平和の不成立編
「……神様、私気づいちゃいました。」
「ん、なんだい?」
「世界は、平和にできないと思います。」
「それは……この赤点課題の山から逃避するための『気付き』かな?」
「ち、違いますよ!」
「最近気づいたんだが、君がそうやって言い淀む時は、何か裏がある時なんだろう?」
「うっ……だから違いますって……」
「……っふ、分かったよ。そういう事にしておこう。」
「え、という事は?」
「少し根を詰めてやり過ぎた感があったからね。ここいらで少し休憩でもしよう。」
「ぃやったー!」
「ん?」
「……ところは何処までだったかな〜……?」
「さて、世界平和についてだったか?」
「はい。世界は平和にできないと思います。」
「なぜ、そう思うんだい?」
「平和になってしまったら、人々は進化しなくなるからです。」
「『争いこそ進化の鍵』と?」
「はい そうです。先日生物の授業の補修で知ったのですが、『生物はその環境に順応しながら、進化していった』と聞きました。」
「……たぶん、補修じゃなくとも授業を受けていれば知れた知識じゃないかい?」
「私は補修で初めて知った事です。」
「いや、でも……」
「補修で初めて知りました。」
「……まぁ、そういう事にしておくよ。話の腰を折ってしまってすまない。続けてくれ。」
「例えば、白亜紀やジュラ紀……恐竜がこの地球の頂点に君臨していた時代では、捕食対象であった草食恐竜はただ捕食される存在ではなく、防御の術をその身に宿しています。特に晩期にその傾向が強く出ています。」
「トリケラトプスとかがその例かな?」
「あんなでかい顔で防御されたら、襲う気力も削がれるってもんです。」
「ぱっと聞くと、悪口に聞こえるな……」
「また、現代の動物にも同じことが言えると思います。例えば、角を持つ動物は草食動物に多くみられます。」
「……確かに肉食動物には、知っている限り 角がないな。」
「この傾向は、『食うか食われるか』の熾烈な生存競争が織りなす、生物の進化の結果です。」
「なるほど。では、その『生存競争』が進化の鍵になりそうだね。」
「えぇ、その通りです。生物はこの『生存競争』が無くなった時、絶滅または滅亡の道へと進み始めると思います。」
「そう考えると、人類の進化……特に技術進歩においては『生存競争』が強く関係しているね。」
「そう! そこなのです!」
「生活用品やインフラ・法の整備、考え方や兵器、文化……全ての技術が軽く競争のカードとして使えるものな……」
「資源や物の場合も、価値を生み出すには技術が必要ですからね。」
「しかし、ここまで『進化』に焦点を絞ってきたが、その『進化』は本当に必要なのかい?」
「……というと?」
「いや、大した話じゃないが、『進化』しなくても『変革』していけばいいじゃないかと思うんだ。」
「うーん……いや、『変革』だけでは対応できる事態が、たかが知れていると思います。未知なる事態にも対応できるようにする事。それこそが『進化』の本随だと思うのです。」
「ふむ……」
「多くの戦争によって生まれた技術は、今日の技術競争の一端を担っていますし、自然災害などの脅威への予知・観測にも転用され、私たちの生活を豊かにしています。」
「魚群探知機なんかがいい例だね。あと某車会社のバイクも最初は、戦時中に使われていた通信機の発電機が動力源だったりね。」
「さすがに戦争を肯定するつもりは無いですが、闘争や嫉妬などといった争いを生み出す負の感情を否定しては、人類の未来はないと思うのです。」
「まぁ、僕は平和主義者だから、全員ハッピーにいられる世界がいいけどねぇ。」
「確かに、神様が負の感情を表に出したところをあまりみないような気がします。」
「出したら出した分だけ疲れるだけだからね。流石に全く出さないほど聖人じゃないけど、『なぜ相手が嫌がっているのか。』とかいう相手の感情を読み取って、より良い結果を出すことを心掛けているよ。」
「なんだか、世界が神様だけなら、世界はきっと進化し続けながらも平和になるでしょうね……」
「確かにそうなる自負はあるよ……でもそれは、嫌な世界だね。」
「どうしてですか?」
「だって君のような人種に会えないのは、つまらないじゃないか。」
「神様……!」
「さ、休憩は終わりだ。課題の続きをしような。」
「え、今 完全に終わる流れだったじゃないですか!?」
「なにを言ってるんだい?せめて今日は、この課題の半分終わらせるまで帰さないよ?」
「で、でも、提出は今月末まで……って、え、やめ!?」
「はいはい、ペンを持って、この問題を解こうな。」
「あぁ〜やだぁ〜!」
「そう言わないの。僕も付きっきりで見てやるから、とっとと終わらせようじゃないか。」
「うぅ〜神様の非平和主義者ぁ!!!」