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離さない、絶対に

 皆で選んだドーナツを食べて、僕達は大満足していた。

 僕と沙原さんは勿論、ドーナツ好きの二人も……


「いやぁ美味かったな! やっぱりドーナツは良いよなぁ」


「このお店は素晴らしいわね……! 味は勿論だけれど、見た目も美しくて、可愛らしくもあって……!」


「ふふ、美味しかったですね。私も満足しました」


 皆が嬉しそうにしてくれて良かった。最初にこのお店が出来たって紹介したのは僕だからね。密かに満足してもらえなかったらどうしようと思っていたけど……ホッとしたよ


「また来たいね。レストランに続いてこのお店も当たりだったし」


「その時はまた皆で、ですね」


「うん、そうだね」


 さて、じゃあそろそろ……


「皆、そろそろ移動しようか。次はどこに行く?」


 僕が聞くと、桜良さんがそれならと声を上げた


「私は服を見に行きたいわね。今日は荷物持ちもいるし」


「おい、こっちを見るんじゃねえ。ったく……ほどほどにしろよ?」


 ため息を吐きながらも古宮君は少し嬉しそうだ。好きな人に頼られるのが嬉しいのかな?


「雪実ちゃん、どこのお店に行きたいんですか?」


「前に行った時に気に入ったお店があるの。案内するから着いてきてくれるかしら」


 桜良さんの提案に従い、僕達は店を出た。

 四人で移動しようとしていたのだが……どうやらこの辺りは人が多いみたいだ


「おお、すげぇ人混みだな」


「日曜日な上に、新しく出来たお店が近くにあるものね。この辺りは人が集まりやすいのよ」


「ですね。早く抜けちゃいましょうか」


「うん、行こうか皆」


 というわけで、お店を知っている桜良さんを先頭に僕達は人混みを抜けようと前に進む。

 ……そういえば前に沙原さんと二人で来た時もこんな事があったな。確かあの時初めて手を……


(……流石に今は無理かな)


 あの時と同じようにしようかと思ったけど、古宮君と桜良さんの前だし……。

 と、僕が思っていると人混みは抜けたようで、人が減ってきた


「もう少しね。皆、大丈夫?」


「おう。これくらいどうってことねえよ」


「僕も大丈夫。沙原さんは……」


 ……そこで、僕は気が付いた。

 ーーー隣にいた沙原さんがいなくなっていた事に


「っ!? 沙原さん!?」


「えっ!? 朱凛さん、いないの!?」


「マジか!? さっきの人混みではぐれちまったんじゃ……!」


「っ……!」


 僕のせいだ。隣にいたのに、一番近くにいたのに。

 ……はぐれないように手を繋いであげることも出来たのに!


「僕、捜してくる!」


「あっ、おい黒木!?」


 古宮君の声に振り向かずに、僕は再び人混みの方に向かって走り出した


「黒木君っ! 朱凛さんを見つけたら連絡して!」


「分かった!」


 桜良さんに返事だけして、僕は走る。しかし、人が多い所からは無理に動く事も出来なくなり、焦りながらも視線を動かす。沙原さんがどこかにいないか捜す為にだ


「沙原さん……一体どこに……!」


 人混みの中をキョロキョロしながら懸命に捜す。……駄目だ、見当たらない……!


「くそっ……ん?」


 その時だった。人混みから少し逸れた場所に男の人が二人立っている姿が見えた。

 こっちからは後ろ姿しか見えないけど……誰かに話しかけているようだ


(……まさか)


 確信は無かったけど、妙な胸騒ぎを覚えた僕はそっちの方に向かって歩き出した


(沙原さんはとても容姿が良い。そんな娘が一人で歩いていたら……)


 彼らに近付くと、話している内容が聞こえてきた。

 ……そして、彼らが話しかけている相手の姿も


「一人で暇ならさ。良かったら俺達と遊ばない?」


「そ、そうそう! 退屈はさせないからさ! どう!?」


「えっと、ごめんなさい。私、一人で来たわけでは無くて……」


 僕の予想は正しかった。そこにいたのは……男の人二人にナンパされている沙原さんだったんだ。

 それを見て、僕は瞬間的に声を上げていた


「ーーー沙原さん!」


「ん?」


「あっ……!」

 

