表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/32

大人になりきれない

「ーーーはっ!?」


 気が付くと、僕は教室の自分の席に座っていた。いつの間に……?

 えーっと、僕はどうしたんだっけ? 確かいつものように朱凛ちゃんと登校して教室に着いてから……


「れ、廉君……? 大丈夫ですか……?」


 左側の席から朱凛ちゃんの心配そうな声が聞こえる。大丈夫だよ、と伝えようと彼女の方を向く


「うん、大丈夫……っ!? じゃないかも!」


「ええっ!?」


 朱凛ちゃんを見てさっきまでの記憶が復活してしまった! そうだよ、僕この娘に思いっきり抱きつかれてたんだ! その感触も完璧に思い出しちゃったよ……!! 駄目だ、朱凛ちゃんにこんな感情を向けちゃいけない!


「あ、朱凛ちゃん。悪いんだけれど今日はあまりこっちを見ないでくれると助かるかも……」


「そ、そんなの嫌です! 廉君とお話する為に学校に来てるのに!」


「いや、勉強もちゃんとしなよ」


 あんまりな発言に思わずつっこんでしまった。ただし明後日の方向を見ながら


「むぅ、こっちを向いてください。廉君の顔が見たいです」


「ごめん待って。まだ無理だから」


「ま、またくっつきますよ? 思いっきりぎゅーって!」


「何て脅しをかけてくるんだ君は!?」  


 また気絶するぞ!? 本当にこの娘は……もっと自分の魅力を理解してほしいんだけど……!


「ほら、もう授業始まるから。この話はまた後で……」


「授業なんてどうでも良いです。廉君、こっちを見て」


「良くないからね!? 何て不真面目な事を!」


「お説教するならこっちを向いて言ってくださいっ!」


「ぐっ……!」


 と、話が平行線になり、いつまでも続きそうだと思っていると……。


 ーーーキーンコーン


「「あっ」」


「時間切れだな。二人とも、そこまでにしとけ」


 チャイムが鳴り、古宮君が苦笑しながら言ってきた


「むぅー……廉君の意地悪」


「ごめんって……授業が終わる頃には何とかするから」


 そう言って、僕は正面を向いて授業を真面目に受けることにした。それと同時に、いやらしい感情を頭から追い出すことも。

 ……どうでも良いけど、左側からはずっと不満そうな視線を感じていた。人の気も知らないで……朱凛ちゃんは本当にもう……。








 そして時は流れ、昼休みの時間


「……ということが朝からあったんだよ」


「うちのクラスは朝から賑やかだったぜ、ははっ」


「なるほどねぇ……ふふっ、黒木君も大変だったわね」


 いつものように合流した桜良さんに朝の出来事を話すと、楽しそうに笑いながらそう言った。笑い事じゃないんだけどなぁこっちは。

 そして、僕を大変な目に合わせた張本人である朱凛ちゃんは……


「ふふ、少しはしたなかったですね。……あの時はごめんなさい、廉君」


「う、ううん。それはもう良いけど……」


 ……何故か清楚な雰囲気全開の大人モードだった! 周りの生徒達もその姿に見惚れている


「しかし……何度見てもその状態の沙原さんのオーラはすげぇな。見た目は変わらないのに普段よりかなり大人びて見えるって言うか……」


「ええ、相変わらず切り替えが上手いわね。でも、今日はどうしたの? 最近はお昼の時間は素の状態だったじゃない?」


 僕が気になっていた事を桜良さんが聞いてくれた。正直、今の僕はガチガチに緊張しているから聞いてくれて助かった。

 すると、沙原さん……じゃない、朱凛ちゃんは笑顔で答えた


「昨日はここで子供みたいに大きな声を出してしまいましたから。私もしっかりとした大人だという姿を皆さんに見せないといけないと思いまして」


「ああ、なるほどね。昨日は凄かったものね……朱凛さんと、黒木君も」


「うっ……改めて言われるとちょっと恥ずかしいね」


 こんな大勢の生徒がいる中であんな……『隣にいてよ』だなんて。頭に血が上っていたとはいえ、よく言えたよなぁ


「恥ずかしくなんてありませんよ。私は嬉しかったですよ、廉君にああいう風に言ってもらえて」


 にっこりと笑いながら僕に言う沙原さ……朱凛ちゃん。

 ……不味い、大人モードの状態で下の名前で呼ぶのってこんなにハードル高いのか。雰囲気に圧されて気軽に呼べない、どうしよう。さっきまで普通に呼べてたのに。

 僕が内心焦っていると


「廉君? どうかしましたか?」


 様子がおかしいと思った沙原さんが声をかけてきた。心配させない為に、僕は笑顔で答える


「いや、何でもないよ沙原さん」


「そうですか。…………は?」


「あっ」


 やばいっ! 名字で呼んじゃった!

