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終わりよければ

 桜良さんの連絡を聞き、僕達はお昼を食べたレストランに向かって歩いていた。沙原さんと二人、手を繋いだまま


「あっ、もうすぐ着きますよ」


「二人ともいるかな? 近くにいるとは言ってたけど」


 そのまま歩こうとした時だ。沙原さんが足を止めてこっちを見つめてきた


「……手、離しますか?」


 ……朝、手を繋いだ時は古宮君達と合流するまでって言ったのは僕だ。だから、気を遣ってこう言ってくれたんだろう。

 ……でも


「いや、このままで良いよ」


「えっ……良いんですか?」


 沙原さんが驚いたような声で聞く。そんな彼女に、僕は笑いながら答えた


「うん、僕が繋いでいたいんだ。駄目かな?」


 すると、沙原さんもパッと笑顔になった


「駄目じゃないです! 私もこのままが良いです!」


「よし、じゃあこのままで」


「はい! えへへ……嬉しいな」


 ……はは、僕も嬉しいよ。今は照れ臭くて言えないけど、心の中でそう返す。

 そして、僕達は手を繋いだまま真っ直ぐ目的地に向かって歩き出した。








「……おっ、二人とも来たぜ」


「ああ、良かった。やっと合流できたわね」


 僕達がレストラン前に到着すると、こっちに手を振る古宮君とホッとしたような顔でこっちを見る桜良さんの姿があった


「ごめんなさい、二人とも。心配させてしまって……」


「僕もごめん。桜良さんに連絡するのが遅れちゃって」


 僕達が謝ると、桜良さんは優しく微笑んだ


「ふふ、さっきも言ったでしょう? 何事もなかったならそれで良いのよ。これからは気をつけてね?」


「はい! ありがとうございます、雪実ちゃん」


 桜良さんに笑顔を返す沙原さん。そんな二人の姿を見守っていると


「へぇ、やっぱり沙原さんにはこういう対応するんだな。確かに今はちょっと大人っぽく見えるぜ、桜良のやつ」


 古宮君が腕を組みながら言う。それを聞いた桜良さんがジトーっとした目で彼を見る


「……何よ。古宮にもこんな感じで接しろって言うつもり?」


「んなこと言わねえって。俺は子供っぽいお前の方が慣れてるしな」


「……あっそ。なら、遠慮なく」


 そう言うと、桜良さんは古宮君の手を掴んだ。突然手を掴まれた古宮君が少し顔を赤くしながら


「な、何だよ急に!」


「朱凛さん達だけ手を繋いでズルいじゃない。私達も同じようにしましょう?」


「……し、仕方ねえな」


 ……はは、そんな事を言ってるけど……。古宮君、凄く嬉しそうだ。好きな人と手を繋げて喜ばない人はいないよね


「じゃあ行きましょうか。私の知ってるお店はあっちよ」


「はい、行きましょうか。ほら、黒木君?」


「あ、うん。行こうか」


「古宮も。早く行くわよ?」


「わ、分かったから引っ張るなって……」


 それぞれ女の子に手を引っ張られる僕達。目を合わせて、笑い合う。前にもこんな事あったなぁ。

 そのまま僕達は歩いていった、目的のお店に向かって。









 その後、桜良さんの言っていたお店に到着した僕達は……


「さぁ、入りましょうか。今日は何を買おうかしら」


「楽しみですね。では、行きましょう」


「うん、楽しんでおいで。僕は外で待ってるよ」


 女性服の専門店に男の僕が入っても邪魔になるだろうと思い、外で待とうとする。

 ……しかし、何故か沙原さんが手を離してくれない


「黒木君も行きましょうよ。一緒に服を選んでください」


「え、ええっ!? 僕、女の子の服を選んだ事なんてないよ!?」


 とんでもない提案に僕は首を横に振る。というか、僕なんかが沙原さんみたいな美少女の服を選ぶなんて……! 無理無理! そんなの無理だよ!


「良いんですよ。黒木君の選んでくれた服を着てみたいんです。駄目ですか?」


 ……ああ、僕はこの目に弱いんだ……! 沙原さんの上目遣いに弱いんだよ畜生……!


「……分かったよ。あまり期待しないでね」


「ふふ、はい。黒木君がどんな服を選んでくれるか楽しみにしていますね」


「は、ハードルを上げないでよ……!」


 そんな話をしていると、古宮君が苦笑しながら言ってきた


「ははっ、諦めろ黒木。俺は毎回桜良に付き合ってるんだからよ」


「何よ、不満なの? 貴方の選んだ服、私毎回買ってるじゃない」


「毎回選ぶのも大変なんだぞ? 気に入らなかったらどうしようとか考えるしさ」


「……そう。真剣に考えてくれてるのね?」


「そりゃまあ、な。お前、休みの日とか俺の選んだ服着てくる事多いし……変な服選ぶわけにいかねえだろ」


「ふふっ……なら、今日も真剣に選んで頂戴ね? 私の為に」


「ったく……」


 ……あの、何か気が付いたら二人だけの世界に入ってる気がするんだけど。僕が割り込む余地がないんですけど……


「ほら二人とも。そろそろお店に入りましょうよ」


 そんな二人に容赦なく突っ込む沙原さん。凄い、僕には真似できないや。声をかけられた二人もハッとしたような顔になる


「そ、そうだな! 悪い悪い!」


「ご、ごめんなさいね二人とも。つい話し込んじゃって……」


 少し申し訳なさそうな二人に気にしないで、と言ってから僕達はお店に入った。……うん、凄い場違いだな。周りに女の人しかいないし


「うーん……どれにしましょう……」


 隣に沙原さんがいてくれて良かった。これなら女の子の付き添いだと思ってもらえるだろう。

 僕がボーッと沙原さんが服を選ぶのを眺めていると


「黒木君はどんな服が良いと思いますか?」


 こんな事を聞かれてしまった。ぼ、僕が選んでも良いのだろうか、本当に?


