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ゆっくり目を開けた。
のどかな草原が視界に飛び込んでくる。
どこだここ……。
「田中さん!!」
「わぁぁ!」
びっくりして倒れかけた。
「ああ!繋がった!繋がった!」
丸い窓のようになものがいきなり空中に現れ、その中でバーコード頭のおっさんが、僕を見つめ喜んでいる。
「田中さん!私、異世界転生事務所の!主査のタラバと申します!」
と頭を下げてきて、
「混乱していらっしゃるでしょうが、ご自分が亡くなったことは記憶にありますか?」
「え……?」
……僕が死んだ……?
えっ?どういう……意味……。
――ハタと気づいた。
「海に遊びに行って……溺れてました……」
「そうです、高校のご学友達と海へ行って溺れて亡くなりまして、私共で異世界転生を実行いたしました」
「異世界転生?」
「良いですか、その転生の作業中にアクシデントがありまして、田中さん、ご自分の異常に気づいていますよね?」
タラバさんは早口でしゃべる。
僕はあたりを見渡した。
遠く森が見える。
山もあるし、何か壁みたいな建造物も遠くに見える。
「あの、景色なんて見てないでください、話を聞いていましたか?大事なことなんですよこれはっ」
タラバさんは語気を強めて言ってきた。
僕にイライラしているみたいだ。
「僕は異世界に来たとかいうのが信じられないんですが……」
「……異常に気づいておられないみたいですね……いえ、すみません……こちらも手いっぱいでして、本当はちゃんと説明するべきなんですが……」
タラバさんはハンカチで汗をぬぐった。
「……何かあったんですか?」
「はい」
タラバさんの表情が暗くなる。
そして深刻な表情で、
「田中さん、よく聞いて」
と僕を真っすぐ見つめた。
「ご自分の体をまず、ゆっくり落ち着いて見て見てください」
何?
何だ?
……自分の体って……。
顔を下に向けて自分の体を見る。
「おわかりいただけましたね?」
……これは……。
なんだこれ?……。
「何で!?どうなってんだ!?」
タラバさんに激しく問うた。
胸元の開いた服を着て、ヒラヒラのスカートに、ストッキングを履いている!
って、そんな事はどうでも良い!
それより何だこれ!?
自分の体が、自分のじゃない!
どうなってんだ!?
少し日焼けしている手を握ったり開いたりする。
すぐ目の下にある二つのふくらみを掴む。
「僕の体はどうなってしまったんですか!?」
窓の向こうで、タラバさんは申し訳なさそうにして、
「実は、田中さんの魂をその世界へと飛ばした際、本来ならば生まれてくる新しい命に命中するところを、間違って、人と衝突してしまって、それで、その結果、その人を殺してしまいました」
「その人を……殺してしまった……」
「そうです」
タラバさんが暑苦しいとネクタイを取りながら、
「それでですね、すでにその亡くなった方の魂は魂管理課に行ってしまいまして、波風を立てない様に元に戻すために、この事故を何とかしなくてはならなくなりまして、申し訳ないとは思いましたが、おもったんですよ、はい、しかしここは協力してもらおうと、その人を助けるために急遽、田中さんの魂を、代替しました」
「代……替とした……?」
「そうです」
タラバさんがコップを手に取りあふれるばかりあった水を一気飲みして、
「それでですね、異世界転生事務局から田中さんにお願いがあります、幸運なことにその世界にはフェニックスの涙という魂を呼び戻す事ができるアイテムがありまして、この事態を元に戻すために、フェニックスの涙を見つけて使ってほしいんです、お願いします」
「フェニックスの涙を見つける……?」
「そうです、そうしないと、衰弱死します」
「……僕は、衰弱して死ぬ……って言うんですか?」
「そうです!」
タラバさんはバーコード頭をハンカチで拭きながら、一仕事終えたと息をついた。
「魂の拒絶反応をなくすために代謝を極限まで弱めています。その世界で15日から20日で生命活動ができなくなります」
「代謝を極限まで弱めて……15日から20日で……ああ、死ぬ」
「それでですね、その人をそれまでに甦らせてほいしいんです、大丈夫ですか、ご理解いただけましたか?」
僕は言葉を失った。
「こちらも初めての事で、大慌てで処理している次第でございます。迷惑とご苦労をおかけいたしますが、ご協力のほどお願いいたします」
タラバさんが深く頭を下げてくる。
「……あの、田中さん?」
頭を上げ心配そうにこっちを見てくるタラバさんに、口を弱弱しく開き、
「……この人を殺してしまったミスを何とかするために、魂を呼び戻すアイテムを見つけて生き返らしてから、僕が晴れて異世界転生できる、とそういうことですか?」
「はい、その通りでございます!さすが!」
タラバさんが参りましたとばかりに、もう一度、頭を深く下げてきた。
この人の言っている事はホントだろうか……。
いや、そうでないと、この体の事が説明着かないし……。
異世界転生か……まさかホントにあったとは……。
しかも事務所って言ってたなこの人、そんな感じで行われてたのか……。
「このお詫びとして、この度の田中さんの転生の際は、ちょちょいと弄くって、五体満足、聡明叡知、眉目秀麗、おまけに銀の匙を咥えさせて隠棲させますので」
「えっ?」
「ですから、どうかご了承なさっていただきたい!」
タラバさんが頭を深く下げてくる。
……この人って、ようはこの失敗を隠したがっているんだな。
そんな好条件付けるっていうのは、そういう事だろう。
……次の転生は、恵まれて生まれるのか……。
いや、これは、ラッキーなんじゃないのか?
僕は何も持たずに転生されようとしてたんだ。
危ない危ない、また苦しい毎日じゃないか、それじゃ。
「あの、タラバさん、ちなみに失敗したらどうなるんですか?」
「失敗したら、あなたの魂は転生されず消えます」
……まじか……。
……じゃあ……選択肢なんてない……。
よし!
「はい、了解しました、やりますよ、やります」
「ああ、助かりました」
タラバさんが笑顔になって、また頭を下げてくる。
「その代わり約束しますよ、転生の際」
僕はにやつくのをこらえ切れずに思わず口角が上げながら言った。
「ええ、もちろんですとも。そうだ、田中さん、この鏡をご覧ください」
タラバさんは下の方でゴソゴソすると、一枚の手鏡を持ってこちらに向けてくる。
「……これが、僕?」
差し向けられる鏡の中には、淡色の短い髪で、鼻のとんがった、同い年ぐらいの女性の顔があった。