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第2話 それって「修行開始」ってことだよね?

 ノイルはただ当てもなく、砂漠をさまよっていた。

屋敷を出て、街を出て、どこをどう歩いてきたのかなど覚えていない。

頭の中では「魔力0」、「無能ノーン」、「出来損ない」、そんな言葉がぐるぐる回っていた。


 「お兄様!」


 ふと頭にフィアの声が浮かび、目には涙が浮かぶ。


-フィアは追い出されるなよ。

 まあ、フィアは優秀だから俺みたいにはならないか。


 フィアは優秀だ。

魔法適性試験を受けねば正確なことは分からないが、恐らくは全能オールだろう。

既に、様々な魔法を高い精度で使うことが出来る。

まだ14歳で勇者学院には入学できないが、来年受験すればまず合格するはずだ。


 対してノイルは元々、魔法をろくに使えなかった。

だからこそ、勉強に励み、勇者学院で魔力を向上させようと努力したのだ。


 -それでも、魔力0じゃな。


 自分の情けなさに、より涙が溢れてくる。

(こら)えきれなくなったノイルは、地面に膝をついて泣いた。

灼熱の太陽に照らされた砂漠の砂は、非常に高温になっている。

だがそんなことはお構いなしに、ノイルは砂を殴りつけた。


 「くそっ!」


-魔力が1でもあれば!

 いや0.1でもいい!

 そうすれば、努力で何とか出来たのに…っ!


 ノイルに魔法に関する才能は全く無いが、ずば抜けた努力の才能は確かにある。

そうでなければ、とてもじゃないが魔法筆記で満点など取れない。

本当に、「0.1でも」魔力があれば状況は大きく変わっていただろう。

だがいくら砂を殴れど、いくら涙を流せど、0が1になることはないのだ。


 どうしようもない現実にノイルが絶望していると、上から呑気な声が響いた。


 「おいおい。そんなとこに膝ついてたら火傷してしまうぞ?ほら、手も怪我するから。」


 ノイルが顔を上げると、そこに居たのは黒い長髪を後ろで束ねた美形の女性だった。

腰には、剣を携えている。


 「ほらほら、まずは立って。」


 女性が差し伸べた手をノイルが取ると、彼女はノイルを一気に引っ張り上げた。


 「えっと…あなたは…」


 ノイルの声を無視して、彼女はノイルの目を覗き込んでいる。

真剣な顔で15秒ほど目を見つめると、彼女は笑顔になって「うんうん」と頷いた。

軽く恐怖を感じつつ、ノイルはもう一度尋ねる。


 「あの…あなたは誰なんですか?」


 すると今度は、まともな返答が返ってきた。


 「私はサリシア。旅してる途中の剣士だよ。君の名前は?」

「あ、えっとノイルです。」


 ノイルが恐る恐る答えると、サリシアと名乗るその剣士はまたノイルの目を覗き込んだ。


 「あの、さっきから何なんですか?俺の顔に、何か付いてますか?」


 ノイルがなかば苛立ちながら言うと、サリシアは尚も目を見ながら呟いた。


 「ノイル君、いい目をしてるね。」


-「いい目」ってどういうことだ。

 俺は魔力0なんだから、魔眼も持ってないんだぞ。


 「あの、いい目ってどういうことです?」


 ノイルの問いかけに、サリシアは真面目な顔になって答える。


 「言葉通りだよ。君の目には、確かにいい素質がある。育てれば、大きな力になるよ。」


 その言葉を聞いたノイルは、自嘲気味に言った。


 「素質ですって?馬鹿にしないでくださいよ。俺は魔力0の無能ノーンなんだ。素質も何もある訳がないでしょう。」


-「魔力0の無能ノーン」だと言えば、こいつも俺を蔑んでどっか行くだろう。


 そう思ったノイルの思惑は、見事に外れた。

ノイルの言葉を聞いたサリシアは、なぜか目を輝かせたのだ。

そして言った。


 「素晴らしい!その目を持ち、さらに魔力0の無能ノーンだなんて!」


 やや苛立っていたノイルは、これを聞いてブチ切れた。


 「お前!ふざけんなよ!俺が何の力も持っていないから、勇者学院に落ちて、家を追い出されて、こんなところにいるんだ!」


-何が「素晴らしい」だ!

 妹からも引き離されたんだぞ!