 すると、男の人達は振り向き、沙原さんはこっちを見て目を見開いていた


「黒木君!」


 僕の姿を確認すると、沙原さんはこっちに向かって走ってきた。そのまま、僕の目の前までやって来る


「ごめんね、遅くなって」


「ううん。私の方こそ、心配かけてしまって……ごめんなさい」


「謝らなくて良いよ。沙原さんが無事ならそれで良いんだから」


 良かった、沙原さんが見つかって。本当に……無事で良かった。

 そんな僕達の様子を見ていた男の人達は


「あー……彼氏持ちだったか……。畜生、良いなぁ……俺も彼女欲しいなぁ……」


「落ち込むなって。ほら、ドーナツでも食いに行こうぜ」


「そうするかぁ。悪いなお二人さん、邪魔したな」


 そう言って去っていった。しつこいナンパをする人達では無かったみたいだ。

 改めて沙原さんの方を見る。周りに人がいるからか、清楚な振る舞いを見せているみたいだ……でも


(表情に余裕がない……そうだよね、さっきまで一人だったんだもんね)


「どうかしましたか黒木君? 早く皆と合流しに行かないと」


 心細かったに違いないのに、大人っぽく笑う沙原さん。そのまま人混みの方に向かおうとする。

 ……駄目だ、今の沙原さんを一人で向かわせるなんて……! 


「待って。またはぐれたら大変だから……」


 そう言いながら、僕は彼女の手を握る。そして、気付いた。……手が震えてる


「……黒木君……」


「大丈夫。もう大丈夫だよ、沙原さん。今度は、一人にさせないから」


「……ありがとう。ふふっ……黒木君の手、温かい……」


 手を繋ぐと、沙原さんの手の震えは収まってきた。役に立てたみたいだ。

 すると、沙原さんが手をギュッと強く握ってきた


「沙原さん?」


「今度ははぐれたくないですから……手、離さないでくださいね?」


「……うん。離さないよ、絶対に」


 僕も握り返すと、沙原さんは清楚な雰囲気を少し崩して、嬉しそうに笑った


「よし、行こうか」


「はいっ」


 僕達は再び人混みの中に入っていった。繋いだ手を、離さないように握りながら。







『……で? 朱凛さんを見つけたのは良いものの、連絡するのをすっかり忘れて人混みに飛び込んで、ようやく今思い出して電話してきたと。そういうこと?』


「ご、こめんなさい……」


 ……あの後、無事に人混みを抜け出したのは良いものの、二人と合流するにはどうすれば良いかと考えていたのだが、そこでようやく沙原さんと合流したら桜良さんに連絡しないといけない事を思い出した。

 慌てて携帯を取り出して、連絡したのだが、桜良さんに連絡が遅いとお説教をもらってしまった


『全く……心配したのよ? 何かあったんじゃないかって』


「ごめん。桜良さんに心配かけちゃって」


 僕が再び謝る。すると電話の向こうでため息を吐いた後、優しい声が返ってきた


『とにかく、何事もなくて良かったわ。私達は今、お昼を食べたレストランの近くにいるからそこで合流しましょうか』


「分かった。僕達もすぐに向かうよ」


『ええ、待ってるわ。じゃあね』


 桜良さんとの通話を終えて、僕はこっちを見つめている沙原さんに説明する


「二人はさっきのレストランの方にいるみたいだよ。そこで合流しようって」


「それなら急がないといけませんね。二人を待たせるわけにはいきませんから」


 沙原さんの言葉に僕も頷く。これ以上二人に心配をかけるわけにはいかない


「じゃあ行こうか。ほら、沙原さん」


 僕が手を差し出すと、彼女は笑いながらその手を握ってくれる


「はい。……やっぱり安心しますね、こうして黒木君と手を繋いでいると」


「うん、僕も同じだよ。でも、これじゃまるで僕達がこい……」


 ……危ない、変な事を言いそうになってしまった。僕が途中で言うのを止めると、沙原さんが不思議そうな目でこっちを見てきた


「私達が……? 何ですか?」


「な、何でもないよ。ほら、行こう!」


「教えてくださいよ! 気になるじゃないですかっ」


「何でもないってば! そんな事より急がないと!」


「もう! 黒木君の意地悪!」


 その後も沙原さんの追及から必死に逃げる。……だって、言えるわけないじゃないか。

 ーーー僕達が、まるで自然に手を繋げる恋人同士みたいに思えた、なんて。そんなわけないのに

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