 やってしまったと思った時には既に遅い。隣の彼女の笑顔が無表情に変わり、追及が始まった


「……『沙原さん』? 名前で呼んでって言いましたよね? 何で戻ったんですか」


「ご、ごめん! ついうっかりして……!」


「なら私も戻しますよ。黒木君って呼び方に」


「えぇ!? そんな! わざわざ戻さなくても……」


「ーーー先に戻したのは廉君じゃないですかっ! 朱凛ちゃんって呼んでくれてたのに!」


「あ。朱凛ちゃんだ」


「何で急に!? さっきまで呼べてなかったのに!?」


「いや、さっきまでは君の雰囲気に呑まれてたから。普段の君なら大丈夫だよ」


「さっきまで? …………はっ!? こ、こほん」


 言い合いを続けた結果、朱凛ちゃんの大人モードは解除されてしまった。僕は助かったけど、朱凛ちゃんは慌てた様に咳払いをして


「ーーー廉君。名前呼びに戻せそうですか?」


「っ……う、うん。朱凛ちゃん」


 再び大人びた雰囲気を纏った彼女に、何とか答える。

 やっぱりドキッとはしてしまうけれど、さっきまで子供っぽい朱凛ちゃんをみていたお陰で緊張が和らいでくれた。これなら大丈夫だ……!


「……はぁ。今の状態の私にも緊張しないでいてくれると助かるんですけど」


「うっ……ど、努力します……」


「ええ、頑張ってくださいね」


 柔らかな笑みを向けられながらもしっかり目を合わせる。朱凛ちゃんの言う通り、早く慣れないと。

 と、僕が決意を固めながら朱凛ちゃんと向き合っている前で


「おお、黒木のやつ頑張ってるな」


「ええ。朱凛さんのあの雰囲気に呑まれないようにしているわね」


「しかし、沙原さんのあの清楚なオーラはマジですげえよな。可愛いのに大人びてるっていうか……」


「……ちょっと。何鼻の下伸ばしてるのよ古宮の分際で」


「伸ばしてねえよ! っていうか何だ分際って!」


「うるさい。口答えするんじゃないわよ」


「ぐっ……子供っぽい奴め」


「何ですって?」


 目の前で子供みたいな言い合いが始まった。この二人も相変わらず仲が良いなぁ


「……ふふっ、何だか雪実ちゃん達を見ていると子供っぽいままでも良いのかもって思ってしまいますね」


 清楚な笑顔でそう言う朱凛ちゃん。うん、確かに今の君は子供っぽさなんて欠片も感じないけれど……僕は子供っぽい状態の彼女も……

 

「……魅力的だと思うけどなぁ。普段の朱凛ちゃんも」


「えっ……!? れ、廉君今何て言いました?」


 …………口から出てた!? 何を言ってるんだ僕は!?


「な、何も言ってないよ?」


「嘘ですっ! もう一回言ってくださいっ!」


「……おっと。そろそろお昼休みも終わりだね。教室に戻ろうか」


「あっ! ちょっと廉君っ! 逃げる気!?」


 あーあー、聞こえません。

 僕はそのまま席を立ち、急いでその場を離れる。すぐに朱凛ちゃんが追いかけてきたけど、何とか追及を逃れるのだった。

 ……あれ、何か忘れてる気が。







「ったく、なんでお前は俺の前だといつも……」


「ふんっ、何よばか」


「んだとぉ!? ……ってあれ? 黒木と沙原さんは?」


「へ? ……いないわね」


「あいつら何も言わずに帰りやがったな!?」


「みたいね。私達も戻りましょうか、お昼休みが終わってしまうわ」


「お、おう。急に大人っぽくなったな桜良……さっきまでのが嘘みたいだぜ」


「何よ、私はいつも……いえ、やめましょう。このままじゃ一生終わらないし」


「ははっ、そうだな。んじゃ戻って一言文句でも言うか」


「もう……悪いのは私達の方よ」


 ーーーその後、お昼休みギリギリに戻ってきた古宮君によくも置いていきやがったなーって文句を言われながら頭をわしゃわしゃされるのでした。ごめん、本当に忘れてた……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