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第4話 それって「瞬間移動」ってことだよね?

 「空滅剣ナンバースリーがどういう技か、実際にやって見せよう。」


 そう言うと、サリシアはノイルから100mほど距離をとった。

腰から剣を抜き、右手で顔の前に構える。


 「用意はいいか?一瞬だから見逃すなよ!」

「はい!分かりました!」


 サリシアは両手で剣を持ち直すと、


 「空滅剣ナンバースリー!」


 目の前の何も無い空間を、剣でなぎ払った。


 …と次の瞬間、100m先のノイルの前に現れる。

ノイルは、思わず固まった。


 「ふむ。こんなものだな。どうだ、分かったか?」


 尚も固まっているノイルの顔の前で、サリシアが手を振る。


 -何が…起きたんだ…。


 ノイルの思考も完全に固まってしまっていた。

それもそのはず。

100mの距離を、剣を振っただけで一瞬で詰めたのだ。


 「ぷはぁ!はぁ…はぁ…」


 ノイルの体を動かしたのは酸欠だった。

あまりの衝撃に、息をするのも忘れていたのだ。


 「一体…今のは…何ですか…。」


 息も絶え絶えにノイルが聞く。

サリシアは、あっけからんと言い放った。


 「今のが空滅剣ナンバースリーだ。」

「一体、どんな剣術なんですか…?」

「そう驚くことでもないぞ?」


 そして、サリシアは白い歯を見せて得意気に笑った。


 「斬っただけだ。空間をな。」


-めちゃくちゃだ…。

 斬った?空間を?

 それで100mを瞬間移動したって言うのか…?


 「やっぱりそれって魔ほ…」

「いや、剣術だ。」


 きっぱりと否定された。


 「訓練を積めば、君にも出来るさ。」


-本当だろうか…。

 いや、疑う暇があれば修行した方がいいか。


 「大事なことは何だ?」


 サリシアの問いかけに、ノイルは即答する。


 「努力です!」

「その通り。何回か死んでも努力をやめないことだな。」

「はい!…って、んん?」


-さっきは「死ぬ気で努力」って言ってたよな…。

 でも今、「死んでも努力」って言わなかったか?


