第8話 それって「勇者学院合格」ってことだよね?
-この街に来るのも約1年ぶりか…。
サリシアと別れ、ノイルは11ヶ月ぶりに街に戻ってきた。
勇者学院の入試前日とあって、他の街から来た人も多くいる。
-まずは、宿を探さなくてはな。
レヴィアース勇者学院には寮がある。
合格してしまえば、その後の衣食住に困ることはない。
問題は、今日の夜どこで寝るかだ。
…と、ここまで考えて、ノイルは自分が金を持っていないことに気付いた。
-どこにも泊まれやしないか…。
どうしたものかと思案していると、ノイルの頭に1つのアイデアが浮かんだ。
「アレを使うか。」
そう呟くと、ノイルは人気の少ない方へと歩き出す。
15分ほど歩き、暗い裏路地にやって来た。
-ここでいいだろう。
ノイルは剣を鞘から抜き、自分を囲むように振る。
「空離剣。」
ノイルは自分の周りの空間を斬り離し、楽な姿勢を取った。
実はこれ、ラピリアにいた時に使っていた休み方だ。
魔物たちが日昼夜を問わず襲ってくるため、空離剣を使って即席の寝床にし休んでいたのだ。
-これで、日の出を待とう。
ノイルはゆっくりと目を閉じた。
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朝が来た。
眩しい日差しで、ノイルは目を覚ます。
「うーん」と大きく背伸びをし、剣を振って元の空間に戻った。
「さて、行くか。」
自分を励ますように呟くと、ノイルは勇者学院に向かって歩き出す。
-どこかで朝食を…いや、金が無いんだった。
ノイルはがっくりと肩を落とした。
勇者学院の前まで来ると、そこは大勢の子供とその親たちで溢れていた。
-去年もこんな感じだったな。
そうだ、フィアは来ているだろうか。
そんなことを考えつつ、受付に向かう。
受付を担当してくれるのは、40代くらいの眼鏡をかけた女性だ。
「名前をどうぞ。」
「ノイルだ。」
「受験は何回目ですか?」
「2回目だな。」
「前回はいつ受験を?」
「去年だ。」
受付の女性は、パラパラと名簿をめくり始めた。
恐らく、去年の受験者からノイルを探しているのだろう。
「ありました。ノイル・カミーラさんですね?」
「いや、ただのノイルだ。俺はもうカミーラ家の者ではない。」
ノイルが言うと、受付の女性は不思議そうな顔をしたが、どんどん手続きを進めてしまった。
「それで、受験方法はどちらを選択されますか?」
「模擬戦で受ける。」
女性が目を見開いて、ノイルを見つめる。
「模擬戦…ですか?それで合格した人は、今までいませんよ?」
「構わない。模擬戦で受ける。」
-どのみち、模擬戦でなければ確実に落ちるのだ。
「そうですか…。分かりました。では、こちらをもって受験会場へどうぞ。場所もこれに書かれています。」
「ああ、ありがとう。」
女性がノイルに渡したのは、受験票のような用紙だった。
名前と受験方法、そして受験会場が記されている。
受験会場は、「第1模擬戦場」となっていた。
-模擬戦の相手はどんな人なのだろうか。
いや、何属性の誰であろうと勝たねばならないな。
ノイルは深く息を吸うと、地図に従って歩き始めた。
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1時間後、いよいよノイルの受験開始時刻だ。
模擬戦での受験者は約10年ぶりということもあり、第1模擬戦場の客席に多くの人が詰めかけていた。
「うむ。不正は無いな。行ってよし。」
勇者学院の教員による、不正な持ち物の持ち込みが無いかの検査を終え、ノイルは中央にある闘技スペースに出ていった。
観客から、大きな声が上がる。
「おお!10年ぶりの馬鹿ってのはあいつみたいだぜ!」
「せいぜい頑張れよ!ま、負けるだろうけど!」
「カッコつけちゃったのかな!?逃げるなら今のうちだぞ!」
ほとんどの声が、ノイルを馬鹿にする声だった。
誰も、ノイルが合格するとは思っていないのだ。
-まぁ、見てろって。
以前のノイルなら、サリシアと初めて出会った時のようにブチ切れていたかもしれないが、今は冷静さを保っていた。
