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異世界転生事務所に、僕は来ていた。
地平線の見えるほど、事務所は大きく、広かった。
しかし天井は低く、手を伸ばせば届く高さだ。
……そんなこと……どうでも良いけど。
事務服を着た職員達が忙しく働く中、そこからちょっと離れたテーブルで、タラバさんと対面した。
安価なソファに腰掛け、
「どこで感染したんだろうと考えました」
「そんな事、考えてたんですか」
そういう僕を、タラバさんは非難するように見つめてきた。
「はい、奴隷を解放した時です、そこしかないんです」
「もう良いじゃありませんか」
タラバさんは、書類を差し出す。
甲とか乙とか書いてあるが、意味はよくわからなかった。
「読めますよね、日本語に変換されてますよね」
「大丈夫です。ただ、気持ちの整理がしたいんです」
「転生すれば、記憶なんてなくなります。ここにサインです」
ペンを書類の上に置く。
「今の問題です、ちょっとだけ、お願いします」
「……うーん」
「しかし、なんで感染が回ってなかったのかがわかりません」
「それは……代謝がほぼなかったからだと思われます。死んでいた体を、魂だけ入れて動かしていた、つまりは操り人形みたいなものですので、感染もほぼしなかったのでしょう。運が良かった……」
「……そんな事……言ってました……ね……」
「覚えてなかったのですか?」
「はい……」
じゃあテヲ・ライ伍長は、ヨオキさんと、一緒に風呂に入ったとか言ってたな、その時か。
「勘違いで、アンさんを殺してしまいました」
「……そうでしたね」
じゃあゾカさんは?
「でも、駆除隊に殺されていましたよ。気にしない方がよろしいですよ」
「ゾカさんは、どこでだろう。そういや、ヨオキさんと仲良かったな。一緒に風呂に誘おうとか言ってたっけ」
「田中さん、もうやめましょ」
タラバさんが慰めるように言ってきた。
「つまり、ホテルに来て、次の日には接触して、ゾカさんは言いくるめられたのかな。ハロさんと触れた時のように、あなたをジャムじゃないと信じます、とか言われて」
「もう、わかりませんよ……そんな事……」
タラバさんはあきれたように、そう言ってくる。
推測でしかない……。
まさかジャムなんていないと思って……7日間、ゆっくり過ごしすぎた。
「最後に……タラバさん」
「なんですか?」
「どうしてヨオキさんがジャムだと、教えてくれなかったんですか?」
「ああ、その事ですか。下手に正体を教えない方が、協力して駆除隊から逃げ切る確率が上がると考えました」
「確率?」
「はい、ジャムの方も協力して駆除隊から逃げようとしていたので。利用した方が良いかと思いました。田中さんが、ジャムを討つと、あそこで争う事も考えられましたので」
「そう言う事でしたか……」
「さっ、もう終わりにしましょう」
「……はい」
書類にサインしする。
「たしかに」
タラバさんが確認すると、何やら物々しい、どでかいハンコを取り出す。
重そうに両手で持ち上げ、書類に判を押した。
途端、目がくらみだす。
「ではさよなら、田中さん、転生先は約束通り、良い生まれですからね」
「ああ……もう……こんなに……すぐなんですか……」
「はい、ご苦労様でした」
「お疲れ……さまで……し……た……」
目の前が真っ暗になった。
そこに光が現れる。
前方の光が、だんだんと強くなっていった。
眩しくて何も見えなくなる。
堪らなくなって目を瞑った。
……なんだ……。
しばらくして、瞼越しにも光がなくなったのが分かって、ゆっくり目を開ける。
すると、のどかな草原が視界に飛び込んできた。
どこだここ……。
呆然と、草原に流れるさわやかな風を受ける
「田中さん!!」
「わぁぁ!」
突然現れたおっさんに、びっくりして倒れかけた。
「ああ!繋がった!繋がった!」
タラバさんが喜んでいる。
空中に浮かぶ丸い窓の中で、
「田中さん!私、異世界転生事務所!主査のタラバと申します!」
と頭を下げる。
「……知ってますよ」
「ああ、すいません、つい癖でっ」
と頭を抱えた。
「あれ?転生されたんじゃないんですか?」
「はい、そのはずだったんですが……」
「……何かあったんですか?」
「はい」
タラバさんの表情が暗くなる。
そして深刻な表情で、
「田中さん、よく聞いて」
と僕を真っすぐ見つめた。
「ご自分の体をまず、ゆっくり落ち着いて見て見てください」
何?
何だ?
……自分の体って……。
「タラバさん……それ、デジャブなんですが……」
「はい」
タラバさんが、申し訳なさそうな顔になる。
とりあえず見て見よう……。
恐る恐る、顔を下に向けて自分の体を見た。
「おわかりいただけましたね?」
……これは……なんだこれ?……。
「何で!?どうなってんだ!?」
ここまで読んでくださってありがとうございます。心より感謝を申し上げます。
作品への評価をして頂けるとうれしいです。




