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異世界転生、失敗  作者: わをんわをーん
6/21

 ヨオキさんは2人きりになると、部屋の隅でピシッと直立してきた。


 この主従関係、嫌だなぁ。


 落ち着かないよ……。


 はぁ、なんか……おしっこしたいな……。


「ちょっとトイレに行ってきます」


「ではお世話いたしますご主人様」


 ヨオキさんがスッと立ち上がる。


「えぇっ!いや、いらないですよ!」


「い、いらないって、ちゃんと拭けるのですかっ?」


 ヨオキさんが慌てふためく。


「拭けますよ!」


「そっそんなっ!?できるのですか!?」


「当たり前でしょ!」


 ヨオキさんが間抜けな顔になって驚いたまま、固まった。


 一体、この体の人は、どういう人だったんだ?


 そこまで世話させるのが普通なのかな。


 でも、いくらなんでも、中が変わったことをばれないようにと言っても、なぁ……。


 1人部屋を出て、真っ暗な廊下をランプ片手に歩いて、トイレの前まで来た時、男か女、どっちに入るかで迷った。


 何言ってんだ、迷うことはない。


 僕は女性なんだから。


 ドキドキしながら女トイレに入ろうとして、中から声が聞こえて立ち止まった。


――中に人がいる!


 別に焦らなくて良いんだけれど、焦って身を隠してしまった。


 ……一応、心の平安のためにも去ってからの方が良い。


 そう考え、引き返え――


「――誰!そこにいるのは!」


 ハロさんの声が響いた。


 ハロさんとゾカさんが、腰に差した剣を抜いて飛び出してくる。


 切っ先が喉元に突き付けられた。


 咄嗟にのけぞり、両手を上げる。


「なんだイマノリっすか……」


「こらっ、さんを付けなさいっ」


 僕とわかると、2人が剣をしまった。


「何をしてらしたの?」


「いえ、トイレに行こうとしただけです。すいません、怪しい真似をしてしまって」


 震える声でそう言う。


「もうちょっとで殺すところっすよ」


 ゾカさんがそう言ってけらけら笑った。


 ハロさんは僕を疑う目で見ている。


「そういえば……イマノリはこんな時に街の外に出て何をしてたっすか?」


「えっ?その、ちょっと気分転換です」


 知らないが、適当にそう答えた。


 疑われてる……?


