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賑やかな帰り道

 午後の授業も終わり、放課後になる。さて、帰ろうかと思っていると


「黒木君、今日も一緒に帰りましょうか」


「あ、うん。僕は良いけど……」


 またしても沙原さんに誘われる。それは良いんだけど……


「沙原さん、毎日僕と一緒に帰ってるよね?」


「はい、黒木君と帰るのは楽しいですから。あっ……もしかして迷惑でしたか?」


「いやいや! そうじゃないけどさ」


 沙原さんと帰るのが嫌なわけじゃない、僕だって彼女と帰るのは楽しいと思っている。だけどちょっと気になっている事があるんだ


「ほら、沙原さんって最初に会った日に誰かと帰ろうとしてたよね? あれって桜良さんと帰ろうとしてたんじゃないの?」


「はい、そうですよ。あの日は予定が出来たとかで結局一緒に帰れなかったんですよね」


「あー……多分それ俺との予定だな」


 と、その時反対側の席から古宮君が話に入ってきた


「『買い物に行きたくなったからついてきなさい』って急に言われて荷物持ちにされたんだよ。あいつ、買い物行くといっぱい買うからなぁ」


「そっか。次の日にそんなこと言ってたね、あれって桜良さんとの事だったんだ」


「雪実ちゃん、古宮君には本当に遠慮しないんですね」


「ははっ、まぁ断らない俺も俺だけどな」


「でも、それがどうしたんですか?」


 沙原さんが首を傾げながら僕に聞く


「いや、たまには桜良さんとも一緒に帰りたくなるんじゃないかなと思ってさ。今はクラスも違うし、話す機会も少ないでしょ?」


 そう、昼休みの二人の様子からかなり仲が良いのは伝わってきたし、二人で話す時間が僕のせいで少なくなってたら申し訳ないと思う。僕は席が隣だからいつでも話せるしね。

 そう思って聞いてみたのだが


「いえ、そんな。今も昼休みの時は一緒ですし、家に帰った後に電話することもありますから大丈夫ですよ」


「そっか……余計な心配だったね」


 確かに仲が良かったら電話くらいするか。余計な気を回してしまったね


「あっ。それなら今日は四人で帰りますか? 私と黒木君と……古宮君と雪実ちゃんで!」


 また唐突にそんな提案をする沙原さん。でも四人で下校か、皆が良いなら僕は良いけど……まずは古宮君に聞いてみるか


「古宮君、どう? 今日は一緒に帰れそう?」


「おう。俺は良いぜ、今日は予定も無いしな。多分桜良も同じだと思うぞ」


「では私が聞いてみますね。一緒に帰れるかメッセージ送ってみます」


 沙原さんがそう言って少し待つと、返信が帰ってきた


「大丈夫みたいです。下駄箱で合流しましょうって」


 桜良さんも賛成か。なら今日は皆で帰れるね、最近は二人での下校ばかりだったからなんだか新鮮だな


「じゃあ行こうぜ。あんまり待たせたら怒られちまう」


「えっ、桜良さんって結構怒りやすいの?」


「いえ、私はそんなことで怒った所なんて見たことないですけど……」


「マジか!? 俺はしょっちゅう文句言われるんだが……畜生、俺だけかよ……!」


 古宮君はがっくりと肩を落としたけど……多分、桜良さんがそんな態度なのは古宮君の事を気の置けない友人だと思っているからだろうね。何だか微笑ましいな。

 そんな気持ちになりながら、僕は二人の後を追って教室を出た。






 そして、下駄箱に着くとそこには既に桜良さんが待っていた


「遅いわよ、古宮」


「おい、何で俺だけなんだよ」


「さぁ、行きましょうか。朱凛さん、黒木君」


「おーい無視すんな! つーか俺も帰るんですけど!?」


 そんな二人の軽快なやり取りを僕と沙原さんは苦笑しながら見つめる。やっぱりこの二人は仲が良いんだなぁ、こんなに距離が近いのは羨ましい


「ほら、私達も行きましょう。二人に置いていかれてしまいます」


「はは、そうだね。行こうか」


 靴を履き替え、僕達は学校を出る


「黒木君、朱凛さんは授業を真面目に受けているかしら? 去年は真面目に受けているふりをしながら全然聞いていなかったから心配なんだけど」


 桜良さんが聞いてきた。

 真面目に受けるふりって……ああ、去年は隣の席の人と仲良くなることがなかったからか。うん、その方がマシだったかもしれない


「今日の午前中は堂々と隣で居眠りしてたよ」


「朱凛さん……?」


「そ、そんな正直に言わなくても良いじゃないですか!」


 沙原さんが詰め寄ってきたが、僕は構わず続ける


「ちなみに午後はこっちの方ばっかり見てたね。授業はつまらないから僕の顔を見てた方が楽しいって……ふごっ!?」


「わー! わー! 全部言わないでくださいーっ!」


 僕が全部言うと、沙原さんが慌てて口を押さえてきた。押さえる為とはいえすごく密着されて良い匂いがして柔らかくてあばばばばば


「ははっ、黒木が真っ赤になっちまったな。あんなにくっつかれたらそうなるわな」


「全くあの娘は……ほら、朱凛さん。黒木君から離れてあげなさい。固まっちゃってるわよ」


「へっ? あっ!? く、黒木君!? 大丈夫ですか!?」


 口から手が離れて柔らかい感触が消える。そこでようやく僕は正気に戻る。

 こ、この娘は本当に……僕を殺す気なのか……色んな意味で


「さ、沙原さん……あまり男子にこういう事はしない方が良いよ……」


「えっ? こういう事って……?」


 沙原さんがきょとんとした表情で首を傾げる。な、何も理解してないのかこの娘は……!?


