下校中の提案
ーーーそれは、土曜日の事だった。
僕は、いつも通りに午前中だけの授業を受けて帰ろうとしていた
「沙原さん、帰ろうか?」
「はい! 行きましょうか」
僕と沙原さんが準備を終えて席を立とうとした時、反対側から声がかかった
「お、二人ももう帰るのか。たまには俺も一緒に良いか?」
「うん、勿論良いよ」
今日は古宮君も一緒に帰れるみたいだ。僕が頷くと、彼も席を立った
「おっし、ならついでに桜良も捕まえていこうぜ。あいつも今日は暇なはずだからな」
「良いですね。今日は皆で帰りましょうか」
嬉しそうに笑う沙原さんに続いて、僕達も自分の教室を出る。
少し歩いて桜良さんの教室の前に着いた。
あ、先生が出てきた。どうやらこっちのクラスは今HRが終わったみたいだね
「桜良さん、待っていれば出てくるかな?」
「外から手でも振りますか? 気付いてくれるかもしれませんよ」
桜良さんの席は……あ、いた。結構後ろの方だな。これなら後ろの入り口から呼べば気付いてくれるかも
「古宮君、呼んできてよ」
「俺かよ……ま、良いけど」
口では文句を言いつつも、古宮君は素直に従って教室の後ろ側に近付く
「桜良ー? おーい」
そう言って、軽く手を振る古宮君。
桜良さんは……気付いたみたいだ。こっちを見ている
「お、こっちに来たぞ」
そのまま、古宮君の前にやってくる。そして
「ちょっと古宮。そんなに大きな声で呼んだらクラスの人に勘違いされるわよ?」
「あん? 何だよ勘違いって?」
「私と貴方が『そういう関係』なんじゃないかって思われるって事よ」
「『そういう関係』……って!? ば、馬鹿野郎! からかうんじゃねえよ!」
そういう関係……実際、僕と沙原さんも手を繋いで登校した時に勘違いされた事があるし、あり得ない話じゃないかもしれない。……皆、なんだかんだ言って恋愛話は好きだしね
「あら、古宮はそう思われるのは不満かしら?」
「ふ、不満とかそんな事は……!」
「ふふっ……ん? 二人も来ていたのね」
桜良さんが僕達に気が付いた。
二人の話はここまでか。もう少し聞いてみたかったけどしょうがない
「雪実ちゃん、良かったら一緒に帰りませんか?」
「今日は皆で帰れそうだから誘いに来たんだ。どうかな?」
僕達が聞くと、桜良さんは嬉しそうに笑った
「へぇ、良いわね。それなら一緒に行きましょうか」
「えへへ、これで全員揃いましたねっ」
「よし、じゃあ行こうか」
僕の言葉に皆が頷き、四人で下駄箱に向かった。靴を履き替えて、皆で学校を出る
「四人で帰るのはこれで二回目だね」
「ですね。ショッピングモールの帰りに偶然会って一緒に帰った時も入れたら三回ですけど」
あっ、ショッピングモールといえば……今朝沙原さんには話したけど二人にも教えようかな
「そういえばさ、そのショッピングモールで新しいお店が出来たみたいだよ」
「そうなの? どんなお店?」
「ドーナツの専門店だってさ。色々種類があるって……」
「「ドーナツっ!?」」
と、話を続けようとしたら古宮君と桜良さんが大きな声を出した
「えっ? う、うん。ドーナツのお店だって話だけど……」
「へ、へぇ……! なかなか面白そうじゃねえか」
「ドーナツ……専門店……。是非行ってみたいわね……」
二人のこの反応……これはもしかして
「二人とも、ドーナツ好きなんだ?」
僕が聞くと、古宮君が少し恥ずかしそうに頭をかく
「……まぁ流石にバレるか。そうだよ、俺はガキの頃から大のドーナツ好きだ」
「数少ない私と古宮の共通点ね。私もドーナツは大好きなのよ」