「運がないね、こんなことに巻き込まれるなんてな」


「ホントにそうですわね……」


「皆さんはどうして、ここに隔離されているのですか?」


 質問をされてはたまらないと、僕から尋ねた。


「当時ずっと、私達は基地周辺の警備で2人、監視塔に配備されていたのですわ」


「私たち2人以外は皆、基地内勤務っす」


 ゾカさんが悔しそうな顔になった。


「で、交代に基地に戻った時っす……最初の死者が出て、すでにジャムが基地内に入り込んでいることが判明してて……」


 とこぶしを握る。


「汚染される……ので……私は中に入れてもらえなかったっす……」


「私も交代で基地に来て、その時、中に入ろうとするゾカを見つけて必死に止めたのですわ」


「仲間がいました。最後に……仲間から、家族に伝えてくれと、遺言も聞きました……私は、早くそれを伝えなくてはならないっすのに……」


 悔やんでも悔やみきれない顔をしたゾカさんを見てハロさんが、


「……すぐにジャムが駆除されますわ、もうその話はよろしいじゃない」


 ゾカさんの肩に手をやり、僕に笑顔を作り、


「あっイマノリさん、食事の用意ができていますわよ」


 この二人は仲が良さそうだ。


 共に助かったからだろうな。


「そうだった。伝えようと部屋に向っていた所ででもよおしてたんだったっす」


 ゾカさんが息を吐きながら言った。


 顔つきが柔らかくなっていて、僕もほっとする。


「食事?さっきの食堂でですか?」


「はい、まだ早いですがここではこの時間ですわ。食堂で食べるか、部屋に持ってってくれます?」


「はい、わかりました」


 2人は去っていった。


 緊張しながらトイレを終え、赤面したまま食堂に向かっていく。


 中にはテヲ・ライ伍長がいた。


 厨房に立って鍋をかき混ぜている。


「サオン嬢殿、食事ができたところです」


「ああ、もらいに来たんです」


 厨房だけ明かりが灯っていて、長テーブルがいくつもある食堂部分は暗かった。


 いくつもあるテーブルの上の、いくつも積まれている木箱が、厨房の光に異様に照らされている。


「その箱は全部、遺骨です」


 テヲ・ライ伍長が言った。


「えっ?」


「基地の仲間は、命令により燃やされて骨になってしまいました。ここぐらいしか置くところがなかったのです……」


 テヲ・ライ伍長は、鍋をかき混ぜるのをやめる。


「ジャムは死肉をあさるタイプのモンスターです。毒を撒き散らして死人を食べ、新たに子を産み増える、だから遺体は全て燃やしてしまえとの本部からの命令いです……」


「……そうだったのですか……」


「ホントに偶然だった……。基地で初めてジャムによる死者が出た時が私の移動日だった……私の最初の仕事がその骨壺さ。情報統制のために、まだ市街に居るこの方たちの家族は、まだ部隊が生きていると思っている……」


 テヲ・ライ伍長が俯いて、何か考え込んでしまった。


 僕は何と言って良いかわからず、黙るしかなかった。


 しばらくして、


「すまない、こんな話をサオン嬢にしてしまって……」


「いえ、皆さん方のご冥福をお祈りいたします」


「ありがとう」


 テヲ・ライ伍長は微笑んで、


「そうだ食事の前に風呂と行きませんか?」


「えっ?」


「風呂です、お背中流ししますよ!」


「えっ、でも接触してはいけないんじゃ……」


「ははは、あなた方がジャム出ないってことぐらいわかってますよ。2人とも見知った人ですしね。ジャムの擬態は誰かに似せてなんてできません。それにジャムが2人で行動するわけありませんからね、とっくに、どちらかを食べているはずです」


「……ああ、なるほど……」


 そりゃそうだ。


「しかし本部の指示で、監禁しなくてはいけないんです、ご理解ください」


「はい、わかっています……」


「私が信用できませんか?」


 テヲ・ライ伍長は悲しそうに言った。


 正直……そうだ……。


 でも、僕はテヲ・ライ伍長と一緒にお風呂入りたい。


 せっかく女性になっているんだし、有効活用したい。


 裸見たい。


「……いえ、あなたがジャムなら助けには来ないはずです」


 必死で、テヲ・ライ伍長が大丈夫な理由を探し出した。


 僕がそう言うとテヲ・ライ伍長は微笑む。


 美しい笑顔だった。


 裸見れる。


 風呂は、温泉らしかった。


 だからここにホテルができたんだと、テヲ・ライ伍長は教えてくれた。


「――ちょうど良い、湯加減ですねぇ」


「そ、そうですねぇ」


 湯が流れ溜まる大桶に浸って、テヲ・ライ伍長が気持ちよさそうに僕に言う。


 テヲ・ライ伍長は、やはり引き締まった筋肉質な体をしていて、割れた腹筋とその上の谷和原そうなふくらみが不釣り合いだ。


「ん?どうしました?」


「わぁっ、すいません!」


「なぜ……謝るので?」


「なっ何でもないんです、ははは、寝そべっちゃおうかな……」


「その方が風呂は気持ち良いでからね」


 2人並んで寝そべって湯につかる。


「ああっ」


 風呂の大きさの都合上、僕らの体は触れ合ってしまった。


 引き締まった体は想定外に柔らかかった!


「……私、ここに来て、神経の休まる日はありませんでした……」


「うへへ……へ?」


「私たち5人の中にジャムがいるんじゃないかと、ずっと神経を研ぎ澄ましてきました。表面上は信頼していると装って……」


 そう言って顔を俯ける。


「テヲ・ライさん……?」


「それが皆を裏切っているようで、信頼できない自分が恥ずかしくて……」


 ……思いつめているようだった。


「……そんな事ありませんよ……」


 こんなことしか言えない。


「……そう言っていただけると助かります」


 そう笑顔でこちらを見つめるそのテヲ・ライ伍長は、お湯に入ったせいか余計に綺麗に色っぽく見える。


「ここに来て初めて人間だと確信できる人に出会えて、私は嬉しくて。つい裸の付き合いを願ってしまいました」


「私も、一緒にお風呂に入れて、本当に、嬉しいです」


 本当にを強調して言ってしまった。


 雑念が入ってしまった。


「さて、私はもう一風呂だなっこれは」

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