前略、道の上より-2
「本当に、あのバカ!腹が立つったら、ありゃしない」
激しい剣幕で話しまくるしのぶに美雪は気押されて、頷くしかなかった。近くにいた江川は聞こえないようなふりをして関わることを避けていた。
「まったく、自分が一番偉いつもりでいるんだわ」
そうまくし立てていると、ジローが理江子と一緒に教室に入ってきた。それを見つけたしのぶは手を振ってジローを呼んだ。
「ジロー君、おはよう」
ジローはいきなりで面食らってしまった。隣にいた理江子を気づかいながら、「おはよう」と返事を返した。
「ね、ちょっと、聞いてよ」
しのぶの勢いに巻き込まれて、近くへ呼び寄せられてしまった。
「あいつ、どうにかしてよ!」
「あいつ、って…」
「イチローよ。あのバカ」
「バカ…って、一応ボクの兄さんなんだけど」
「わかってるけど、ひどいのよ」
しのぶは勢いでまくし立てるように話し続けた。ジローは口を挟む間も与えられず、一気に話を聞かされた。ふっと、しのぶがひと息ついた時にようやく、話す機会を得た。
「ごめんね。兄さん悪気はないんだろうけど、つい、勢いで言っちゃうんだよ」
「そんなの、ジロー君に謝ってもらいたくて話したんじゃないわ。ただ、聞いて欲しかったのよ」
「うん。ごめん」
「いいのよ…」
俯き加減に謝るジローにようやくしのぶの熱も冷めたようだった。
予鈴とともに松原先生が入ってきた。それを見てみんな慌てて席に着いた。ジローは席に着いてから、ちょっとしのぶの様子を盗み見た。しのぶは何もなかったかのように授業の準備を始めている。よかった、と思ったジローは自分も授業の用意を始めた。