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たまには一人で……?

 ーーー四人で仲良く昼休みを過ごした日の翌日。今日は土曜日なので、授業は午前だけだ。

 なので、午後からは自由なのだが


「沙原さん、今日も頑張ってたね。また半分……より少しくらいは起きてられたんじゃない?」


「くぅ……! 褒められてる気がしませんよ黒木君……」


 帰りのHRが終わり、沙原さんを褒めると彼女は苦い顔で言ってきた。うーん、僕は本気で褒めてるつもりなんだけどな


「さて、じゃあそろそろ帰ろうかな。沙原さん、一緒に帰る?」


 最近は沙原さんと帰るのが当たり前になってきているので、誘ったのだが


「あっ、ごめんなさい黒木君。実は今日、クラスの子達と帰ろうって誘われてまして……」


 沙原さんが申し訳なさそうに言うと、クラスの女子が二人近づいてきた


「ごめんね、黒木君! 私達もたまには朱凛と帰りたくてさ。今日は譲ってもらえるかな?」


「ご、こめんね。二人の時間を邪魔しちゃって……」


 手を合わせて頼んでくる二人の女子。よく見ると、初日に沙原さんと話していた娘達だった


「ううん、邪魔なんてそんなことないよ。じゃあ今日は別々だね」


「ごめんなさい黒木君。また月曜日は一緒に帰りましょうね」


「あはは、気にしないでよ」


 ふむ、じゃあ僕はどうしようかな。古宮君はどうかな?


「古宮君はもう帰るの?」


「いや、桜良のやつが用事があるらしくてな。俺も終わるまで待ってるつもりだよ」


「そっか」


 二人の時間を邪魔するのも気が引けるな。仕方ない、今日は一人で帰ろうか


「じゃあ僕は先に帰るよ。またね」


「おう、またな」


 沙原さんは女子二人と話していたので、古宮君だけに挨拶して教室を出る。

 何だか一人の下校って久し振りだな。去年は結構あったんだけど。







 静かに自宅まで歩き、部屋に入る。

 私服に着替えて、さぁどうしようかと考える


「……たまには一人で出かけてみようかな」


 思い出してみれば二年生になってからは隣に沙原さんがいることが多かった。クラスでも隣だし、登校する時も下校する時もそうだ。一人で外を歩くって事が最近無かった


「ついでに外で昼ごはん食べようかな」


 そう思い、僕は一人で家を出た。目的地は決まってるし、たまには一人で歩いてみようかな


(一人、か。前はよくあったんだけどな)


 去年の僕はクラスで目立つわけでもなく、学校内での付き合いしかなかったから休みの日なんかは一人で過ごしていた。

 ……そう考えると二年生になってから色々変わり過ぎだよね。クラスでは学校一の美少女と過ごしてるし、登校も下校も一緒なんて


(まだ出会ってそんなに経ってないのに……隣に沙原さんがいないのがちょっと変に感じるよ)


 歩きながら、そんな事を考える。去年の僕が今の環境を見たらどんな顔をするだろうか


(まぁでも……たまには一人の時間も悪くないよね)


 そう考え直して、僕は歩き続ける。

 ……マナーモードになっていた携帯の通知に気がつくことなく。








 家を出て向かったのは、近くにあるショッピングモールだった。ここなら買い物も食事も出来る。暇潰しにももってこいだ


(さて、どこかでご飯を……)


 そう思いながら周りを見てみると……


(土曜日だからかな。同い年くらいの人が多いな……)


 友達と一緒に買い物を楽しんでいる集団や、カップルなのだろう高校生くらいの男女が手を繋いで歩いている姿も見えた。

 ……皆、楽しそうだ


(……やっぱり帰ろうかな)


 久し振りに一人の時間を楽しもうかと思っていたのに、何だか無性に寂しくなってきてしまった。頭に浮かぶのは二年生になってから出来た三人の友達の姿だった。

 最近出会ったばかりだけど、色々と相談できそうな桜良さん。同じく出会って数日だけど、最初から話しやすかった古宮君。

 ……そして、距離感がおかしいけど、隣にいると楽しい……彼女の姿が……


(……沙原さん)


