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白い扉に入っていく鎧を着た2人に続いて、僕らも入った。
中は暖炉が燃えて、ランプと蝋燭が照らされ明るい、大きな食堂だった。右側奥に鍋が置かれている厨房も見える。
端から端まで続く長テーブルが四つが等間隔に並んで、テーブルの上には木箱がたくさん置かれていて、ほとんど木箱でテーブルがふさがれていた。
壁には時計だろう、針が2本、長さが一緒の色違いの針で、見方がわからないけど。
空いたテーブルのところに、軍服を着た女性が3人、席を1席ずつ離れて座っている。
長袖長ズボンに腰に剣を差して、僕らと同じ手袋をはめていた。
テヲ・ライ伍長が部屋に入ってくると、全員が起立する。
「皆、規則を破ったかいあって、第1基地前で助けることができたミラクテー市民だ。今日からここで保護することになる。境遇は我々と同じだ。ストレスなく暮らせるよう、皆、努力してくれ」
「了解いたしました」
3人が同時に敬礼した。
「よろしく、お嬢さん方」
ランプをテーブルに置きながら小柄な兵士が、兜を脱ぎながら言った。
ん?女性の声だ。
「私はボカト・アン。アンで良いよ」
厳然とした顔つきをしていたが、すごく幼い顔をしているショートカットの女性だった。
「サオン家の方なんだって?」
「あっはい、そうです」
「名前は……なんて言ったけな……」
「イノマリ・ヌワ・サオンと申します。私もイノマリで良いですよ」
横でまたメイドさんが、僕の言動に驚いている。
おかしいんだ。
普通に接っしてるぞ僕は……もっとつっけんどんにって事かな。
「仲よくしような、あっイマノリが貴族だから言ってるんじゃないぞ」
アンはあどけなく笑う。
「それはそうと伍長」
アンはテヲ・ライ伍長に振り返って言った。
「もう敷地外に出るのはよしてください。命令無視だけでなく、ただでさえ疑われている私達なんですから、本部になんて言われるか、処罰でなんかではすみませんよ」
「仕方ないだろう、命の危機だったんだ」
堂々とした態度でそう言うテヲ・ライ伍長にアンさんは困った顔を僕にだけ見せる。
それからメイドの女性に顔を向けると、
「よろしく、アンで良いからな」
「どうも、よろしく……私はヨオキ・ヅボロでございます、ご主人様に使える奴隷でございます」
「ヨオキね、よろしく」
やっとこのメイドの名前がわかった。
ヨオキっていうのか……。
「アマゴ・ノモ・ハロですわ、ハロで良いですわよ」
背の高い、長い髪の女性が続いて言った。
ハロさんの後ろで小さな女の子が、こちらにやって来る。
「ジゥサ・ゾカっす、ゾカでよろしくお願いしますっす」
そのベリーショートカットの女の子が、手を差し出してきた。
「ゾカ、握手は禁止ですわよ」
「あっしまった、つい」
ゾカさんはサッと手を引っ込めると、にっこり僕に笑った。
「すいません、アホな子でして」
「ハロ、私はドジじゃないっすよ、ちょっとうっかりしてただけっす」
ゾカさんはヨオキさんに振り向き、ハロさんと共に挨拶をする。
「私は、ムウ・サンロです」
セミショートの髪に、切れ目の美しい、見目麗しい女性が言った。
「サンロとどうぞ」
「イマノリです、よろしく」
僕は、その美しさに見とれてしまう。
「ヨオキでございます」
「さて、挨拶は一通り終わったかな」
テヲ・ライ伍長が兜を脱いだ。
金髪の艶やかな長い髪と端正な顔が中から出てくる。
厳然とした顔つきをしていたがすごく美人だ。
髪を束ねてあったのをほどき一つ息を吐くと、顔をこちらに向け、
「今後は人に過度に近づくことも禁じます、今皆がしているように席も1つ開けて座っていただきたい」
と言った。
……まさかこっちでもソーシャルディスタンスをしなくてはならいとは……。
「マスクは良いんですか?」
「マスク?何のために?貴族がしている物ですか?」
「いや、唾液とか、空気感染とかは、大丈夫なのかなって」
「いえ、接触以外での寄生虫が感染したとの例はありません。唾液や空気では、寄生虫は移動することはできないでしょう?」
「ああ、そうですか……」
……ウィルスとは違うか。
モンスターの話だもんな、これ。
「服も我々の軍服を用意しますので、それを着るようにしてください。そして、自分の部屋以外は肌が露出しない様にお願いいたします。また他人の部屋に行く事も禁じます」
直接接触することで感染か……。
「あと、護身用のナイフも与えます、もし急接近してくる、顔を近づけてくるなどを、誰かにされたらしたら遠慮なく殺してください、そいつはジャムですので」
テヲ・ライ伍長がそう言うと、みんなが笑った。
僕も作り笑いをした。
これは、ギャグも入っているだろうけれど、注意も含まれていた……つまり、そんな真似するなよ、したらその場で殺すぞと言う意味だった。
「ここにいる私を入れて7名、この中にジャムはいませんが、一応やっておかないといけないもので、しばらく我慢をお願いいたします」
テヲ・ライ伍長がそう言って頭を下げてくる。
「では部屋に案内いたしましょう。サンロ、ついでにこのホテル内の案内を頼むぞ、部屋は一番東の部屋だ」
「はい、了解いたしました」
サンロさんは敬礼すると、アンさんのランプを借り、僕らを暗い廊下の中先導して行った。
建物の窓はすべて閉じ込めるために、鉄が打ち付けてある。
トイレと風呂の場所を教えられながら1階の角部屋に来た。
鍵で部屋の扉を開けると、中に入る。
そしてランプで部屋の燭台に火を付けた。
テーブルに椅子が2つ、両壁にベッドが1つずつ。
「この施設内なら自由に行き来して宜しいですから、このランプを使ってください。朝でも暗いですからね。あと、部屋の鍵は必ず閉めてください。眠る時だけでなく部屋に入ったら鍵をかけるを徹底してください」
と言ってテーブルに鍵を置く。
「名使いの方と一緒の方が良かったですよね」
「はい、ご主人様の身の回りの世話ができます」
ヨオキさんが言った。
えっ女性と同じ部屋なんてっ。
あっ、僕も女だったか……。