読書の流儀編
「おっ疲れ様ですー!神様ー!」
「うん、お疲れ。」
「あれ神様、本読んでいるんですか?」
「まぁね。」
「それ、面白いんですか?」
「まぁ僕の好みではあるね。アニメ化もしていた作品だから、客観的に見ても一定以上は面白いはず。シリーズものだから、どうせなら一巻から読むといい。」
「神様は、シリーズ物は一から楽しみたい派なんですか?」
「まぁ、そうだね。途中から読み始めると、人間関係がどのように構築されていったか、気になって仕方なくなるからね。」
「……神様、揚げ足を取るつもりはないんですけど、過去編とかあるような作品の場合なんかはどうするんですか?」
「ふむ……面白い質問だね。言われてみれば、確かにその通りだ。そう考えると、なぜ僕は時系列純に楽しまないのか気になってきたな。」
「答えはすぐ出てきそうですか?」
「うぅん……すぐには答えられなさそうだ。」
「じゃあ、答えが出るまで、その一巻読んでいますね。」
「そこに置いてあるからねー」
「わーい、ありがとうございます~」
「……君、ずいぶんダイナミックな格好で読むんだね?」
「え?あぁ、こうして逆さになって読んだ方が、なぜか集中しやすいんですよね。」
「今度から、教科書を読むときはそうしたらいいんじゃないか。」
「いやぁ、私にとって、教科書は読む睡眠導入剤ですからねぇ。絶対寝ますね。」
「まぁ、そんな気はしていたよ。」
「あ、神様、お菓子食べます?」
「あぁ……いや、申し訳ない。本を読むときは、集中してしまうタイプなんだ。ちなみに、個包装のお菓子かい?」
「はい!柿ピーが三角錐の袋に閉じられているあれです。」
「結構渋いのを持ってきているねぇ……では、また別の機会に食べさせてもらおうかな。」
「わかりました!一つ差し上げますね!」
「っと!?逆さになっている状態で、よく投げて渡せるもんだな。」
「私、家では基本こんな感じで過ごすので、自然と身に付けましたよ。」
「……もしかして、結構本を読んだりしてる?」
「今はそうでもないですけど、小学生の頃は、図書館の記録で五桁は行ってましたね。」
「僕でもせいぜい3桁が限界だったんだが……」
「まぁまぁ、児童書なんて簡単に読めるようになってるんですから、行こうと思えば行けますよ!」
「秘密シリーズのみを、読み漁っていた過去の自分を、殴りに行きたい気分だよ……」
「ん~ん……?あ!」
「どうした?」
「神様、神様!私気づいちゃいました!」
「何にだい?」
「神様がなぜ、小説を時系列順に読まずに、そのシリーズ順に読むのかについてです!」
「僕に分からなかったことを、君が気づいたのかい?」
「神様、私を誰だと思っているんですか?こと……」
「『こと『気づき』に気づく能力だけは人一倍優れている』……あと、なんだっけか?」
「私のセリフを取らないでくださいよ!!!」
「まぁまぁ、そういうな。で、僕が時系列順に読まない理由は何だと考えたんだ?」
「うぅ……んんっ!まず、かねてより作品自身が真の時系列順に、内容を読まれることを嫌がっているように感じていました。各作品は読者に知るべき順に、知るべき情報が配置されているからこそ、面白い作品が出来上がっているのだと思います。」
「ふむ。」
「そして、『その面白さが一定以上損なわれない時間の区切り』が、小説一冊分という事だと考察するのですが……神様は、この区切りが前後することを嫌っているのだと思います。」
「……つまり僕は、作品自らが時系列を無視して情報を順番に提示することは許せても、僕自ら情報を前後させるのは許せない。だから僕はシリーズ順に読む……という事か?」
「そういうことだと思います!」
「なるほど……そういう事だったか。」
「まぁ、推測の話ですから、もっと違う理由があるかもしれませんが……」
「いや、合点がいったよ。これが正解でいいと思う。うん、そういう事だったのか……。」
「……それにしても、この小説面白いですね!まさか最初にほんの少し出てきた古びた武道館にそんな秘密が隠されていたなんて……!」
「ちょっとまて。もうそんなところまで読んだのか!?まだ、一時間も経っていないぞ!?」
「えぇ、読みましたよ。まさか、プロローグの言葉までキーワードにしてくるとは……どんな順番でプロットを立てたんでしょうね……!?」
「その様子だと、適当に読んだわけじゃなさそうだが……たしかに、その作品のその部分は本当に気になるな。」
「うーん……これ、結末から考えたんじゃないですか?」
「おぉ、確かに……それなら、あとは肉付けしていけばいいだけだが……となると、あの魅力的な登場人物たちも、初めは結末の副産物だったというのか……」
「それより、神様。」
「なんだ?」
「続きが読みたいんですけど、二巻目はどこですか?」
「あぁ……今まさに僕が読んでるのが二巻目だよ……」
「そうでしたか!では先に三巻目から読みますね。」
「……君は順番に読むことに、こだわりがないようだね?」
「まぁ、読みまくってた時は、連続で読めないことなんて、しょっちゅうありましたしね。聞こえは悪いですが、慣れちゃいました。」
「……それが大量に読む秘訣か?」
「だと思います!」