8
あれから何日過ぎただろう。
ジャムの新個体はまだ見つかっていない……。
見つかるまでここで暮らさなくてはならない。
つまりは、ずっと元の体には戻れない。
あの、転生事務所とか言うふざけた所の何とかさんは、何やってんだ?
僕がこんな目に合ってるっていうのに。
タイムリミット会っただろうにっ。
……まぁいいや……。
この何日間、ヨオキさん含む、皆と談笑したり、トランプのようなゲームで遊んだり、屋上で日向ぼっこしたりして1日を潰してきた。
おもえば楽しかったな。
それで日にちを数えるのを忘れてしまった……。
女性として生きるのも慣れたし、美しいサンロさんとも一緒に居られるし、そのうちジャムの問題も片付いてこの生活も終わると考えると、寂しいところもある。
「イマノリさん、灯り消しますよ」
「はーい、ヨオキさん、おやすみなさーい」
明かりが消された。
今日もそうやって、ぐっすりと寝むりにつく。
まぁやばくなったらタラバさんの方から現れるだろう、僕はのんびりいこ。
――ドンッドンッドンッ。
「開けろぉ!」
騒音がして目が覚めた。
眠気眼を開くと、ドアが激しく叩かれている。
押し入ろうとしているかのように、壊れんばかりの叩き方だった。
「開けろ!ここを開けろぉ!」
アンさんの声だ。
何事だ?
ヨオキさんが起き上がりドアを開く。
アンさんがヨオキさんに剣を突き付け、中に雪崩れ込んできた。
飛び起きる僕に、
「動くな!」
鋭い剣先が向けられる。
「テヲ・ライ伍長が死んだ!」
アンさんが叫んだ。
「ジャムにやられたんだ!」
なんだって……?
テヲ・ライ伍長が死んだ?
ジャムだって!?
そんなっ!
「貴様らの内、どちらかがジャムだ!」
「何を言ってっ、どうして私達が?」
ヨオキさんが怯えながら尋ねた。
「黙れ!外に出ろ!」
剣を突き付けたまま、口を開くことも許されず、外へと歩かされる。
建物前に、シーツにくるまれてテヲ・ライ伍長は寝かされて居た。
顔だけが見えている。
眼球全部が黒く変色していた。
「どうしたの!?」
サンロさんが、僕らと、僕らに剣を突き付けているアンさんに気づいて驚く。
その声に、ハロさんとゾカさんも振り返った。
「ジャムの容疑者を連れてきたんだ。この二人の内どちらかだ」
「アン、落ち着きなさい」
ハロさんが言う。
「私は落ち着いている」
「そんなことする必要ありませんわ、剣を下ろしてください」
「ジャムが侵入した痕跡なんてどこにもなかった、つまり、ジャムはこの中の誰かだ居るという事だ」
「どうして僕ら何ですか?」
僕はアンさんに尋ねた。
「あなた方が来て7日後に発症。この2人の内どちらかがジャムだ。調べよう」
「まだ決められないと、私は思うけど?」
サンロさんが言う。
「じゃあ私らの中にいるってのか!?」
アンさんの悲痛な叫びが早朝の健やかな青空に響いた。
たしか、ジャムに接触して7日後に発症して死ぬんだっけ……。
僕らが来た時からどこかで接触されたってことか……。
待てよ、僕はテヲ・ライ伍長に接触してるぞ。
風呂の事を思い出す。
僕も……もしかしたら……。
「誰かフェニックスの涙、持ってないっすか?」
ゾカさんが言った。
「帰ってくる体がないじゃありませんの……」
「……ああ、そうか……」
「ちょっと待て!なんでそんなこと知らない!」
アンさんが剣をゾカさんに向けた。
「へ?」
ゾカさんはあっけらかんとした表情で切っ先を見つめる。
「なぜそんな事を知らないんだと聞いているんだ!」
「いや、べ、別に、いつうっかりしてたっすよ!」
「うっかりだ?お前がジャムだから知らなかったんじゃないのか!」
「違うっすよ!」
「もうやめて!」
ハロさんが叫んだ。
「あの!この事を早く本部に報告した方が宜しいんじゃありませんか?」
ヨオキさんが皆を見渡し言う。
「それは駄目よ」
サンロさんが冷たく言った。
「どうしてですか?」
「この中に居るのなら、間違いなく私たち全員を殺せば解決と本部は考えるわ。この中にジャムがいる可能性は限りなく高いの……」
「そうね、止した方が宜しいと思いますわ。アンが言ったように、殺処分が規則ですのよ」
「そ、そんな……」
「最後の手段としては、必ず本部には報告しなければならない、しかし」
アンさんは皆を見渡して言った。
「何の罪もない仲間が死ぬのはもう御免だ、私達で見つけ出し、殺してから報告したい」
「私達ではありませんよ」
ヨオキさんが念を押すように言う。
厭味が入った言い方だった。
アンさんの目がヨオキさんに向けられる。
沈黙が起こった。
そこに、
「そうっす、私にはわかるっす、イマノリさんは分からないけど、ヨオキじゃないっす」
ゾカさんが擁護しだす。
なんでヨオキさんだけわかるんだ?
ゾカさん、なんかヨオキさんに凄く仲良くなって、信頼するようになったよな……。
僕も擁護してよ。
「あ、あのっ、ジャムを見分ける方法はないんですかっ」
僕が尋ねると、皆が下を向く。
「例えば、傷つけても血が出ないとか、はどうです?」
なんとかって映画はそうやっ見分けてたような記憶がある。
「昔の記憶が曖昧とかもあり得まるかも知れませんわ、ジャムに子供のころの記憶なんてありませんでしょうし」
ハロさんが提案した。
「この中にいるというのが、分かっているのなら、打てる手はあるな」
「なるほどっす、じゃあ私から話します、私の家はミラクテー北区の――」
ゾカさんが率先して生い立ちを話し出した。
――やばいぞ。
もし、こうやって昔の事を聞くとなると、僕は何も分からない。
何も言えないぞ。
適当にしゃべるか……いや、ヨオキさんがいる!
駄目だ!
バレる!
……どうしよ。
……このままいくと、ジャムの方もしゃべれないから、2人しゃべれないやつが出ることになるのか……。
でも最悪なのはジャムが話せた時だ。
適当に考えて話し出したりとかしら……。
「――あのっ」
幼稚園の先生の名前までしっかり憶えているゾカさんの話を遮って言った。
「話している話が本当かどうか、わからないんじゃありませんか?ジャムが適当に考えて話し出してたら、手のもあるんじゃないですか?」
「……ジャムにそれほど知能が?」
「駆除部隊は知能は低いと見ている」
「分かりませんわ、段々進化して知能は人と変わらないようになっているようですから」
「なんにしても、イマノリさんの言うように話していることが本当かどうか判定できません、私達は皆、部隊の生き残りってだけなんですから」
皆は納得したらしい。生い立ちを話すの早めになった。
助かった……。
でもよく考えたら、ジャムの方も助かったのかも……。
そう考えると、僕は、とんでもない事をしたのかもしれない。