「ごめんなさいね、黒木君。朱凛さんは今まで男子と接したことが全然無いらしいから……ね?」


「あ、はい。小学校の時はまだ今よりも幼かったですし……中学は女子校でしたから。高校に入ってから初めて出来た男の子のお友達は黒木君ですからね」


「そ、そうなのか……」


 いや、薄々察してはいたけどやっぱりこの娘は男子との交流経験が少なすぎる。だから距離感がおかしいんだ、そのせいで僕は毎回ドキドキする羽目になる


「だから、これからも色々と大変かもしれないけど……朱凛さんと仲良くしてあげてね。せっかくこんなに仲良くなれたんですもの」


「えっ……黒木君……? 私、何か悪い事をしてしまったんでしょうか……? ご、ごめんなさいっ! 謝りますっ! 謝りますから……これからも仲良くしてください……! 嫌いにならないで……」


「桜良さん……沙原さん……」


 ……まったくもう。僕はまだ何も言ってないじゃないか、沙原さんを嫌いになるだなんて……


「嫌いになったりしないよ。僕は沙原さんと話すの好きだし……これからも仲良くしたいと思ってるよ」


「……! く、黒木君……っ!!」


 僕の答えに嬉しそうにしながら沙原さんが抱きついてきた……ってうわあああああ!?


「さ、沙原さんっ! 離れて! 離れてくださいっ!?」


「えへへ……黒木君、大好きですっ! これからもお友達でいてください!」


「だ、大好きって君はまたそういうことを……! さ、桜良さん! 古宮君! 助けてぇー!」


「はっはっは。良いじゃねえか仲良くてよ。見てて微笑ましいぜ、なぁ桜良?」


「ええ。全く、出会って数日でこんなに仲良くなっているなんて……少し妬けちゃうわ、ふふっ」


「そ、そんなぁ!!」


 結局、沙原さんが離れたのはそれからしばらく経った後だった。くそぉ……笑いながらこっちを見てた二人を僕は許さないぞ……。

 恨み言を心の中で呟きながら歩いていると別れ道に出た


「あら、確か朱凛さんはそっちだったわね。私と古宮はこっちの道よ」


「お、そうなのか。黒木も沙原さんと同じ方向か?」


「うん、そうだよ」


 どうやら、二人とはここでお別れらしい。ここからはいつも通り、二人で帰ることになるみたいだ


「じゃあまた明日な。二人も仲良く帰れよ?」


「はい! 私達は仲良しですからっ!」


 古宮君の言葉にキラキラとした笑顔で答える沙原さん。そんな彼女を見て桜良さんもクスッと笑った


「ふふ、なら私達も仲良く帰りましょうか? 面白い話、期待してるわよ?」


「いや、だからそんなのねえって……」


「じゃあね、朱凛さん、黒木君。ほら、行くわよ古宮」


「お、おいこら! ったく……じゃあな、二人とも」


 最後まで賑やかに去っていく二人。あの二人の距離も相当近いよなぁ……人の事言えないけど


「じゃあ行きましょうか」


「うん、そうだね」


 そして、いつも通りに他愛もない話をしながら二人で歩く。もうこれが当たり前になってきたな……まぁ楽しいんだけどさ。

 と、そうしているといつの間にか沙原さんの家の前に着いていた。楽しい時間が過ぎるのは早いな


「じゃあ沙原さん、また明日ね。今度は寝坊しないようにね?」


「わ、分かってますよ! 今度こそ早起きして黒木君と……あっ」


「ん?」


 話の途中で沙原さんが何かに気付いたように声を上げた。どうしたんだ?


「あの、黒木君。明日も黒木君が家まで迎えに来てくれるんですか?」


「うん、そのつもりだけど……それがどうかしたの?」


「いえ、毎日迎えに来てもらうのも申し訳ないですし。今度は私が黒木君の家に行こうかと思いまして」


 ……な、なんだって!? 僕の家に沙原さんが!?


「い、いやぁ僕の家より沙原さんの家の方が学校に近いよ? だから別に気にしなくても……」


「そうなんですか? そういえば黒木君の家ってどこなんですか? ここから近いんでしょうか?」


 やばい、バレる。沙原さんの家から目と鼻の先の距離にあるマンションが僕の家ってバレてしまう


「あー、それは……」


「? じゃあ遠いんですか?」


「いや、それほど遠くもないけど……近くもないような……そうじゃないような……」


「むぅ、何ですかそれ。何か隠してませんか?」


「うっ……」


「黒木君。貴方の家はどこなんですか?」


 沙原さんが真っ直ぐにこっちを見つめながら問い詰めてくる。そして顔が近い。すぐ目の前まで顔を寄せてきてる、何この拷問、誰か助けてくれ


「あ、あそこに見えるマンションです……」


 観念した僕は白状した。すると


「あそこって……すぐ近くじゃないですか!? 早く言ってくださいよ! こんなに近いならいつでも遊びに行けるじゃないですか!」


 ああ、こうなると思ったから言わなかったのに! やっぱり家に来ようとしてるよこの娘!


「でも、これなら私が迎えに行っても大丈夫ですね。明日は私が黒木君の家に行きますから、待っていてくださいね!」


「はは……うん、分かったよ」


「ではまた明日。さようなら、黒木君」


「うん、バイバイ」


 沙原さんと別れて、一人になると僕は深いため息を吐いた


「はぁ……部屋、綺麗にしておかないとな」


 ーーこれから先、沙原さんがいつ来ても良いようにしておかないとね。あの娘の事だから、急に遊びに来ました! ってやってきても何ら不思議じゃないしね……

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