第6話 それって「六剣習得」ってことだよね?
「さて、ノイル。」
魔王城での修行を終え、ノイルとサリシアは元のオアシスに戻ってきた。
これからいよいよ、残す2つの技の修行が始まるのだ。
「残る技は、不斬剣と断罪剣だ。」
「はい!」
「この2つの技は、今までの技以上に集中して修行しなければならない。心してかかれ。」
サリシアの今までになく真剣な表情に、ノイルは背筋が伸びる気がした。
「この2つの技は、完璧に習得しなければ他人の命に関わる。しっかりと精神を整え、修行するのだ。いいな。」
「はい!」
ノイルのはっきりした返事に、サリシアは満足気に頷いた。
「まずは、不斬剣だ。読んで字のごとく、斬らない剣。この意味が分かるか?」
-剣を使うのに斬らない。
まるで意味不明だ。
「分かりません。」
「そうか。では、具体的な状況で考えてみよう。君の妹が、誰かに脅されて君を殺しに来たとする。君は、彼女を斬れるか?」
「それは…多分…無理です。」
「そうだろう。殺さなければ、殺される。しかし、殺すべきではない。そんな時に使うのが、この不斬剣だ。不斬剣は相手を直接斬ることなく、相手の戦意だけを斬って消滅させる。」
「つまり、相手に傷は付かないということですね?」
「そうだ。対して断罪剣は、生かしてはおけない悪人に対して使うものだ。斬った人間を消滅させる。人は時に、闇の面に落ちることがあるからな。」
断罪剣の解説をするサリシアの声は、どこか悲しげだった。
「戦っていれば、必ず人と戦わなければならない状況に出くわす。その時に、不斬剣を使うべきか、断罪剣を使うべきか。正しい判断が出来なければならない。今まで以上に集中する意味が分かったな?」
「はい!」
ノイルは大きく深呼吸し、気合いを新たに入れ直す。
-これは、本当に今まで以上に真剣にならなければいけない。
ノイルの目が、より力強くなった。
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そして、また2ヶ月経った。
比較的マスターしやすいという断罪剣を先にマスターし、ノイルは不斬剣の習得に取り組んでいる。
オアシスで、ノイルとサリシアが剣を持って向かい合っていた。
ノイルの目は、より鋭くなりどれだけ集中しているかがよく分かる。
「空滅剣!」
ノイルが、サリシアとの距離を一気に詰めた。
そして、その首目がけて剣を振る。
「不斬剣!」
剣は確かに、サリシアの首を捉えた。
しかし、その首が斬り落とされることはない。
代わりに、サリシアが膝から地面に崩れ落ちた。
ノイルの剣は、サリシアの戦意だけを見事に斬って消滅させたのだ。
「素晴らしい。上出来だ。」
立ち上がったサリシアが、ノイルに拍手を贈る。
「ここまで出来れば、不斬剣も習得したと言っていいだろう。」
サリシアの言葉に、真剣だったノイルの表情がほころぶ。
「見事だな。8ヶ月間、死ぬこと396回。六剣を完璧に習得した。素晴らしい。」
「ありがとうございます!」
-よし!ついにやったぞ!
ノイルの心は、言い表しようがない達成感で満ちている。
剣を鞘にしまい、力強く両手の拳を握りしめた。
「さて、残すところは真眼の開眼と君の精神的な面の強化だ。」
「精神的な面…」
「そうだ。君は、感情の起伏が激しすぎる。その調子では、いざ戦闘になった時に間違った判断をしかねない。」
精神的な面は、自らの弱点としてノイルも自覚しているところだった。
この8ヶ月でかなり鍛えられてはいるものの、まだ成長の余地があるという訳だ。
「そこでだ。これから3ヶ月間、最終的な修行も兼ねて君にはラピリアで生き抜いてもらう。もちろん、私は何ら手出ししない。」
「手出ししないって…蘇生もですか!?」
「当然だ。必要ないだろう。」
「必要ないって…。」
「それとも何だ。君は、たかがゴールドドラゴンを相手にして死ぬとでも言うのか?」
ゴールドドラゴンが「たかが」レベルの魔物ではないことを、指摘できるツッコミ役は誰もいない。
「それは、死にませんけど…。」
「うむ。ラピリアで暮らす間、自らの精神を鍛え常に冷静さを保つことを意識しろ。3ヶ月後、このオアシスに戻ってこい。いいな?」
-ここまで来れば、もうやるしかない。
「分かりました。」
ノイルは力強く頷いた。
「よし。では、3ヶ月後にまた会おう。」
「はい!」
そしてノイルは、2ヶ月間の修行を行った魔物の生息地へ走り出した。
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-冷静さを保つにはどうしたらいいんだろうか…。
何か、良い修行法を探さないとな。
そんなことを考えつつ、ノイルは後ろから飛んで来た巨大な蜂のような魔物を一瞬で斬り捨てる。
その魔物が、「デッドダークビー」という毒を持つ魔物の中で最強格の魔物であることを指摘する人は誰もいなかった。
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3ヶ月後、ノイルはオアシスに戻ってきた。
サリシアが、例の巨木の前で迎える。
「よく帰ってきたな。素晴らしい。」
「うむ。ただいま帰ったぞ。」
サリシアがキョトンとする。
-ノイル?その口調はどうした?
「サリシア、どうかしたか?何か、顔に付いているだろうか。」
-ふざけているのか?
それとも、ラピリアが過酷すぎて頭がおかしくなったのか?
「ノイル…。」
「何だ?」
「その口調は…どうした?」
「うむ。これはサリシアの真似だ。」
サリシアが、さらにキョトンとする。
-私の真似だと?
言われてみれば、確かに似ているが…。
何のために?
「サリシアは、常に冷静という感じがしたからな。口調や態度を真似ることで、俺にも冷静さが身に付くと思ったのだ。」
「な、なるほど。それで、効果はあったのか?」
「ああ、もちろんだ。」
いつぞやのサリシアのように、ノイルが歯を見せて得意気に笑った。
「しっかり、周りが見えるようになってな。世界がこんなにカラフルだったのかと、驚かされた。」
「今、何と…?」
「ん?世界がカラフルだと言ったのだ。赤や青や茶色、黄色や紫なんかがより鮮やかに見えるようになったな。」
-とうとう来たか…。
サリシアは、ノイルの言葉にニヤリと笑った。
「ノイルよ。」
「何だ?」
「君は、真眼を開眼しているぞ。」
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