沙原さんにうっかりやった……頭を撫でた時の事、だよね? あれをまたやれって言うのか?


「え、でも昨日は嫌がってなかった?」


「い、嫌がってませんよっ! そ、外で急にやられたから恥ずかしかっただけです!」


「う、うーん……でもなぁ……」


 昨日は沙原さんが完全に子供に見えてた時にやっちゃったから意識してなかったけど……改めて冷静になってやるのは……うん、僕の方が恥ずかしいな


「ほ、ほら! 女の子にとって髪はとっても大事でしょ? それなのに僕みたいな奴に触られるのは気持ち悪いんじゃ……」


「っ!!」


 僕は少し慌てながら沙原さんを説得した。ここまで言えば沙原さんも諦めるかと思って。

 しかし、その発言を聞いた沙原さんは……


「『僕みたいなやつ』……? 『気持ち悪い』……!? そんな言い方しないでっ!! 黒木君はとっても優しくて話しやすい私の大事な友達なの! たとえ黒木君本人でもそんな言い方許さないっ!」


「わっ……!? ご、ごめん……」


「はっ……!?」


 初めて見る沙原さんの怒った姿に驚き、僕が謝ると沙原さんはハッとした顔になった


「ご、ごめんなさい! 私、つい……うぅ……ごめんなさい……」


「いや、僕が悪かったよ。そうだよね、僕達はもう友達なんだもんね」


 この娘は友達を馬鹿にされたら本気で怒るんだろう。たとえ、それが本人の言葉でも。本当に友達想いな娘だ。

 しゅんとしてしまった沙原さんの髪に手を伸ばす


「あ……黒木君……?」


「ごめんね。沙原さんは褒めてほしかっただけなのにね……これで許してくれるかな」


 そう言いながら、沙原さんの頭を優しく撫でる。やがて彼女は心地良さそうに目を閉じた


「ん……ふふ、気持ち良いです……。黒木君、撫でるの上手いですね……」


「そうなのかな? 自分じゃよく分からないけど」


「……名残惜しいですけど、そろそろ終わりにしましょうか」


 そう言われたので、僕は手を離した。そして、沙原さんも閉じていた目を開けた。

 そして、彼女は真剣な表情で言い始めた


「黒木君、一つ言っておきます。私は誰に対しても撫でてほしいなんて言うことはありませんよ。黒木君の言った通り、私も女の子ですから……髪は大事です」


「うん……」


「でも……いえ、だからこそ。黒木君になら撫でられても良いと思ったんです。貴方は、私の大事なお友達ですから」


「沙原さん……そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」


 僕が言うと、沙原さんはにっこりと笑った


「じゃあ行きましょうか」


 そう言われ、僕も頷いて二人一緒に部屋を出た。

 本当に……沙原さんには敵わないな。









「そういえばさ」


「はい?」


「沙原さんって誰に対してもその口調だよね。丁寧な口調っていうか」


 登校している途中で僕は沙原さんに前々から気になっている事を聞いてみた


「同学年の人とか、後輩とかにもその口調だよね? 何か理由とかあるの?」


 多分だけど、彼女の丁寧な口調は素の喋り方じゃない。寝起きの時とか、さっきみたいに怒った時はその口調が崩れていたからね。だからこそ、沙原さんが友達相手にもその口調のままなのが気になったんだ。

 そんな思いから聞いてみたら、沙原さんは恥ずかしそうな表情で


「うっ……り、理由はあります、けど……わ、笑いませんか?」


「えっ? うん、笑わないよ」


 僕が答えると、沙原さんは話し始めた


「……実は、この喋り方は高校生になってから始めたんです。中学の時までは……その、今よりも子供っぽかったので……」


 ……今よりももっと子供っぽかったの? とか聞いたら駄目だよね。僕は空気を読んで黙って聞く


「それで、せっかく高校生になるならもっと大人っぽくなろうと思いまして。雰囲気も変えて、喋り方も大人っぽくしようと思ったんですよ。子供っぽいままだと馬鹿にされるかと思ったので」


「へぇ……それは凄いね」


 だから普段からあんなに清楚な雰囲気だったのか。確かに、こうして交流を持つまでは沙原さんは清楚で大人びた人だって印象を持っていたからなぁ、そのイメチェンは成功していると思う


「あの、ちなみに黒木君から見て私は大人っぽく見えていますか? 子供っぽく見えてないでしょうか?」


「……それは正直に答えた方が良いのかな?」


「う……は、はい。お願いします……!」


 ……よし、じゃあお世辞は無しだ。正直に答えよう


「最初に会った時は大人びた雰囲気だったよ。でも、仲良くなってからは子供っぽい所もあると感じる事も結構あるかな」


「うぅっ……やっぱり、私は子供っぽいままなのでしょうか……」


 落ち込む沙原さんに僕はでも、と続けた


「僕はそれで沙原さんを嫌いになったりしなかったし、これからも変わらないよ。そんな所も沙原さんの魅力だと思うしね」


「く、黒木君……!」


「まぁ、勉強に取り組む姿勢はもっと大人になっても良いと思うけどね」


「あうぅ……。上げて落とすなんて酷いですよ、もう!」


「はは、ごめんごめん」


「もう……ふふっ」


 そして、僕達は笑いあう。

 清楚な雰囲気で振る舞う沙原さんは確かに綺麗で大人っぽく見えるけど……今みたいな純粋な笑顔を浮かべる姿は、子供っぽいかもしれないけどとても魅力的だと僕は思うな


「でも、その口調のままだと大変だったりしないの? 友達相手だったら昔の喋り方でも良いんじゃ……」


「いえ、最初は慣れませんでしたけどもう一年経ちましたからね。すっかりこの口調が定着してしまったんですよ。だから大変とかはないです」


「そっか。なら良いんだけどね」


 無理に喋ってる訳じゃないのか。それなら心配する必要はないかな


「えっと、黒木君。こんな子供っぽい私ですけど……これからも仲良くしてくれますか?」


「もちろん。僕は沙原さんの事を大事な友達だと思ってるよ。君と同じようにね」


 そう言うと、沙原さんはまた無邪気な笑顔で……こう言った


「ふふ、ありがとっ! これからもよろしくね、黒木君」


「っ!? 沙原さん、その口調……」


「……えへへ、久しぶりに元の口調で喋るとちょっと恥ずかしいですね。ほら! 早く行きましょう!」


「あっ、う、うん」


 僕は照れ臭そうに早歩きで前を歩く彼女に着いていきながら、こう思った。

 ーー沙原さんは、どっちの口調でも魅力的な女の子だ、と。やっぱり、僕は沙原さんには一生敵わないな

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