森での実戦訓練2
1分毎に1組、また1組と森の中へ入っていく。
「はい! じゃぁ次、シャルロットとアリスね」
タルッフィ先生に促され、私たちは森に足を踏み入れた。
高い木々が日光を遮っているのか、少し薄暗い。湿気が高く、じめじめとした空気が肌に纏わり付く。前の組は既に見えず、2人で森に迷い込んだかのようだった。
ラシオンでは見たことのない植物は赤や黄色など、妙に毒々しい。
「…………アリス」
後ろからシャルロットの声がして、私は振り返る。
シャルロットは怯えたように周りを見回していた。
「手、握っても良い……?」
「ええ、勿論よ」
シャルロットと手を繋げば、いくらか安心したようだ。
「絶対魔物が出ないようにするから」
「え……?」
「……ミュールリーベ」
一瞬、私の身体に閃光が走り、それが周りに伝染していく。
「これで安心!!」
「今のは……?」
「今のは結界魔法。半径30メートル以内に魔物が入ってこないように調節したから、魔物に出会うことはないわよ!!」
「そんなことが……!?」
「だから、大丈夫よ。ね!」
少しだが、シャルロットの顔色が戻ってきた気がする。
……どうせなら、快適にしようかしら。
蒸し蒸しとした暑さが鬱陶しいので、弱めの氷魔法もかける。しばらくすれば、程よく涼しい空間が出来上がった。
「ねぇ、なんか涼しくなった気がしない?」
「あー、そうね! 本当だわ!!」
私の演技で誤魔化せただろうか……。自信がない。
延々とじめじめとした森を歩く。足元が不安定なところもあり、制服に泥がつかないように気をつける。
「……本当に出ないのね……」
シャルロットが感心する。
「噂だとかなりの魔物が襲ってくるって言っていたのだけれど……」
「……結界魔法かければ、一発で解決よ!!」
「本当にありがとう、アリス」
「いえいえ、もし魔物が出ても絶対シャルロットを守るから」
「……ありがとう」
「あ!! アリス! 見て!!」
懐中時計を確認したところ、森に入ってから30分ほどが経っていた。
「ん? なに!?」
「とっても綺麗な湖よ!!」
シャルロットが指差した先には、高い木がなく、見晴らしの良い開けた場所だった。中央にある湖は日光を反射してキラキラと輝いている。
「透明な水ね……」
湖に近づいてみれば、その汚れのない水にびっくりする。そっと手を入れてみれば、ひんやりとした感触がする。
「シャルロット!」
「どうしたの?」
「ここでお茶にしましょう!!」
「え!? お茶!?」
私はバスケットから敷物を出して、木陰に敷く。
「待って、アリスもしかしてそのバスケットの中身って……」
「これ? お茶の用意を入れてきたの。シャルロットがリラックスできるかなと思って」
「…………訓練にお茶なんて」
シャルロットは小さく何かを呟いたが、私には聞き取れなかった。
敷物の上に2人で腰掛け、バスケットからティーポットを取り出す。私の光魔法で保温していたので中身は暖かい。
ティーカップに紅茶を注げば良い香りがふんわりと広がる。
「……まさか本当にお茶するなんて」
「実はお菓子も持ってきているのよ!」
「え!?……もう完璧にピクニックみたいね」
フルーツのカップケーキを一口頬張る。
「……! 美味しいわ!!」
「私のお気に入りのカップケーキなの。お気に召したかしら」
「ええ! とっても」
良い景色に心地よい風、私たちは談笑を続けた。
シャルロットによる、学園で気をつけること講座女子編を受けた。やってはいけないこと、重要人物、第一皇子と第二皇子の派閥争いについてなど。
学園で生きていくために必要なことを教えてもらった。
「僕にも1つ分けてくれるかな?」
突如背後から聞こえた声に、ティーカップを落としそうになる。
「もう! いきなり話しかけないでください。しかも背後から……」
「ごめんごめん。つい……」
振り返れば、悪戯っ子の目をした彼がいて、隣のルイス様は「まさかとは思いましたが……」と固まっている。
そうよね。まさかこんな背後から驚かせるなんてことするとは思わなかったものね。私もよ。
「僕もお邪魔して良い?」
「ええ、私は良いですが……シャルロット、良い?」
「は、はい!」
シャルロットに詰めてもらい、私の隣に彼が、その隣にルイス様が座る。
「アリス、君訓練中だってこと覚えてる?」
「え……あ、はい」
「こんなに優雅にお茶にするとは……」
「大丈夫です。半径30メートル以内に魔物が入ってこないように結界魔法をかけてるので……。アラン様たちも安心してください」
「……そんな大きな結界を!?」
ルイス様が驚かれる。
「アリスは色々と規格外だったりするから、ルイスも覚えておいた方が良いよ」
「わ、分かりました。アラン様と同じような方だと把握しておきます」
「同じじゃないんじゃないかな」
「同じではないと思いますわ」
反論のタイミングが重なれば……
「似てますね……」
と小さくシャルロットか呟いた。
多めに持ってきていたマカロンは4人であっという間に消えた。学園に来たばかりの私のために、学園生活先輩である彼、ルイス様、シャルロットが色々と説明してくれた。
カフェテリアのあのケーキが美味しいだとか、歴史学のあの先生が怖いだとか……。
お得な情報が次々と出てくるので、私はよく聞いておく。こういうのは知っておいて損はないのだ。
「そろそろ、終わりの時間かな……」
彼が時計を見てそう答える。真上にあった太陽が傾き始めていた。
「……それでは、片付けましょうか」
私がバスケットにしまい始めると、彼とルイス様は敷物を畳むのを手伝ってくれた。
全てをバスケットに入れ、左手に持ち直す。
帰ろうかというその時だった。
「アラン様ーー!!」
湖の左手からエミリー様がいらっしゃった。こちらに駆け寄ってくるエミリー様を一緒にいた彼女の友人が追いかける。
「あ…………」
彼の表情が少し固まったのを私は見逃さなかった。それでも、すぐさま普段の優しい笑顔を浮かべる。流石だ……。
「アラン様、こんなところにいらっしゃったんですね!?」
「こんにちは、エミリー嬢」
彼が話しかければ、その瞳はキラキラと光出す。
「……私、とっても怖かったのですけれど、頑張りましたのよ!」
「それは、良かったな」
「……アリス様もご一緒だったのですか?」
こちらを向いたエミリーは、彼に向けていた笑顔はどこにいったのか、私を睨む。
「つい先ほどアラン様とはお会いしましたの」
ずっとお茶をしていたなんて言ったら、恐ろしいことになりそうなので、適当に嘘をついておく。
「そうですか……」
彼は微塵も表情を変えない。それがかえって怖い。
「アラン様、帰りはご一緒しても?」
「あぁ、別に構わないよ」
彼が了承すると、エミリー様は彼の腕に自分のを絡ませる。いきなりのボディータッチに私とシャルロットは唖然とする。
彼はもう何を考えているのか分からないほど感情が抜け落ちていた。……本気で怖い。
しかし、エミリー様はそれに気づかないようで輝くばかりの笑みを浮かべている。
……恋は盲目と言うけれど。
何だかエミリー嬢が結界魔法の中にいるのが癪に触って、結界魔法の半径を狭める。
「え、アリス……」
彼はそれに気がついたのか、こちらを振り返る。
「どうぞエミリー様とお帰りくださいね」
私はシャルロットを連れて足早にその場を去った。
どうしてこんなにエミリー嬢に対してイライラするのか分からない。彼には、結界魔法の外に追い出してしまって申し訳ないけれど。
私は出口に向かって足を動かし続けるのだった。




