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耐性を付けましょう

 皆で出かけた日曜日が終わり、月曜日がやって来た。いつものように、僕は沙原さんと登校する。

 ……しかし、今日はいつもとちょっと違う


(沙原さんは……もうすぐ来るな。よし……!)


 今日は僕の家に沙原さんが来るパターンだ。なので、彼女が来るのを待っている。……緊張しながら。

 何故今更そんなに緊張しているのかというと、それは昨日の夜に彼女と交わしたメッセージのやり取りまで遡る。









『沙原さん、今大丈夫?』


 僕がそう送ると、すぐに返信が返ってきた


『大丈夫ですよ。どうかしましたか?』


『明日、朝の登校中だけでも良いから例の大人モードで僕に接してくれないかな?』


『良いですけど……黒木君、大丈夫なんですか?』


 メッセージだから声とかは聞こえないけど……きっと不安に思っているだろう。何しろ前の時は登校中に一言も話せなかったから。でも……!


『うん、大丈夫。少しは僕も耐性を付けないといけないからね』


 今日沙原さんとはぐれて再会した時。あの時の沙原さんは清楚な雰囲気を纏っていたけれど、僕は彼女を心配する気持ちでそのまま手を繋ぐ事ができた。つまり、やろうと思えばやれるはずなんだ……! あの状態の沙原さんと普通に接する事だって!

 少しして、彼女から返信が返ってきた


『分かりました。では、黒木君のお家に行く時から大人っぽく振る舞いますね』


『うん。お願いするよ』


『ちゃんとお話しましょうね。無言はもう嫌ですよ?』


『頑張るよ。じゃあまた明日ね』


『はい、また明日です』


 ……こうして、沙原さんとのメッセージのやり取りは終わった。









 そして今日。昨日お願いした通りに沙原さんは……。

 と考えているとピンポーン、と呼び鈴が鳴った


(来た……! よし……)


 僕は深呼吸をしてから鞄を持って立ち上がる。

 玄関のドアを開ける。すると、そこには……


「ーー黒木君。おはようございます」


 子供っぽさなんて一切感じない、清楚で大人びた美少女が立っていた


「っ……! お、おはよう!」


 見惚れてしまいそうになる自分に活を入れて、何とか挨拶を返す。少し声が大きくなっちゃったけど……


「ふふっ……はい、おはようございます。では行きましょうか」


「う、うん。行こうか……!」


 平常心を心がけながら、僕は沙原さんの横に並んで家を出て……


「……黒木君? 鍵、かけ忘れてますよ?」


「えっ!? あっ……!」


 沙原さんに真顔で指摘される。しまった、何て不用心な!


「泥棒に入られたら大変ですよ」


「……はい、かけてきます」


 うう……僕が悪いんだけど真顔の沙原さんって怖いな……見慣れないせいで変な迫力があるよ。

 そして、鍵もかけてようやく準備が終わった


「よし。じゃあ今度こそ……」


「ええ。行きましょう」


 今度こそ出発する。いきなり出鼻を挫かれたけど……せめて会話はしないと


「沙原さん、昨日は楽しかったね」


「そうですね。途中迷惑をかけてしまいましたが……それでも、楽しかったです」


「迷惑だなんてそんな。あれは僕が……ってこの話は昨日終わったんだったね」


「ふふ、そうでしたね」


 おお……! 普通に会話できてる! 未だに沙原さんのお淑やかな微笑みにはちょっとドキッとするけど……うん、ちゃんと話せてるぞ!


「黒木君。昨日の話はお昼に皆で集まった時に話しましょう?」


 これは……続きは素の状態で話したいって事かな? 仕方ない、この話題はここまでにしよう


「分かったよ。じゃあ続きは後でだね」


「ええ、そうしてくれるとありがたいです。……あ、でも一つだけ」


「ん?」


 ここで、沙原さんが足を止める。何だろうと思って僕も止まると、彼女はこっちを真っ直ぐ見つめて……


「昨日は本当に……黒木君がいてくれて良かったです。私を探しに貴方が来てくれて、とても安心しましたから。だから改めて……ありがとうございました」


 そう言って沙原さんが笑顔をこっちに向けた……その瞬間


「……っ!」


 思考が吹き飛び、ただ彼女の笑顔に釘付けになる。清楚な雰囲気の学校一の美少女の微笑みが僕だけに向けられる。

 ……やばい。へ、平常心を……!


「そ、そんな。僕なんて何も……は、はは……!」


「黒木君……?」


 こんなに近くで最上級の綺麗な笑みを向けられた僕は、気付けば後退りを始めていた。

 いや、無理だって! 緊張するなって言われても無理だよこんなの! 平常心? どっか行ったよそんなの!


「さ、さぁ早く学校に行かなきゃね! よーし! 急いで行こう!」


「…………黒木君」


 これ以上は無理だと悟り、僕は撤退する事にした。よし、このまま学校までダッシュしよう、そうしよう!


「僕、先に行ってるね! せーの……!」


「ーーもう! 黒木君っ! 全然駄目じゃないですか! 走り出そうとしないでくださいっ!」


「はっ……!? ぼ、僕は何を……!?」


 沙原さんの清楚な雰囲気が消えて、プンプンと怒る。その姿を見て僕は正気に戻る


「えっ? 僕、今何しようとしてた……?」


「学校までダッシュしようとしてました! さっきまで普通に話せてたのに……もうっ!」


「う、嘘でしょ……?」


 何だ、唐突に学校までダッシュって。完全に頭がおかしいじゃないか、さっきまでの僕


「ごめん、沙原さん……。途中までは上手くいってたんだけど」


 僕が謝ると、沙原さんもため息を吐いて


「はぁ……もっと耐性を付けないと駄目みたいですね」


「で、でも最初は大丈夫だったよね? 僕、ちゃんとしてたよね?」


「……家の鍵をかけ忘れてた人が何言ってるんですか」


 沙原さんがジトーっとした目でこっちを見てくる。ぐっ……これには何も言い返せないな


「とにかく。今日はここまでにしましょう。というわけで……」


 と、沙原さんが突然手を差し出してきた。……うん?


「ほら、いつもみたいに手を繋ぎましょうよ。今の私なら大丈夫でしょ?」


「ああ、そういうことか。うん、良いよ」


 僕が彼女の手を握る。最近、手を繋ぐ事に抵抗が無くなってきたな。これは良い事なのか……?


「えへへ……じゃあ行きましょうか」


 さっきまでとは違う子供っぽい無邪気な笑みを向けてくる。魅力的なのは同じだけど……今は緊張もしない、僕の好きな空気だ


「うん。行こうか、沙原さん」


 ーーその後は、二人で穏やかに話しながら登校した。

 あの大人びた沙原さんとも普段から手を繋げるようになれたら良いんだけど……今の僕にとってはそんなの夢のまた夢だ。もっと頑張らないと……!

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