 「あの…俺死ぬんですか…?流石に、比喩ですよね…?」

「何を言う。私は、六剣シックス・ソードの習得までで303回死んでいるよ。」

「はい?」

「だから安心してくれ。100回死のうが、1000回死のうが、私が蘇生させてあげよう。だから、遠慮することなく死んで強くなってくれ。」


-何も安心出来ない。

 俺はこれからどうなる、いやどうなってしまうんだろう…。


 ノイルのテンションは、まただだ下がりしたのだった。


---------------------------

 2ヶ月後。

オアシスで、ノイルが剣を構えている。

視線の先には巨大な太い木。

ところどころに、赤い塊がこびりついている。

何とは…言わないでおこう…。


 「空滅剣ナンバースリー!」


 ノイルが巨木と自分との間の空間を斬る。

すると、ノイルの体がその場から消え見事に…。

見事に、木に激突した。

大量出血。木に新たな赤みが追加される。

ノイル、ここに98回目の死を迎えた。


 「やれやれ、もうすぐ3桁じゃないか。」


 影から見守っていたサリシアが、ノイルの死体を囲むように剣を振ると、ノイルが目を覚ます。

ノイル、ここに99回目の生を受けた。


 ノイルが体を起こす。

体はピンピンしていた。

まるで、激突など無かったかのようだ。


 「どうだ?コツは掴めてきたか?」


 サリシアの声に、ノイルは首を横に振る。

この2ヶ月間で、ノイルは空間を斬れるようになっていた。

それ自体は、とてつもない進歩だ。

まさに、ノイルの才能である「努力」の賜物と言える。


 しかし、空間が斬れるようになってからの方が課題は多かった。

ノイルは、空間を斬りすぎてしまうのだ。

空滅剣ナンバースリーは、物と物との間の距離を斬って消滅させることで相手との距離を縮める剣術。

しかし、上手く斬れていないと対象に激突したり、逆に遠すぎたりする。

遠すぎる分にはまだいいのだが、ノイルの場合は斬りすぎてしまうため、激突して死にまくっているのだ。


 「空滅剣ナンバースリー習得はもう少し先になりそうだな。」

「そうですね…。」

「なに、焦ることはない。空離剣ナンバーフォーの方は、もう使えるのだからな。」


 2ヶ月間、ノイルはただ死にまくっていただけではない。

しっかりと、空離剣ナンバーフォーを習得していた。

実はこの空離剣ナンバーフォー、ノイルがサリシアに掴みかかろうとした時に、サリシアが使った剣術なのだ。

文字通り、「空」間を斬り「離」す。

自分の周りの空間を斬り離すことで、相手の攻撃が全てすり抜けていく。

盾になる剣術だ。


 「さぁ、何度でも挑戦してみるんだ。」

「はい!」


 サリシアの励ましに、ノイルは笑顔で答える。

そしてまた、剣を構えた。


 「空滅剣ナンバースリー!」


 そしてまた、木に激突した。


---------------------------

 さらに2ヶ月後。

ノイルの死亡回数は累計185回。

それでもノイルが「死んでも努力」し続けた結果、ここ1週間は1度も死なずに空滅剣ナンバースリーを成功させている。


 「ここで決めれば、100回連続成功だな。」

「はい!」


 ノイルが剣を構える。

全神経を研ぎ澄ませて、巨木を見つめた。

「ふうっ」と、1つ息を吐き出す。


 「空滅剣ナンバースリー!」


 ノイルの剣が、空間を斬って消滅させる。

ノイルの体は見事に、巨木まで数十センチの位置に現れた。

ノイルは「よしっ」と拳を握る。

サリシアも、拍手で称えた。


 「上出来だ。空滅剣ナンバースリーはマスターしたと言っていいだろう。よく頑張ったな。」

「ありがとうございます!」


 修行開始から4ヶ月。

ようやく、2つ目の技を習得した。

残る技は4つだ。


 「さて、残り4つのうちの2つはここでは習得できない。修行の場所を変えなければな。」

「どこで修行をするんですか?」

「うむ。君は勇者学院に不合格になったと言っていたな。」

「はい。」


 唐突な関係の無い質問に、ノイルは戸惑う。


 「では聞こう。勇者とは何だ?」


-修行場所と何の関係があるんだろう。


 不思議に思いつつ、ノイルは答えた。


 「約400年前に、魔王を倒して世界を救ったレヴィアースという名の偉大な男です。確か、全能オールの能力を持つ上に剣術にも長けていた最強の人間と聞いています。勇者学院を開校したのも、この方です。」


 この程度のことなら、簡単な歴史書に書いてある。

子供の時に、みんなが学ぶことだ。


 「その通りだ。では、その勇者が勇者学院を開校したのはなぜだ?」

「魔王が、自身が倒れたら大量の魔物が人間の領地を取り囲むようにして生まれるという魔法を発動していたからです。そこで、魔物を倒すことが出来る優秀な人材を育成し、人々の暮らしを守るために勇者学院は開校されました。」


 現に、500年経った今でも魔物は数多く存在する。

どうやら、魔王の魔法は常に魔物を生み出し続けているようなのだ。

だから、倒しても倒しても魔物はいなくならない。


 「完璧だな。素晴らしい。つまり、人間の領地をちょっと出れば魔物がうじゃうじゃいるということだ。」


 ノイルは頷く。

勇者学院の卒業生からなる「勇者隊」が、領地の境界を防衛しているため、領地内にいればほぼ安全だ。

しかし、その防衛ラインから1歩でも出れば、命の保証は無い。


 「今から学ぶ2つの技、『魔滅剣ナンバーワン』と『魔増剣ナンバーツー』は魔法を相手にせねば訓練が出来ない。だが、私も君も魔力0だ。魔法は使えん。かといって、無能ノーンな私たちに協力してくれる魔術師などいない。そこでだ、」


 話の流れから、ノイルは猛烈に嫌な予感がしていた。


-まさか、魔物のいるところで修行するんじゃないよな…。

 まさか、まさか、まさかな…。


 魔物の生息域は、大きく4つに分けられる。

弱い魔物が多い西の森「アウダス」、そこそこの強さだが勇者学院の卒業生なら余裕で倒せるレベルの魔物が多い南の森「カンク」、勇者学院のトップクラスでなければ攻略できない東の森「エーデルース」、勇者学院のトップクラスの中でも特別な才能がなければ攻略できない最凶の北の森「ラピリア」の4つだ。


-せめて、せめて行くならアウダスにしてくれ。


 「魔王城で修行をする。」


-良かった…。

 東西南北どの森でもない…。

 って!んんんんん!?!?!?


 「あの…今何と…?」

「何だ、聞こえなかったのか?次の修行場は魔王城だ。すぐに、出発するぞ。」

「ま、魔王城ってラピリアを抜けた先にあるっていうあの魔王城ですか!?」

「そうだ。私はそれ以外の魔王城は知らんな。」

「む、無理ですって!あそこは勇者学院のトップクラスの中のトップクラスじゃないと攻略できない森なんですよ!?」

「安心したまえ。何度死のうが、私が蘇生させてやる。」


-いや…そういう問題じゃなくて…。


 動揺するノイルを尻目に、サリシアはさっさと歩き出す。


-はぁ、もうどうにでもなれ…。


 肩を落として、ノイルも後を追った。

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