二人きりの下校、再び
沙原さんに視線を向けられながら午前中の授業を全て耐え抜き、昼休みになる。
疲れた……普通に授業を受けるより何倍も疲れた……
「黒木、俺学食行くけどお前はどうする?」
「あ、うん。僕も行こうかな」
「んじゃ行こうぜ」
古宮君に誘われ、僕も彼と一緒に席を立つ。チラッと沙原さんの方を見てみると、彼女も席を立ってどこかに行くようだ。僕と同じように友達と一緒にお昼を食べるのかな?
二人で学食に向かい、昼食を終えると古宮君と二人で話をする
「にしても凄かったな沙原さん。朝の授業中お前の方ばっかり見てたよな」
「うん……お陰で僕は全然集中できなかったよ……」
「ははっ、贅沢な悩みだなぁおい」
はぁ、とため息を吐く僕を見て古宮君が笑いながらからかう。こっちは笑い事じゃないんだけどな……
「でもマジで沙原さんと仲良くなったよなぁ。今まで男子と一緒にいる姿なんて見たことなかったのに、お前にはすごい懐いてるよな」
「逆に今まで沙原さんに近付く男子っていなかったのかな? あんなに無防備だと変な男に絡まれそうで心配だよ」
「まぁ確かにな。でも沙原さんって女子の友達は去年からいたはずだからな。誰か周りにいてガードしてたのかもしれないぞ」
そっか。しっかりした友達が近くにいれば沙原さんが絡まれても守れていたのかもしれないね。
というか、普通に考えてあんな美少女を好きになる男子が全員奥手なわけないし、誰か守ってくれる人がいた可能性の方が高いな
「そんな人がいるなら会ってみたいな。出来れば沙原さんに男子の友達との適切な距離感を教えてくれると助かるんだけど」
「端から見たら羨ましいと思う状況だけどな。あんな可愛い娘に好かれてるんだからよ」
「全く、他人事だと思って……。それにしても、古宮君は沙原さんの事は好きじゃないの? 可愛いとは思ってるんでしょ?」
前々からちょっと不思議だった。古宮君は僕が沙原さんと仲良くなっても羨んだりも妬んだりもしない。それはつまり、古宮君は沙原さんに恋愛的な感情を一切抱いていないということだ
「あー、そうだな……。俺、一応好きな相手が別にいるからな」
「えっ、そうだったんだ! 古宮君、好きな人がいるんだね?」
「恥ずかしいからあんま大声で言うなよ? まぁそういうわけで、俺は沙原さんは狙わないから安心しな」
へえ、古宮君って一途な人なんだな……って安心って何!?
「あ、あの。僕も沙原さんを狙ってるわけじゃないんだけど……」
「いやいや、あんなにイチャイチャしておいてそれはないだろ」
「イチャイチャしてないよ!? 僕が沙原さんに振り回されてるだけだよ!」
「はは、まぁ頑張れよ」
「話を聞いてよ!」
その後、古宮君にスルーされたまま昼休みは終わってしまった……
午後の授業も変わらず……うん、午前中と変わらず集中出来ないまま終わった。もう何も言うまい。
そして、帰りのHRも終わって下校時刻となった時だった
「黒木君、今日も一緒に帰りませんか?」
沙原さんが笑顔で聞いてきた。今日も友達とは帰らない日なのかな?
「うーん、そうだね……」
チラッと古宮君の方を見る。すると、ニヤニヤしながら頷いていた。行ってこいって事か……
「分かったよ。行こうか、沙原さん」
「はい! 行きましょう」
そして、僕達は二人で教室を出るのだった
こうして、二日連続で沙原さんと下校することになったわけだが……
「沙原さん、明日は真面目に授業受けてよ?」
「無理です」
「いや、即答しないでよ。ちゃんと勉強しないとテストとか困るよ?」
「むぅ、黒木君先生みたいです」
授業中に彼女の子供っぽい姿を見たお陰か、昨日よりも緊張しないで話すことが出来ていた。今も子供みたいに膨れっ面を浮かべている沙原さんに苦笑してしまう
「もっと楽しい話をしましょうよ。せっかく学校が終わったんですから」
「楽しい話か……昨日も言ったけど僕面白い話とか持ってないよ」
「大丈夫ですよ。勉強の話をするよりは他の話をした方が絶対に楽しいですから」
おお……どんだけ勉強嫌いなんだこの娘
「あ、そういえばお昼休みの時、黒木君お友達と二人でお昼食べてましたよね?」
「えっ? うん、そうだけど」
「学食にいましたよね。実は私もいたんですよ」
「ええ!?」
そうだったのか!? ぼ、僕達の話、聞かれてないよね……?
