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二人でまったりと

 日曜日。普段の僕だったら宿題をやったり、家でのんびりと過ごしたりするのだが……


「……うん。これで大丈夫だよね」


 今日は普段と違う。家にお客さんが来るんだ、まぁ見知った相手ではあるんだけど……。

 しかし、だからといって汚い部屋で出迎えるのは失礼かと思って、部屋の掃除をしておく。まぁ普段から掃除はしているからそんなに汚くはなかったけどね


「沙原さんが来るのは……午後からだっけ」


 昨日、メッセージで時間を聞いた所、『午後から行きます!』って返ってきたんだよね。何時からかは聞き忘れちゃったんだけど


「お昼は家で済ましてくるのかな?」


 まぁ僕の家で一緒に食べる理由もないか。そう思い直して、僕は時間を確認する


「12時か……」


 うん、沙原さんが来る前にお昼ご飯食べちゃおうかな。そう思い、立ち上がろうとした時だった……。

 ピンポーン、とチャイムが鳴った


(えっ……まさか)


 慌ててインターホンを確認するとそこには予想通り……


「さ、沙原さん……!?」


 笑顔でこっちに小さく手を振る美少女が映っていた。






「こんにちは! 遊びに来ましたよ、黒木君」


「いらっしゃい、沙原さん。早かったね」


 ドアを開けて、沙原さんを出迎える。まさか、こんなに早く来るとは思わなかったからちょっと驚いちゃったよ


「えへへ、お昼も一緒に食べようかなぁと思いまして。台所、借りても良いですか?」


「えっ? うん、勿論……ってもしかして沙原さんがご飯作ってくれるの!?」


「はい! 材料も持ってきました!」


 見ると、沙原さんの手にはビニール袋があった。中に料理の材料が入っているのだろう


「良いの? 沙原さんはお客さんなのに……」


 むしろ、僕が何か振る舞うべきじゃないかと思いながら聞く。すると、沙原さんは首を横にふった


「いえいえ。私が作りたいと思っただけですから気にしないでください。ほら、昨日一緒にご飯を食べに行った時に悩んだメニューがあったじゃないですか? あれを見てから食べたくなってしまいまして」


「悩んだって……ああ、確か……」


 昨日、レストランで僕達は何を頼むか迷った。僕はハンバーグ、沙原さんはオムライスにしたんだっけ。

 ……そういえば、その後に沙原さんがもう一個気になる料理があるって言ってたな……もしかして


「それって、僕達が選ばなかった……」


「はい! カルボナーラですっ」






 部屋に入った沙原さんは、調理器具がどこにあるかを確認する。そして、持ってきた鞄からエプロンを取り出して装着した。普段から家で使っているやつなのかな


「本当に手伝わなくて良いの? 沙原さん」


 一応さっきも聞いたのだが、もう一度確認する。すると、沙原さんは笑顔で振り向く


「はい。私に任せてゆっくりしていてください。黒木君に、お料理出来るって所を見せたいですから!」


 ……との事で、沙原さんは台所に一人で立つみたいだ。僕も一人暮らしをしてるし、料理は出来ないわけじゃないから手伝えると思うんだけど……本人がそう言うなら仕方ない


「分かったよ。じゃあ楽しみに待ってるね」


「はい! 待っていてくださいね、黒木君」


 再びにっこりと笑うと、彼女は料理に取りかかった。

 僕が座っている位置からは、沙原さんが料理をしている姿がしっかり見える。手際よく作業を進めているようだ


(沙原さん、普段から料理するのかな)


 ちょっと子供っぽい普段の姿と違い、テキパキと動く今の彼女を見ると、いつもより大人っぽくさえ見える


(……良いなぁ、こういうのも)


 エプロンを着けた沙原さんが料理する姿。

 そう、それはまるで……僕に素敵なお嫁さんが出来たみたいに見え……


(……待て待て待てっ!! 何を考えてるんだ僕は!? いくらなんでもおこがましいぞ!!)


 そもそも僕達は恋人ですらないし、沙原さんにそういう感情もないのは分かってるんだ! なのに……!


(まぁ確かに沙原さんがお嫁さんなら毎日楽しいだろうけど……)


 家に帰ればあの笑顔で出迎えられて、二人で楽しくご飯を食べて、ゆっくりと話をしながら時間を過ごして……うん、これは最高の生活……


(だ、か、ら!! 気持ち悪い妄想をするのを止めろっ! 沙原さんに失礼だろうがっ!!)