「そうだね……」


 とはいえ、聞かれたのに考えないのも失礼だと思い、僕も服と沙原さんを見ながら考える


(こういう清楚な服はやっぱり似合うよね……ん、でもこれも悪くないかも。スポーティーな服も着こなせそうだな……。あっ、これも似合いそう……!)


 沙原さんのような美少女ならどれを着ても似合いそうだな……。そう思いながら服を見ながら沙原さんを見つめていると


「あ、あの黒木君? 悩んでくれてるのは嬉しいですけど……あんまり見られると恥ずかしいですよ……」


「あっ! ご、こめん!」


 しまった、ジロジロ見すぎたか。これ以上時間をかけるのも申し訳ないし、そろそろ決めよう


(よし、じゃあこれに……うっ、でもこれも悪くないんだよな……あぁ、どうしよう……!)


「……黒木君、凄く真剣に悩んでくれてますね。ちょっと恥ずかしいけど……ふふっ」


 ……結局、僕が選んだ服を沙原さんは買った。清楚な彼女に似合いそうな白いワンピースだ。満足して買ってくれたみたいで、僕はホッとするのだった。










 ーーその後、桜良さんの服選びも終わる頃には夕方になっていた。施設を出た僕達は帰り道を歩く


「今日は楽しかったわね。美味しいドーナツも食べられたし、買い物も出来たしね」


「今日もいっぱい買いやがって……荷物持ちも楽じゃないぜ」


 そう言う古宮君の片手には桜良さんの買った服が入っている紙袋が握られている。……ちなみにもう片方の手は桜良さんが握っている


「今日は私も持ってるんだから文句言わないの。ほら」


 そう言って桜良さんも片手に持っている紙袋をヒラヒラと振って見せる


「別に両方とも持っても良かったんだぜ?」


「駄目よ、それじゃ手を繋げないじゃない」


「お、おう……」


「……変な勘違いしないでよ。これは貴方が困る顔を見たいから繋いでいるだけなんだから」


「……へっ、そうかい」


 ……甘酸っぱい! 二人して何青春してるのさ! 僕達が一緒にいること忘れてるよね!?


「黒木君? 急に手に力が入りましたけど……どうかしたんですか?」


「……いや、何でもないよ」


 無意識に力が入ってしまったみたいだ。すぐ隣の二人の空気を浴びたせいだ、きっと。

 そうして歩いていると、いつもの別れ道にたどり着いた


「私達はここまでね。じゃあね、二人とも。また明日学校で会いましょう」


「じゃあな。同じくまた明日、だな!」


「うん、じゃあね二人とも。今日は楽しかったよ」


「また明日です! 今日はありがとうございました!」


 手を振って二人と別れる。そして、沙原さんと二人で再び歩く……手を繋いだまま


「黒木君。今日は色々と迷惑をかけてしまってごめんなさい」


 突然、沙原さんが謝ってきた。迷惑……はぐれた時の事かな。あれは沙原さんが悪いわけじゃないのに


「謝らなくて良いんだよ。あの時は僕も気を付けるべきだったんだから」


「そんな! 黒木君は何も悪くありません。私がはぐれたのが原因なんですから」


「そんな事はないさ。僕にも責任はあるよ」


「いえ、私が……!」


「いや、僕だって……!」


 そのまま、しばらく顔を見合わせる。……少しして


「……ぷっ。ははっ……!」


「ふ、ふふっ……! あははっ!」


 お互いに笑ってしまった。全く……僕達は何をやってるんだか……!


「もう……お互い悪かったって事で良いんじゃないかな?」


「ふふっ……そうしましょうか。このままだと話が終わりませんからね」


「沙原さんが折れてくれないからね」


「黒木君の方こそ! 強情なんですから」


 話が纏まって笑い合っていると、沙原さんの家に到着していた


「黒木君。色々ありましたけど……今日は最高に楽しかったです!」


「僕もだよ。楽しかったならそれで良いじゃないか、終わりよければすべてよしだよ」


 僕がそう言うと、彼女はにっこり笑って……


「そうですねっ! また遊びに行く時は……今度は最初から手を繋いで行きましょうね?」


 そんな提案に、僕も苦笑しつつも頷いた


「はは……分かったよ」


「ふふ、約束ですからね! じゃあ黒木君、また明日!」


「うん。またね、沙原さん」


 笑顔で別れる僕達。沙原さんに手を振ってから、僕も家に向かって歩く。

 ーーうん、本当に今日は色々な出来事があったけど……良い日曜日だった。また、皆で遊びに行けたら良いな

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