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「その方は、えっと、イノマリ・ヌワ・サオンさんという方です」
タラバさんはなにやら書類を片手に持って、確認しながら説明する。
「地図によりますと、そこはシムキョ島って所でして、島には唯一の街のミラクテーってところがあります、その方はその街の大貴族の娘だそうです」
僕は鏡に映る顔を見ながら、口を開いたり閉じたり、鼻を膨らましたりした。
鏡に映る美しい女性の顔が、僕の思ったように動く。
首のところに大きなブローチがあった。
家紋か何かが描かれている……なんだろう……。
「……田中さん、何をやっておられるのですか?」
「いや、ホントに僕の顔かなって思いまして、確かめていたんです」
「話をちゃんと聞いてもらえますかっ」
語気を強め言ってきた。
「良いですか、あなたがしっかりしないと、何時まで経っても元に戻れませんよ」
「……はい」
……何なんだこいつ。
お前のせいでこうなってるんじゃないのか。
だいたい必死なのも、このまま僕がこのまんまだったら自分らが困った事になるからだろうにっ。
ムカムカするな、こいつ。
「それで、その街で魂を呼び戻すアイテムを買ってください、それで、元通りです」
「……、……えっ売ってんの!?」
「はい、街に行けば、フェニックスの涙と言う名前で売ってます」
「そんな簡単だったの……」
気張っていた肩の力が抜ける。
「どうしました?」
うるさい馬鹿。
そっちが早く言わないからから、こっちはいらぬ心配をしてしまってたんじゃないか!
「じゃあ、僕は街に行って、フェニックスの涙だっけ、それを買ってくるだけで良いってことですか?」
「はい、そうで――」
タラバさんが僕の後ろを睨む。
「どうしま――」
「――後ろぉぉ!」
いきなり叫んで背後を指さした。
驚いて打ち振り向くと、
白い……馬車……?
が走っている。
こっちにやってきていた。
御者台にはメイド服を着た女性が乗っている。
見続けていると、僕の前で止まった。
女性が馬車から降りて、王宮護衛兵みたいにピシっと直立したと思うと、僕に直角に頭を下げてくる。
僕はタラバさんを見た
「あっ田中さん、私の姿や、声などは田中さんにしか見えていません。私には話しかけたりしないでくださいね、私どもの存在は内密なんですから」
「……」
言われた通り、何の反応もしないようにして、メイド姿の女性に視線を戻す。
近くで見ると、メイドさんのおかっぱ頭からぴょこんと三角形の耳があった。
まさかこれはと、お尻の方を見ると尻尾がある。
「ご主人様、お時間になりました」
……ご主人様?
「ミラクテーへと帰宅なさいましょう」
ピシっと起立したまま、僕に言ってきていた。
「田中さん、あの方は獣人という種族の者です、そちらの世界にはいなかったと思いますので、よくわからないと思いますが」
尻尾をのぞき込んでいる僕に察したのか、説明してくれる。
「田中さん、ご主人様と言っているという事は乗り移っている体の、えっと名前なんて言ったけ……ああ、イノマリ・ヌワ・サオン嬢の従僕なのでしょう」
「あのっご主人様、いかがなさいました?」
「えっ?」
メイドさんは、僕が返事もしないので不信がっていた。
「……うん、わかった」
なんとなく、流れに任せて、そう頷く。
返事を聞いてメイドさんは頭を下げると、馬車の扉を開けステップを出し始めた。
「これからミラクテーに行くと言ってますし、乗って行けば良いと思われます」
そうだな……頷いて良かったな……。
タラバさんを何度かチラ見した後、搭乗の用意された馬車に乗り込む。
「ご主人様、お落としになってございます」
メイドさんが走ってきて、タラバさんの真下に落ちていた丸い円に布がかぶさっている物を拾った。
僕は、これが僕のものかわからなかったが、流れに任せて受け取る。
「それ、顔を隠す奴です、貴族ですからね」
タラバさんが説明してくれた。
「あの、よろしいんですか、ご主人様、覆いをつけなくても」
メイドさんが、おどおどと、言ってくる。
「ああ、そうですね」
すっと覆いをかぶると、馬車へと乗り込んだ。
天井の真ん中に家紋みたいなのが描かれている。
ブローチに描かれたものと同じだ。
たしか貴族だって言ってたな、これが家紋なのか。
閉められたカーテンをめくるとタラバさんが、
「お気をつけてぇ!」
馬車の中の僕にそう叫んで、手を振っていた。
「すぐに元通りになりますから、元に戻った時のために中身が入れ替わっている事がバレないように、おかしな行動などはせぬようお願いしますね!」
そう叫ぶタラバさんを置いて行って馬車が動き出す。
えっ僕と一緒に来てくれないの!?
「あと、お気づきのように言語の問題も大丈夫です、翻訳されて聞こえるように脳みそをいじりましたので!」
僕は、
タラバさんも一緒に来て!一人じゃ心配だよ!
という気持ちをジェスターで伝えた。
「緊急時以外、こういう事は出来ないんです!頑張ってください!」
手を大きく降って、健闘を祈るとジェスターで伝えてくる。
そして、空中に浮いた窓が一瞬で消え、タラバさんは見えなくなった。
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