「は、話してるの聞こえた?」
「いえ、結構離れた場所にいましたから。私も友達と一緒でしたし、遠くに座ってるのがチラッと見えただけでしたから」
良かった……古宮君に色々愚痴ってたの聞かれてたのかと……
「一緒にいたのって黒木君の右側に座ってる男の子でしたよね。仲が良いんですか?」
「うん、今のクラスになって初めて会ったんだけど話しやすくてさ。そのおかげですぐに仲良くなれたよ」
「そうなんですか。でも、友達になれたのは黒木君の人柄が良かったからかもしれませんよ?」
「そうかな? 僕は至って普通の人間だと思うけど」
「ふふっ、黒木君はとても話しやすいですからね。私達が友達になれたのも黒木君の人柄のおかげかもしれませんね」
そう言って僕に笑いかける。……な、何だか照れ臭いな。人柄が良いなんて言われたのは初めてだよ
「そ、そうだ。沙原さんも友達と一緒にいたんでしょ? どんな人なの?」
照れ隠しに話題を変える。ま、まぁ沙原さんの友達がどんな人なのか気になるのは本当だしね
「はい、去年同じクラスにいた娘なんです。他にも学校で話す女の子の友達はいたんですけど、休みの日に一緒に遊びに行ったりしていたのはその娘だけでしたね」
「そうなんだ、親友ってやつかな?」
「親友……ふふ、そうかもしれませんね。クラスが変わっても仲良くしていますし……」
嬉しそうに話す沙原さん。その姿を見るだけでその友達の事を大事に思っているのが分かる。
と、その時沙原さんが何かを思いついたように手を合わせた
「そうだ! 明日、黒木君もあの娘に会ってみませんか? とっても良い娘なのできっと仲良くなれますよ!」
「えっ? うーん、そうだね……」
沙原さんと去年から仲が良かった友達か……どんな人か気になるけど、急に僕が会っても嫌がらないだろうか? 友達の友達っていう微妙な関係だし……
「じゃあその娘が良いって言ったら会うよ。いきなりだとびっくりするだろうしね」
「分かりました。多分大丈夫だと思いますけど……一応聞いてみますね」
うん、先に確認しておいた方が相手も助かるだろう。嫌だったら断れば良いしね
「あっ、もう着きますね」
「話してたらあっという間だったね」
気づいたら沙原さんの家が見えてきていた。なんだかんだ言っても沙原さんと話してるのは楽しいから時間が過ぎるのが早く感じる。
家の前に着くと、沙原さんはこっちを見て言った
「黒木君、明日は一緒に登校ですからね! 忘れていませんよね?」
「もちろん覚えてるよ。沙原さんも寝坊しないように気をつけてね」
「む、大丈夫ですよ。ちゃんと目覚ましかけますから」
大丈夫かな。沙原さんが意外と子供っぽい所があるって事を知ってしまったからか不安になってしまう。
いや、流石に子供扱いし過ぎか。きっと大丈夫だろう……多分
「はは、じゃあ信じるよ。また明日ね」
「はい。気を付けて帰ってくださいね」
昨日と同じように笑顔で手を振る沙原さんに僕も手を振り返す。
そんな彼女と別れて、僕も家に帰る。そして、しばらくして
『さっきの話、友達に聞いてみました。良いって言ってくれましたよ』
沙原さんからメッセージが届く。……そうか、相手が良いなら会ってみようかな
『分かった。じゃあ明日、会わせてくれるかな?』
『勿論です! 明日のお昼で良いですか?』
『了解。どんな人か楽しみにしてるよ』
『はい! 楽しみにしていてくださいね!』
ーーこうして、明日は沙原さんの友達に会うことになった。まぁその前にまずは沙原さんと一緒に学校に行くっていうイベントをこなさないとね