「そういえば雪実ちゃん、ドーナツ好きでしたね。古宮君もそうだったんですか」
「ははっ、まぁな。男子で好物がドーナツってのはちょっと珍しいから人にはあまり言わねえんだけどさ」
そっか、二人ともドーナツには目がないんだ。なら、いつかこのお店にも行けたら良いんだけど。
と、僕が考えていたら
「あっ! それなら明日、皆で行きませんか? ドーナツのお店!」
沙原さんが提案してくれた。それを聞いて、二人は目を輝かせた
「良いわね! 私は行きたいわ!」
「俺も行かせてくれ! そういえば四人で遊びに行った事無かったしな」
「ふふ、そうですね。私も皆とお出かけしたいです。黒木君はどうですか?」
気付けば話がトントン拍子で進んでいた。
うん、明日は僕も予定は無いから……
「勿論僕も行くよ。皆で過ごす日曜日、楽しそうだしね」
「よっしゃ! なら決まりだな!」
こうして、明日は皆で出かける事になった。これは賑やかな日曜日になりそうだね。
と、皆で盛り上がっているといつもの別れ道に着いていた
「俺達はここまでだな。んじゃまた明日な、二人とも」
「待ち合わせ場所もここにしましょうか。それじゃあね、黒木君、朱凛さん」
「うん、また明日ね」
「はい。また明日、ですね!」
二人と別れて、僕と沙原さんは二人で歩き出す
「明日は皆でお出かけか、楽しみだね」
「はい! 皆でお出かけするの、とっても楽しみです! いつもの日曜日とはまた違って……あっ」
「ん?」
何かに気が付いた沙原さんが足を止める。
どうしたのかな? と思っていると
「あの……黒木君。この後お昼一緒に食べませんか? また何か作りますよ」
「えっ? うん、それは嬉しいけど……急にどうしたの?」
突然の申し出に僕が聞くと、沙原さんは
「いえ……いつもは日曜日に黒木君のお家で色々とお話するじゃないですか? でも、明日は出来ないと思うので……今日出来たらなぁって」
なるほど……確かに、明日は一日中四人で遊ぶだろうし、二人だけで話すような事はないだろうしね。
でも、そうか……。沙原さんは僕と二人で話すの本当に好きなんだね、嬉しいな
「……ふふ、ちょっと変ですよね。今みたいに二人でお話する時間は沢山あるのに、わざわざその時間を増やすなんて」
「ううん、僕と話す時間を大事にしてくれて嬉しいよ。僕も沙原さんと話すの好きだからさ」
「黒木君……! えへへっ、私も好きですよっ! 黒木君とお話するの!」
「っ!? う、うん。ありがとう」
うっ……直接好きって言われるとやっぱりドキッとしちゃうな。僕もまだまだだ
「お昼、何が食べたいですか? リクエストがあるなら聞きますよ」
沙原さんが嬉しい事を言ってくれた。
リクエストか、それなら迷うことないな。僕はやっぱり……
「じゃあカルボナーラが良いな」
「ふふっ、黒木君本当に好きですよね。そんなに美味しかったですか?」
「そりゃ勿論。この前食べてから僕の好物になったよ、沙原さんのカルボ」
僕が答えると、彼女は嬉しそうに笑った。気付けば沙原さんの家の前に辿り着いていた
「ふふ……気に入ってくれて嬉しいな。それならまた作りますね、着替えてから行くので黒木君はお家で待っていてください」
「分かった。じゃあ後でね」
沙原さんが頷いて、自分の家に入っていくのを見届けてから僕も家に向かって歩き始めた。
ーーーその後、家に来た沙原さんが再び作ってくれたカルボナーラを美味しく完食してから、僕達はいつもの位置でゆったりとした時間を過ごすのだった。
明日も楽しみだけど……沙原さんと過ごすこの時間も僕は大好きだ