 と、頭の中で自分を罵倒していると


「黒木君ー! もう出来ますよー!」


 台所から声が聞こえた。いかん、こんな事してないでお皿くらい出さなきゃ!


「分かったー! 今からお皿出しに行くよ!」


 僕はそう返事をして、ようやく妄想の世界から脱出する事ができた。






 食器を出し終えて、食卓に着くと目の前には美味しそうなカルボナーラがあった


「美味しそうだね……! 沙原さん、凄いよ」


「ふふ、褒めるのは食べてからにしてください。さぁ、食べましょう」


「うん、じゃあ……」


 そして、僕達は手を合わせる


「「いただきます!」」


 二人で声を揃える。早速、僕はスプーンとフォークで麺を巻き取る


「じゃあ……はむっ……」


 一口食べる。目の前では沙原さんがこっちをジッと見ている。

 ……こ、これは……!!


「美味しい……うん! 凄く美味しいよこれ!」


「良かった。お口に合ったようですね」


 沙原さんがホッとしたように笑っているが、僕は珍しく彼女の笑顔に見惚れなかった。いや、見惚れている暇なんてなかったのかもしれない


「僕、カルボナーラは好きだから結構評価のハードル高いつもりだったんだけど……やられたよ。これは本当に美味しいよ、お店にも負けないくらいだ」


「そんな。流石に言い過ぎですよ」


 いやいや、言い過ぎなもんか。現に、今僕の手は止まらなくなっている


「んっ……ああ、本当に美味しいなぁこれ……」


「ふふっ……黒木君ったら……」


 結局、僕は嬉しそうに見守る沙原さんと一緒にカルボナーラをあっという間に完食するのだった


「はぁ……ごちそうさま」


「お粗末様でした。美味しそうに食べてくれてありがとうございます」


「本当に美味しかったよ。沙原さん、料理上手なんだね」


「まぁカルボナーラは私も好きですからね。美味しく作れるように練習したんですよ」


 凄いなぁ、出来れば作り方を知りたいけど……僕に出来るかは分からないなぁ


「何か隠し味とかあったりするの?」


「隠し味、ですか。うーん、特にはないですけど……じゃあ一つだけ」


「お?」


 何だろう、と待っていると沙原さんは笑顔で言ってきた


「食べてくれる人への愛情、ですかね? ……なんて、ふふっ」


 ーーーがあああああーっ!? この小悪魔はまたそういう事をさらっと言うんだからもおおおおお!! 僕の心はもうボロボロだよこん畜生!! 


「は、ははは。それは確かに大事な隠し味だね」


「はい。とっても大事です」


 何とか笑顔で返せた……これ以上思わせぶりな事を言うのは止めてくれ……!

 その後、僕達は洗い物を済ませてから改めて向かい合って座る


「ふぅ……じゃあこの後はどうしようか? 何かやりたい事とかある?」


 ゲームか何かして遊ぶか、それともテレビとか映画でも見て過ごすか。うーん、部屋で出来る事っていえば他には……


「やりたい事……。そうですね……なら黒木君とおしゃべりしたい、ですね」


「えっ? そんなので良いの?」


 わりと普段からやってる事だと思うけど。そう思いながら聞くと、彼女は頷く


「やっぱりこれが一番楽しいですからね。黒木君は嫌ですか?」


「まさか。ならいつも通りに駄弁ろうか」


「はい! あ、それなら……」


 と、ここで沙原さんは移動して僕の隣にやってきた


「えっ? 沙原さん?」


「えへへ、やっぱりここが一番落ち着きますから。これでいつも通りですね?」


 急に隣に来たから少しドキッとしたけど……うん、まぁ確かに……


「……そうだね、確かに落ち着くかも。まだ出会って一週間くらいだけど……何だかこれがいつも通りになっちゃったね」


「ふふ……私も二年生になるまでこんなに隣にいて落ち着く男の子がいるなんて思いませんでしたよ。これからも一緒にいましょうね? いつも通りに」


「うん、そうだね。いつも通りに、だね」


 そうして、僕達は笑い合う。この穏やかでまったりとした空間が、僕は好きだ


「じゃあ、昨日の話でもする?」


「良いですよ。昨日と言えばやっぱり黒木君と偶然出会えた時の話から……」


 そして、僕達は色々な話をする。時々笑い合ったり、沙原さんの発言にドキッとしたりして。

 隣に沙原さんがいる。うん、ちょっと前までは緊張したりもしていたけど、今なら僕は言える。

 ーーーこれが、いつも通りの光景だとね

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