嫉妬する彼女
朱凛ちゃんの小悪魔な雰囲気に翻弄されながら学校に到着した。二人で一緒に教室に入ると、いつも通りに……
「おはよう二人とも~。今日も仲良しだねぇ」
一番前の席に座っている彼女……葵さんが笑顔で迎えてくれた。毎日当たり前のように挨拶を交わしていたけど、名前を知ったのは昨日なんだよね
「おはよう、葵さん」
「おはようございます。そして、私達は毎日仲良しですよ。ね、廉君?」
「あはは……そうだね」
そう堂々と言われると照れ臭いな……と苦笑した僕だったが、僕達の会話に葵さんが目を輝かせた
「えっ! いつの間に名前呼びに!? 昨日までそうじゃかったよね!?」
あ、そっか。ちょっとずつ慣れてきてたけど僕達の名前呼びも昨日からだったね
「昨日の放課後からだよ。色々と話した結果こうなったんだ」
「おお……! 二人の仲がまた深まったんだねぇ……! いいねぇ、あたしは嬉しいよ~」
何故か葵さんがうんうんと頷きながら喜んでいる。何で君がそんなに喜んでいるんだ……?
「黒木君もやる時はやるんだねぇ、このこの~」
「わっ。ちょ、ちょっと葵さん……」
うりうりと言いながら葵さんが僕の顔を突ついてくる。
恥ずかしいなぁと思っていると……
「むっ……昨日仲良くなったばかりなのに随分と距離が近くないですか二人とも」
どこか不機嫌そうな表情で朱凛ちゃんが言った。
いや、君がそれを言うのか。出会って初日で連絡先を教えるくらい距離をガンガンに詰めてきた君が。まぁ今そんな事を言ったら余計に拗ねちゃいそうだから言わないけど
「あはは~、黒木君ってからかうと面白いから……ついやっちゃった~。ごめんね?」
「いや、別に良いけどさ……」
別にこんな事で怒ったりはしないけど……むしろ、僕より朱凛ちゃんの機嫌の方が悪いような?
「……廉君、デレデレしないで」
「し、してないよ!」
「ふんっ」
ど、どうしたんだ一体!? 今回ばかりは何で朱凛ちゃんがこんなに怒っているのか分からないぞ!?
「あれぇ……? もしかして沙原さん」
僕が困っていると葵さんが何かに気が付いたように目を輝かせた
「あたしと黒木君が仲良くしてるのを見て嫉妬しちゃった?」
「っ!?」
「……え!?」
思わず朱凛ちゃんの顔を見ると、彼女はビクッと震えてから顔を赤くした
「そ、そんな訳無いじゃないですかっ! わ、私は嫉妬なんてしませんよ! そもそも私の方が廉君と仲良しですっ! ねぇ廉君っ!?」
「は、はいそうですね!」
朱凛ちゃんの迫力が凄すぎて思わず返事してしまった。今日の朱凛ちゃん、何だか怖い……。
そんな僕達を見て、葵さんは笑いながら
「あはは~! 大丈夫だよぉ。あたしは誰が相手でもこんな感じだしさ。沙原さんから黒木君を取ったりしないって~!」
「わ、私はそんな取られるなんて……そもそも廉君は私のものでは無いですし……」
「もう、沙原さんってば素直じゃないなぁ~。そんな事言うなら本当にあたしが貰っちゃおうかなぁ?」
「えぇっ!? あ、葵さん!?」
葵さんが本気じゃないのは彼女のニヤニヤした表情を見れば明らかだけど、女の子に初めてそんな事を言われて動揺してしまう。こ、これがモテ期ってやつか……!?
「っ!! だ、駄目ですっ! 廉君は私のっ!」
その瞬間、朱凛ちゃんが大きな声を出しながら僕の腕に思いっきり抱きついて……?
「!?!?!?!? あ、あ、朱凛ちゃんっ!? う、腕っ! は、はな、離れて……」
「やっ! 絶対離しませんから!」
「おぉー! 沙原さんやるぅ~!」
前にも似たような事があった気がするなぁ、と現実逃避をしようとしたが無理だこれ。柔らかいし良い匂いするし朱凛ちゃん可愛いしどうしようどうしようどうしよう……。
ーーーああ、もう駄目だぁ……
「ありゃ、黒木君真っ赤になって固まっちゃった」
「よう、中野さん。そろそろ限界みたいだし黒木を助けても良いか?」
「あ、古宮君おはよ~。もう、葵ちゃんって呼んでくれて良いのに~」
「ははっ、まぁ気が向いたらな。おーい沙原さん? そろそろ黒木を離してもらえるか?」
「こ、古宮君まで私から廉君を取るんですか!? あげませんよ!」
「まぁまぁ落ち着けって。黒木の奴、気絶してるぞ?」
「え……わぁ!? 廉君!? どうしたのそんな顔真っ赤にして!?」
ーーー君のせいです。
それが僕が完全に意識を失う前に最後に思った事だった