考える事は同じでした
大人びた雰囲気の沙原さんと子供みたいにプンプン怒る沙原さんに振り回された土曜日が終わり、今日は日曜日だ。
僕は午前中はのんびりと過ごしていた。今日は特に予定はない
「今日はどうしようかなぁ……一人で出かけるか……? いやいや、前にそれをやって失敗しかけたよなぁ……」
一人で過ごすのも悪くないと思って出かけた結果、寂しくなってしまった土曜日を思い出してしまった。あの時はたまたま沙原さんに出会えたから良かったけど……
「……沙原さん、今日は暇かな? 昨日聞いておけば良かったな」
先週の日曜日はあの娘と一緒に過ごしたんだよな。なら今日も誘ってみようか……?
「いや、流石に二週連続は迷惑かな。沙原さんにだって予定があるかもしれないし……」
当日に急に誘うのも申し訳ないし、今日は大人しく家に籠って一人で過ごそう。
僕はそう思い直し、とりあえず宿題を片付ける事にした。残ったままだと気になって休めないしね。
宿題を終わらせ、昼食も食べ終えて、僕はやる事が無くなっていた。いや、やろうと思えば本を読んだりゲームをしたりとか色々思い付くけど……
「うーん……沙原さんが駄目なら古宮君は……いや、同じか。やっぱり当日に誘うのは……」
携帯を眺めながらぶつぶつと呟く。我ながら変な事をしていると思う
「……皆と一緒に過ごすのに慣れ過ぎちゃったな。休みの日に一人で過ごすのがこんなに難しいなんて」
再び携帯を見つめる。二年生になってから本当に色々と環境が変わってしまった。今の僕にとって、一番楽しいと思う時間。それはやっぱり……隣のあの娘と喋っている時だ
「……やっぱり電話を……いや、でも……」
うじうじと悩む。こんな時、真っ直ぐ行動できる沙原さんが羨ましくなる。
これ以上悩んでも仕方ない。いっそのこと昼寝でもして時間を潰してやろうか……とおかしな方向に思考が飛びそうになる。
その瞬間、携帯が鳴りだした
「うわっ!?」
驚いて携帯を手放しそうになる。なんとか掴み直して、慌てながら電話に出る
「も、もしもし……?」
慌てていたせいで、かけてきた相手を確認し忘れていた。やがて、聞こえてきた声は……
『あっ、く、黒木君? ごめんなさい、いきなり電話してしまって……今、大丈夫ですか?』
まさに、さっきまで電話するか悩んでいた相手の声だった
「ううん、大丈夫だよ。どうしたの? 沙原さん」
大丈夫も何も、僕はさっきまで君に会いたくて電話しようか悩んでいたんだけどね。絶対に本人には言えないけど
『あの……今日、予定とかありますか? もしも良かったら、またこの前みたいにそっちに遊びに行っても良いでしょうか……?』
「えっ?」
その提案はさっきまで暇していた僕にとっては嬉しいものだった。そっか、沙原さんも予定無かったんだ
『急にこんな事言っても迷惑かと思ったんですけど……どうでしょう?』
「いや、良いよ。僕も今日何も予定無いからさ」
『本当ですか!? ああ、良かったです……。二週続けて遊びに行ったら黒木君が迷惑かと思って遠慮していたんですけど……結局、我慢できませんでした』
「……はは、そうだったんだ」
どうやら、考えている事は同じだったようだ。お互い、遠慮して連絡するのを躊躇っていたみたいだね
『では、今から向かいますね! 家で待っていてください!』
「うん、待ってるよ」
こうして、彼女との通話は終わった。さて、じゃあ沙原さんが来るまで大人しく待っていようかな。
ーーーそれから少しして、チャイムが鳴った。本当に電話してすぐだったな……。
玄関に向かい、ドアを開けると
「黒木君っ。えへへ、また来ちゃいました!」
「いらっしゃい。来てくれて嬉しいよ、沙原さん。僕も暇してたんだ」
笑顔でこっちを見る沙原さんに、僕も笑い返す。そのまま、彼女を家に入れる
「黒木君も暇だったんですね。それなら連絡してくれれば良かったのに」
「いや、僕も沙原さんと同じだよ。何か予定があったら迷惑かなと思ってね。先週も一緒だったしさ」
「なるほど……私達、同じ事を考えていたんですね。ふふっ、お揃いですね?」
こういうのってお揃いって言うのかな? まぁ良いか。
そして、僕達は前と同じように座る。当たり前のように隣に座る沙原さんにはもう何も言うまい
「今日も喋るだけで良いの?」
「はい。私は黒木君と話すの好きですし……昨日はあんまり話せませんでしたからねっ」
後半は膨れっ面になりながら僕に言う。昨日……ああ、沙原さんが大人モードだったからなぁ
「いや、昨日は沙原さんがいつもと違ったからさ……ちょっと緊張しちゃって」
「ふふん、私だってやろうと思えば大人っぽくなれるんですよ? 見直しましたか?」
うん、今の君は凄い子供っぽい。褒めて褒めてっていう心の声が聞こえてくるよ。
僕は気が付いたら沙原さんの頭を撫でていた
「うん、沙原さんは凄いよ。昨日は本当に大人に見えたもん」
「えへへぇ……はっ!? 今まさに子供扱いしていませんか黒木君!?」
「おっと、ごめん」
「あっ」
沙原さんに言われて、僕は彼女の髪から手を離す。
しかし、そうしたら今度は名残惜しそうに僕の手を見つめてくる。……どうしろと?
「こ、こほん。とにかく、黒木君は私をあまり子供扱いしないように! そうじゃないと……」
「ん?」
言葉を途中で切って沙原さんが目を閉じる。そして、少しして目を開くと……
「ーーーまた、貴方を緊張させないといけなくなりますから。……ふふ」
「っ!?」
こ、この笑顔は、昨日見た大人っぽい沙原さんの……!やっぱり破壊力が凄い。さっきまで彼女の頭を撫でていたなんて嘘みたいだ。
ま、不味い……! こんな近くでこんな笑みを見せられたら……! に、逃げよう……!
「ふふ、黒木君、また黙ってしまいましたけど大丈夫ですか? ーーーって、何で離れるんですか!? に、逃げないでくださいよっ!」
僕が慌てて距離を取ろうとすると、沙原さんも慌てながら元の雰囲気に戻る。
よ、良かった……いつもの沙原さんだ
「ご、ごめん。まだそっちの雰囲気の沙原さんには慣れなくて」
「むぅ、そうですか……。でも、少しずつでも良いですから慣れてくださいね? 仲の良い人以外の前ではいつもこんな感じですから」
「そうなんだ……上手く切り替えてるんだね。凄いなぁ」
「まぁ、どうしても友達の前だと油断してしまいますからね。常に気を張るのも難しいんですよ」
つまり、沙原さんと出かけて……買い物して店員さんと話す時なんかはさっきみたいな雰囲気になるのか。この前一緒に出かけた時は意識してなかったけど、あの時もそうだったのかな
「……まぁ頑張って慣れていくよ。僕もいつまでも緊張していられないしね」
「あっ、なら今から練習してみますか?」
「い、いや! それはもう少し待って! 心の準備が出来たら頼むからさ!」
「ふふっ……分かりました。その時は大人っぽい私をたっぷりお見せしますね?」
「お、お手柔らかにお願いします……」
……いつか、清楚な彼女とも平然と喋れるようになるのだろうか? 今は想像できないけど……。
目の前でいたずらっ子みたいに笑う沙原さんに、僕は引きつった笑いを返すのだった