労働不向き編
「神様、私気づいちゃったんですけど……」
「……うん、なんだい?」
「私、『働くこと』に向いてないと思うんです。」
「そうか……とりあえず、そのままじゃ風邪引くから、保健室で着替えてから改めて来ようか?」
「はい……」
「して、まずなにがあったんだい?そんなにびしょ濡れになって……」
「私、実は美化委員会に所属していまして……」
「それは初耳だ。」
「それで今日は花の水やり当番だったんです。」
「うん、オチが読めたぞ。それで事故ったんだな?」
「まぁ、事故といえば事故なんですが……」
「ん?違うのか?」
「その……ちょっと遊んでたら、ああなっちゃいまして……」
「えぇと……君ねぇ……小学生じゃないんだからさ……」
「はい。」
「自制心くらい持ちなさいよ……」
「欲求に抗えませんでした。」
「だとしても、自制心がぶっ壊れてると思うんだが……」
「返す言葉もありません……」
「で、それで、労働に向いてないなと思ったわけかい?」
「そう思わざるを得ないですよね。」
「まぁ、でも言って校内の仕事なんて、基本的に真の労働の下位互換だから、緊張感がないだけじゃないのかな?例えば……バイトに出て実際の労働に身を投じてみたらどうだい?」
「なるほど!それは良いことを聞きました。早速バイト申請して、経験を積んでみます!」
「……おや、今日はバイトの日じゃなかったのかい?」
「えぇっと……クビになりました。」
「……まだ、一か月しか経ってないのに?」
「『ここまで、使えないバイトは初めてだ』といわれて、クビになりました……」
「えぇ……また自制心を失った行動でもしたんじゃないだろうね……?」
「さすがに出来ませんよ!滅茶苦茶厳しいところでしたもん!」
「……ちなみに、どこに行ってたんだい?」
「この学校から一番近い駅前のコンビニです……。」
「あぁ、なるほど……あそこは、私鉄が運営しているコンビニだからね。色々規律とかあって窮屈だったんじゃないか?」
「そうなんです!髪を染めてはいけないとか、ピアスを着けてはいけないとかは、私の場合普段からしないので特段問題じゃないんですけど、髪留めの色とか形、果ては化粧しろとか抜かすんですよ!それに、品出しを少しでも疎かにしていると、すぐラインのグループに店長が文句言ってきますし、私が効率化の提案をしたら、『意見するな!』とかいってきますし……おおよそ店長のせいでとにかく空気が悪かったです!」
「思っていたより酷かったな……」
「でも、社会っってそう言うもんなんですよね……?」
「うーん……まぁ社会の悪い面ではあるね。」
「やはり、労働に向いてないんでしょうか?」
「いや、おそらくだけど、単純に『職場環境が君の肌に合わなかった』ってだけだと思うよ。だからそうだね……今度はスーパーなんかにいってみたらどうだい?」
「スーパーですか?」
「うん。コンビニと比べて、レジ打ちや品出しとか、コンビニで多少でも経験したことが活かせると思うんだ。それに全く別の業種に行くより延長線上にある業種に行った方が、なにかと楽だと思うよ。」
「なるほど……じゃあ、今度はスーパーにバイト行ってみます!」
「うん、幸運を祈ってるよ。」
「おっ疲れさまですー!神様ー!」
「おぉ、久しぶりだね。今日はバイトは休みかい?」
「はい!」
「その様子だと、ずいぶん楽しく働いているようだね。」
「分かっちゃいますか?」
「君は感情を表に出しやすい人種だからね。」
「エヘヘヘ〜そうなんですよ!本当にいい職場に巡り会えましたよ!」
「それはそれは……良かったじゃないか!」
「はい!神様のおかげです!」
「うんうん。『働くこと自体』に向き不向きがある訳じゃなくて、結局『職場』が合う合わないかの話だったようだね。」
「あぁ……その事なんですけど……やはり私は働くことに向いていないと思うんです……」
「ん、どうしてだい?」
「いや、その最近体重が緩やかに上昇傾向でして……」
「麗しき乙女にとっては、確かに問題だろうが……バイトと何の関係があるんだい?」
「と言うのもですね……ある時、試食を提供する仕事についた時にですね、あまりにお客さんが来なかったもので……その……」
「……自分で食ったと?」
「……はい。」
「えぇっと……自制心はどうした?」
「抑えきれませんでした。」
「君ねぇ……」
「で、でもでも、聞いてください!『おいしい』と呟きながらつまみ食いしてた結果、その商品の売れ行きが好調になったんです!」
「なんと。」
「今では『食料品売り場の切り札』として活躍しています!」
「うーん君の場合、『向き不向き』とか『合う合わない』じゃないようだね……」
「……というと?」
「君が普通に生きていくためには、『天職に出会えるかどうか』が重要だってことだよ。断定はできないけど、君には『順応性』がみられないからね……」
「え、じゃあ、この職を失ったら、生きてけないんですか!?」
「安心しな。それまでに僕が君を何者かにするからさ。」
「……養ってくれるってことですか?」
「断じて違う……!」
※職場の雰囲気は場所によって異なります。