ふと、観客の声がより大きくなる。
今度は、応援する声や歓声だった。
ノイルの対戦相手が、闘技スペースに出てきたのだ。
「頑張れよ!」
「叩き潰してしまえ!」
「瞬殺だ!瞬殺だ!」
声援に応えるように、対戦相手の男子生徒が観客席に向けて手を振る。
それに伴って、観客席の応援はより大きくなった。
男子生徒が、ノイルの方へ歩み寄って来る。
「やぁ。俺はレスカル家の長男、エクイシア・レスカルだ。どうぞよろしく。」
「ああ、よろしく頼む。」
レスカル家といえば、カミーラ家と同じくらいの由緒正しい貴族の名家だ。
その長男で、この模擬戦に出て来るからには相当な実力者なのだろう。
一見、友好的に話しかけてきたエクイシアだが、その目は笑っていなかった。
「全く、君が模擬戦なんて面倒な方法を選ぶから僕が駆り出されたじゃないか。本当に、迷惑なことをしてくれるよ。」
「そうだったのか。迷惑なら、出て来なければ良かったのにな。どのみち、俺が受かることは決まっている。戦って勝っても不戦勝でも、俺はどっちでも良かったんだが。」
エクイシアの皮肉に、ノイルも目一杯の皮肉で返す。
ノイルの皮肉は、エクイシアの癇にかなり障ったようだ。
「随分と偉そうだね。受験票を見せてもらったけど、君はカミーラ家を逃げ出したあのノイルじゃないか。そんな君が、俺に勝てるとでも?」
-ふむ。俺のことを知っていたか。
1年前の俺を知る者なら、確かに誰も自分が勝てると信じて疑わないだろう。
だが、今の俺はあの時とは全くの別人だ。
「勝てるとも。」
「言うじゃないか。瞬殺してあげるよ。」
エクイシアが、踵を返して闘技スペースの反対側に戻って行く。
ノイルも、改めて自分の立ち位置を確認し直した。
「両者、用意はいいか?」
試験監督を務める男性教師が確認を取る。
ノイル、エクイシア共に頷いた。
「では、始め!」
その合図で、観客席から歓声が沸き起こる。
エクイシアが嘲るように言った。
「さぁ、何秒持つかな!?」
ノイルは冷静に、真眼でエクイシアの魔力属性を見極める。
全部で5色。
つまり、全能だ。
と、赤色が一気に鮮やかになった。
-最初は火属性の魔法から来るか。
ノイルは剣を鞘から抜き、構える。
エクイシアが、ノイルの読み通り火炎魔法を発動した。
「ファイアーボール!」
ノイルを目がけて、一気に3つのファイアーボールが飛んで来る。
しかし、水の弾丸を飛ばすゴールドウォータードラゴンと戦っていたノイルにとって、それはあまりに遅い攻撃だった。
「魔滅剣。」
ノイルの剣が、全てのファイアーボールを斬って消滅させる。
「ちっ。水属性か。なら!」
ファイアーボールが消されたことで、ノイルを水属性と勘違いしたエクイシアは、地属性の魔法を発動させた。
「ストーンフォール!」
ノイルの頭上から、10個の岩が降ってくる。
しかし、これもまたノイルにとっては遅すぎる攻撃だった。
「魔滅剣。」
冷静に、10個の岩を斬る。
その1つも、ノイルはおろか地面に届くことすらなかった。
「これも駄目か。面白いな。ならこれで行くぞ!」
エクイシアが、新たな魔法を発動しようとする。
しかし、ノイルにはその魔法もまた遅すぎることが分かっていた。
-これ以上、続けても無駄か。
そう感じたノイルは、勝負をつけることにする。
「空滅剣。」
自分とエクイシアとの間の距離を、斬って消滅させる。
エクイシアの目の前に、ノイルが突如現れた。
「何!?何をした!?」
動揺するエクイシア。
ノイルは、サリシアを真似てあっさりと言った。
「斬っただけだ。空間をな。」
そしてそのまま、エクイシアに剣を振るう。
「不斬剣。」
エクイシアを傷付けることなく、彼の戦意だけを消滅させた。
エクイシアが膝から崩れ落ちる。
会場の歓声が、一瞬にして止んだ。
「勝者、ノイル!よって、ノイルはレヴィアース勇者学院に合格とする!」
男性教師が声を張り上げる。
それでもまだ、歓声が起きることはなく、会場は静まり返ったままだった。
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