 一人の時間も悪くない、とか思ってたけど……今の僕は隣に誰かがいる事に慣れすぎていたみたいだ。

 こんな事なら誰かを誘って来れば良かったな。そう、あの娘なら誘えば喜んで一緒に来てくれただろう


(会いたいな……)








「ーーーあっ! 黒木君!」







「……え?」


 最近聞き慣れてきた声が聞こえ、振り向くと、そこにはさっきまで頭に浮かべていた人物が立っていた


「沙原、さん?」


「黒木君……」


 僕の方に向かって歩いてくる彼女は、初めて見る私服姿だった。見慣れない服装にドキッとする。

 いつもより更に清楚なお嬢様に見える。そう思って見惚れていると


「……むぅ」


 ムッと頬を膨らませた沙原さん。その子供っぽい姿を見て何となくホッとしてしまう。清楚な雰囲気は消え、見慣れた子供っぽい沙原さんに戻る。

 ……ん? でも何で沙原さんはそんな顔をしてるんだ?


「えっと、どうしたの沙原さん? 何か不機嫌そうだけど……」


「むっ。黒木君、携帯見てないんですか? 私、メッセージ送ったんですけど」


「えっ?」


 膨れっ面の沙原さんにそう言われて慌てて携帯を確認する。

 見ると、沙原さんからのメッセージが数件来ていた


『黒木君、もうお家に着きましたか? もし予定が無かったら午後から遊びに行きませんか?』


『黒木君? 今忙しいんでしょうか?』


『メッセージ、気付いてますか?』


『何度も送ってしまってごめんなさい。忙しそうなので、今日はやめておきますね』


 最後のメッセージはこれで終わっていた。

 ……や、やばい。マナーモードにしてたから全然気付かなかったよ


「……黒木君、全然返信がないから……今日は忙しいのかなと思って一人で遊びに出かけたんです。でも、一人で歩いていたら何だか寂しくなってしまって、帰ろうかと思っていたんです」


 さっきまでの僕と同じだ。沙原さんも同じ気持ちだったのかな


「そんな時に前に黒木君が歩いているのを見かけたんです。忙しいのかと思ったのに、何だかボーッと歩いていたから声をかけたんですよ」


「ご、ごめんね。メッセージの通知に気が付かなくて……」


 僕が謝ると、沙原さんはフンッとそっぽを向いた


「いいですよ。私が勝手に誘って勝手に無視されただけですから」


「うっ……」


 本気で怒ってるわけじゃないみたいだけど……ちょっと不機嫌そうだ。せっかく沙原さんと会えたのに、このまま別れるのは嫌だ


「本当にごめん。どうしたら許してくれるかな?」


 僕が頭を下げて聞くと、沙原さんはチラッとこっちを見た


「……デザート」


「え?」


「私、まだご飯食べてないんです。ですからまずはランチに付き合ってください」


「う、うん」


「その後、デザートに何か甘い物があるお店を紹介してくれたら許してあげます」


 ……そんな事で許してくれるなら!


「分かった。確かこの施設に美味しいって評判のクレープ屋さんがあるって聞いたことがあるから、奢らせてもらうよ」


 僕が言うと、沙原さんはパッと明るい表情になる


「クレープ……! 食べたいです! お、奢りで良いんですか?」


「勿論。お詫びだからね。大丈夫、お金は結構持ってるから」


「ありがとうございます!」


 笑顔になった沙原さんに僕も笑いかける。うん、やっぱり僕達はこの空気が一番だ


「よし、じゃあまずはご飯だね。行こうか、沙原さん」


「はい! ……えへへ、メッセージは届かなかったけど……ここに来て良かったです」


 ……僕も、ここに来て良かった。沙原さんに出会えたんだから。

 口には出さずに、僕は心の中でそう思いながら二人で歩いていった。


 ーーー隣に彼女がいる。それだけで、僕は寂しくなくなっていた

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