手を繋いで
沙原さんと思わぬ形で合流してから、僕達はお昼を施設にあったレストランで済ませることにした。
二人で店に入る。お昼時だからちょっと混んでたけど席が空いてて良かったよ
「黒木君、何にしますか?」
「うーん、そうだね……」
メニューを見て何を頼むか考える。お、このオムライス美味しそうだな……いや、こっちのハンバーグも捨てがたいな……。
うむむ、悩むな。お腹が空いてるから更に魅力的に見える。空腹が最高のスパイスとはよく言ったものだ
「むぅ……どれにしましょうか……」
見ると、沙原さんも真剣な顔でメニューを見ていた。悩んでるのは彼女も一緒みたいだ
(……よし! 今日はハンバーグだ!)
決断を下した僕は、沙原さんの方を見る
「……決めました!」
「じゃあ店員さん呼ぼうか」
どうやら沙原さんも決まったようだ。顔を上げた沙原さんに確認をしてから店員さんを呼ぶ
「お待たせしました。ご注文をどうぞ」
店員さんに聞かれて、僕が先に注文を告げる
「僕はこのハンバーグセットをお願いします」
「あっ。私はこのオムライスをお願いします」
(あっ、それ僕が悩んでたやつだ……!)
沙原さんも目を付けていたのか。まぁ美味しそうだもんね。
そして、店員さんが去っていくと
「黒木君もそのハンバーグが気になっていたんですね! 私も悩んでいたんですよ」
「えっ!? じゃあまさか沙原さんもハンバーグとオムライスで悩んでたの?」
「ふふ、私はその二つとカルボナーラも候補に入れていました。その三つで悩んでしまいまして」
「カルボナーラ!?」
僕が慌てて再びメニューを開くと……確かにパスタのコーナーに美味しそうなカルボナーラが乗っていた
「パスタはチェックし忘れてたなぁ……カルボナーラも良いなぁ、僕好きなんだよ」
「ふふっ、じゃあまた来ましょうか。今度は違うメニューも試してみたいですし」
「良いね。今度も一緒に来れたら良いけど」
「一緒に行きましょうよ。黒木君一人でこっそり行ったら怒っちゃいますよ」
そんな風に自然と次の約束が取り付けられていると、頼んだ料理が届いたので僕達はおしゃべりを中断して、お昼を楽しんだ。
ちなみに、ハンバーグは滅茶苦茶美味かった。またこのショッピングモールに来たらこの店に食べに来ようと僕達は決めた。
お昼を食べ終えて、僕達は次の目的地であるクレープ屋に向かう
「楽しみですね、クレープ!」
「はは、そうだね。沙原さんが喜んでくれたら良いんだけど」
と、そんな風に話していると
(結構人が増えてきたな。まぁ土曜日だし、混むよね)
気付けば人混みが出来ていた。こっちは特に混んでるみたいだ、クレープ屋はこの先なんだけど……
「く、黒木君~!」
「ん?」
考え事をしていると、隣から沙原さんの声が聞こえた。
隣を見ると人混みに流されそうになっている沙原さんが……ってぇ!?
「沙原さん!」
僕は慌てて沙原さんの手を掴んだ。すると、彼女も握り返してくれた
「はぐれたら大変だ。このまま行こう」
「は、はい。ありがとうございます、黒木君……」
沙原さんの手を握りながら人混みを抜ける。少し歩くと、クレープ屋が見えてきた。こっちも混んでるな……流石人気店だ
「よし、着いた。お店はあっちだよ」
「わぁ……もう食べてる人もいますね。良いなぁ……」
「すぐに食べられるさ。ほら、行こう」
目を輝かせながら周りのお客さんを見ていた沙原さんに言って、僕達もお店に向かう。沙原さんの手を引っ張ってお店の方に……あっ!?
「ご、ごめん沙原さん! 手、繋いだままだったね!」
まずい、嫌がってたらどうしよう!? と、焦りながら手を離そうとしたのだが……何故か逆に強く握り返された
「い、いえ! 良いですよ、このままで……。黒木君となら、私は……」
……くっ! この娘はまたこういうことを言うんだから……! ズルい娘だよ全く……
「わ、分かったよ……じゃあお店でクレープを買うまでね」
「……はい」
やがて、僕達の順番が来たので注文をする。沙原さんはストロベリー、僕はチョコレートにした
「ありがとうございます。では合計で……」
「あ、はい」
代金を払うため、僕はここで繋いでいた手を離した。……そんな残念そうな目で見ないでくれるかな、沙原さん……。
少しして、クレープを受け取った僕達は空いてる席に座った
「じゃあ食べようか」
「はい、いただきます! はむっ……」
笑顔でクレープを頬張る彼女に僕も自然と頬が緩みながら、クレープを食べる。
おお、これは……!
「美味しい! とっても美味しいですよ黒木君!」
「うん、甘さも丁度良くて……人気なのも納得だね」
これはまた良い店を見つけたなぁと思いながら二人で食べ進める
「黒木君はチョコでしたよね。そっちも美味しそうです」
「うん、美味しいよ。沙原さんのも美味しそうだね」
「はい、美味しいですよ! 食べたいですか? 一口くらいなら……」
そう言いながら自分のクレープを差し出そうとする沙原さん。
……いやいやいや! 何してるのかなこの娘は本当に!?
「だ、大丈夫大丈夫! また次に来たら頼んでみるからさ!」
「そうですか? それなら良いですけど」
「は、ははは……」
ああ……心臓に悪い。この娘の距離感の近さは相変わらずだな……
(沙原さん、好きな人とか出来たらどんなことになるんだろう? 今よりも距離が近くなるんだろうか?)
きっとグイグイ距離を詰めてくるんだろう、凄いスピードで。そう考えると末恐ろしいな、心臓がいくつあっても足りないよ。
目の前で美味しそうにクレープを食べている美少女を見ながらそんな事を考えて、僕は苦笑した。
「黒木君、クレープありがとうございました。すみません、ご馳走になってしまって」
「良いんだよ。これは僕のお詫びなんだからさ」
クレープを食べ終えた僕達はこの後の予定をどうするか話すことにした
「沙原さんはこの後は予定とかあるの?」
「いえ、何もないですよ。ここに来たのも暇潰しでしたから」
「そっか、じゃあ僕と同じだね。ならもう少し一緒に見て回る?」
せっかくだから二人で過ごしたいと思いながら聞くと
「はい! 私はそうしたいです!」
笑顔で了承してくれた沙原さん。よし、なら……
「じゃあ行こうか。まぁお互い予定もないみたいだから慌てる必要はないけどね」
「ふふ、そうですね。ゆっくり見て回りましょうか」
立ち上がり、歩き出そうとすると左手に柔らかい感触が……うん?
「さ、沙原さん? また手を繋ぐの?」
再び手を繋いできた沙原さんに聞くと、彼女はコクンと頷いた
「またはぐれても困りますから。……ね?」
「わ、分かったよ」
結局上目遣いで見つめられた僕は何も言えず、そのまま二人で歩くことになった。
ーーーその後、色々な店を見て回ったけれど、最後まで手を離すことはなかった。あの、沙原さん? もう人混みはないんですけど……?
そう思いながらも、隣で楽しそうに手を握っている沙原さんに、僕は何も言えないのだった




