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一緒に登校

 翌朝、僕はいつも通りの時間に目を覚ましていた。制服に着替えてから、朝食を食べる


(沙原さんから連絡は……まだ来てないね)


 携帯を確認しながら昨日の彼女とのメッセージのやり取りを思い返す






『明日は私が連絡しますから、メッセージを見たら家を出てもらえますか?』


『了解。それを見たら沙原さんの家に向かえば良いんだね』


『そうです。呼び鈴を鳴らしてくれたら出ますから』


『なら、その時に沙原さんのご両親に挨拶しようかな?』


『いえ、私の家は共働きなので私が起きる頃にはもう家にいませんよ』


『そっか、残念。でもそれじゃあ沙原さんが寝坊したら起こす人がいないね』


『もう! 寝坊なんてしませんよ! 子供じゃないんですから!』


『あはは。ごめんごめん、じゃあまた明日ね』


『はい、また明日』







 こんな感じで昨日のやり取りは終わったわけだけど……さて、沙原さんからの連絡はいつ来るかな


(まぁまだ時間に余裕はあるし。ゆっくり待とうか)


 そう考えて、僕は準備を済ませた状態で待つことにした。






 ……しかし、しばらく待っても沙原さんから連絡が来ない。そろそろ時間がまずくなってきたな


(まさか……)


 沙原さんに何かあったのか? それとも……いや、まずは沙原さんに連絡だ。電話してみよう。

 そう思い、電話をかけてから数コールして……


『はぁい……誰ですかぁ……? ふあぁ……』


 沙原さんの眠たそうな声が電話から聞こえてきた。うん、これは……


「……沙原さん? もしかして今起きたのかな?」


『んぅ……? その声は……黒木君? 朝からどうしたのぉ……?』


 ああ……まだ寝惚けてるなこれは。普段と違って口調が安定していない。これはこれで可愛いけど今はそれどころじゃない


「沙原さん。今日は一緒に登校するんでしょ? そろそろ時間がまずいから連絡したんだけど」


『登校……時間……? ん~……時間、は…………っ!? え、ええっ!? も、もうこんな時間!』


 どうやら時計を見たらしい沙原さんは一気に覚醒したようだ。寝惚けた口調から一転して慌てたような声が聞こえてきた


『ご、ごめんなさい黒木君っ!! すぐに準備しますから! さ、最悪私は置いていっても構いませんので!』


「いや、まだ大丈夫だと思うよ。とりあえず、僕はもう家を出て沙原さんの家の前で待ってるよ。準備が終わったら出てきてくれれば良いから」


『ああ……! 本当にごめんなさい! 急いで準備してきます!』


 そこで電話は切れた。何となく予想はしてたけど……やっぱり寝坊か。電話して良かった、あのまま起きなかったら二人仲良く遅刻する事になっていただろう


「よし、じゃあ行くか」


 とりあえず、さっき言った通りに僕は彼女の家に向かうために家を出ることにした 







 沙原さんの家の前に着き、出てくるのをしばらく待っていると


「く、黒木君っ! お待たせしましたっ!」


 そう言いながら飛び出してきた沙原さん。そんな彼女に苦笑を浮かべながら挨拶する


「おはよう、沙原さん」


「お、おはようございます……。うぅ、ごめんなさい黒木君。昨日あんなに偉そうに言ったのに寝坊なんて……」


 僕の方を申し訳なさそうに見ながらしょんぼりする沙原さん。その姿は昨日見た時よりも子供っぽく、可哀想に見えてしまった。

 だから、僕は自然とこんな事をしてしまったんだ


「大丈夫だよ。ほら、元気出して」


「ふえっ……!?」


 彼女の髪に手を伸ばし、優しく撫でる。本当に子供を相手にするようについやってしまった。

 そんな僕に沙原さんは驚いたような声を出す


「く、黒木君……。は、恥ずかしいですよ……」


「あっ……! ご、ごめん!」


 正気に戻った僕は慌てて手を離す。その瞬間


「あっ……」


 沙原さんが小さく声を出した。恥ずかしさからか顔を赤くしながらも、名残惜しそうな声を出した気がした……


「ほ、ほら。もう行こうよ」


「は、はい……行きましょうか」


 おかしな空気を吹き飛ばすように言って、僕達は歩き出した。

 しかし、さっきの出来事のせいかお互い喋らずに歩いてしまっている。これじゃ二人で登校する意味がないな……よし


「沙原さん、今日の昼休みで良いんだよね? 例の友達に会うのって」


「あっ、はい! それで良いって言ってました」


「僕も仲良くなれたら良いんだけどね」


「ふふ、大丈夫ですって。とっても優しい娘ですから」


 うん、上手いこと空気を変えられた。せっかくだからこのまま話を続けよう


「じゃあ会うのはお昼ご飯を食べた後にしようか」


「別に一緒にご飯を食べても良いんですよ?」


「いや、流石に初対面でいきなりそれは緊張しそうだから……。終わった後でお願いするよ」


「そうなんですか? まぁ黒木君がそれで良いなら……」


 と、昼休みの予定も決まり、学校が近付いてきたタイミングで沙原さんがこっちを見て言った


「黒木君。改めて……今日は寝坊してしまってごめんなさい。明日からは頑張って起きるので……これからも一緒に登校してくれますか?」


 真っ直ぐにこっちを見ながら、少し不安そうな表情で聞いてきた。

 ……うん、そんなの答えは決まってる


「勿論良いよ。それに、沙原さんが明日からもちゃんと起きれるか心配だからね。また寝坊しそうになったら起こしてあげないとね?」


「ううっ……悔しいけど今日は何も言い返せませんね……。分かりました、私が寝坊しない為にも……一緒に登校してください」


「うん。明日からも頑張って起きるんだよ、沙原さん」


「むぅ、また子供扱い……。黒木君の意地悪……」


 そう言いながら頬を膨らませる沙原さんはまた子供のように見えてしまった。危ない、また頭を撫でたりしたら今度は嫌われるかもしれないぞ、自重しないと。

 と、思っていると沙原さんはまた顔を赤くしながら言いにくそうに


「あ、後……さっきの……えっと……」


「さっき? それって……」


「その……朝、ちゃんと早く起きれたら、ですね……あの……」


 何だ? さっきのって……まさか頭を撫でた時の事を言ってるのか……?


「も、もう一回……い、いえっ! やっぱり何でもないです! 忘れてください!」


「ええっ? どうしたのさ急に……」


「何でもないですからっ! ほらっ、早く行きましょう!」


「わっ!? ちょ、ちょっと待ってよ沙原さん!」


 突然話を打ち切り、早足で歩いて行ってしまった。そんな彼女を見て


(まさか沙原さん……また頭を撫でてほしいって言おうとしたのか?)


 ……沙原さんならあり得るかも、と思ってしまった。

 やっぱり、彼女は思った以上に子供っぽいのかもしれない。そう思いながら、僕は急いで沙原さんの後を追いかけた



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