 「それはそれは。そんな事情があるとは露知らず、傷付けてしまったようだね。いや、これは私が全て悪かった。すまない。」


 ノイルの怒りを聞き、サリシアは素直に頭を下げた。


 「だが、」


 頭を上げたサリシアは、力強く言いきった。


 「君に力があるというのは嘘ではない。こればかりは、紛れもない真実だ。」

「てめぇ!まだ言うか!」


 我慢出来なくなったノイルは、サリシアに掴みかかった。

サリシアに向けて伸ばしたノイルの手は、その胸ぐらを掴もうと伸びていき…

サリシアの体を〝すり抜けた〟。

思わず、ノイルが前につんのめる。

バランスを崩したその体もまた、サリシアをすり抜けた。

ノイルは地面に倒れ込む。


 「くそっ!何の魔法を使いやがった!」


 上半身を起こして見ると、サリシアの右手には鞘から抜かれた剣が握られている。

それを自らの前で一振すると、サリシアは言った。


 「魔法か。そんなものが使えれば、とても便利だがな。私も、君と同じく魔力0の無能ノーンなのだよ。だから、今のは魔法じゃない。」

「魔法じゃない…だと?」

「そうだ。魔法じゃない。今私が使ったのは、剣術だ。」

「剣術…?」


-そんな剣術、聞いたことがない。

 それに、こいつも魔力0の無能ノーンだと?

 それでも、こんなことが出来るのか…。

 もしかして、俺にも出来るのか…?


 ノイルの心に、希望が生まれた。

持っていた剣を支えに立ち上がり、砂を払う。


 「俺に力があるって言いましたよね。」

「ああ、言ったとも。」

「なら、俺にもあんたみたいなことが出来ますか?」

「出来るさ。もちろん、死ぬ気で努力しなければならないがな。私も、死ぬ気で努力して剣術を磨いてきた。」


 努力。

それはノイルの唯一の取り柄だ。

ノイルは、自らの魔力を勇者学院で向上させたい一心で努力してきた。

しかし、その努力は報われなかった。


-でも。

 終わったと思ってた俺の人生に、もう一回だけチャンスが来たかもしれない。

 こいつが言うことが本当なら、俺は強くなれるのかもしれない。

 いや、嘘でもいい。

 どうせ、一回終わったような人生だ。

 こいつに、サリシアに賭けてみよう。


 今ここに、ノイルは固く決心した。

サリシアに付いていって強くなろうと。

自分を追い出した父親を見返してやろうと。

そして…


 「フィアァァァァ!!俺、強くなって迎えに行くからなぁぁぁぁ!!」


 突然の大声に、サリシアが驚く。


 「フィア…というのは、君の恋人か?」

「いや、俺の最愛の」

「最愛の?」

「妹です…っ!」


 そう、ノイルはシスコンであった。


 「サリシア!俺を強くしてください!努力ならめちゃくちゃします!あんたみたいな、かっこいい奴になりたいんです!」


 熱く言うノイルを見て、サリシアは満足気に頷いた。


 「もちろんだ。1年間、私に死ぬ気で付いてこい。お前を、最強の剣士にしてやる。」

「最強の…!剣士…!」

「そうだ!思い描いてみろ。1年後のお前は、『魔力0の最強剣士』だ!」

「うおぉぉぉぉ!何かカッコいい!」


 普段のノイルは、決してこんな暑苦しい奴でもこんな馬鹿っぽい奴でもない。

だが、今のノイルは絶望からの希望というテンションの乱高下に振り回されてかなりハイになっているのだ。

本当は、もっとクールなタイプなのだが。


 「それで、サリシア先生は俺に何を教えてくれるんですか?」


 落ち着きを取り戻し、ノイルの口調が少しずつ丁寧になる。

サリシアも、静かな口調に戻って言った。


 「君に教えることは2つある。」


 サリシアが立てた2本の指を見て、ノイルはゴクリと唾を飲む。


 「まず1つ。君の目の素質を活かして、魔眼を超える最強の眼『真眼』を開眼させる。」

「真眼…。魔眼も使えないのに、そんなことが出来るんですか…っ!?」

「出来るとも。現に、私は習得している。」

「分かりました。やります!」


 ノイルは力強く頷いた。


 「そして2つ目。先程見せた強力な剣術『六剣シックス・ソード』の習得だ。」

六剣シックス・ソード…。」

「そうだ。この2つを、1年間で完璧にマスターしてもらう。いいな。」

「はい!よろしくお願いします!」


-やってやるぞ!

 1年で強くなって、フィアに会いに行くんだ!


 こうして、無能なシスコン少年と謎の女剣士の修行が始まった。


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