水最上級クラス
「それでは先生、頼みました」
「分かったわ、シャルロットさん。アリスさんのことは任せて」
「はい、どうかよろしくお願いします」
まるで私の保護者のように頭を下げるシャルロット。
任せて、と美しい笑みを浮かべるのは魔法学の講師であり、どうやら水クラスの講師でもあるらしいタルッフィ先生。
「それではアリスさん、行くわよ」
「はい」
「アリス、またね」
「ええ、また後で」
シャルロットと別れ、タルッフィ先生についていく。
その艶やかな黒髪は今日も相変わらず美しかった。
たどり着いた教室は…………教室と言って良いのだろうか。
大きな空間には的が並んでいたり、試合用と思われるコートがあったり。
まさに実践演習の授業だと思った。
「さぁ、始めるわよ!!」
手を叩いて皆の注目を集めるタルッフィ先生。
教室内の生徒には当然のようにミランダ様の姿がある。
今日はストレートの茶髪を垂らしていらっしゃるミランダ様は前回よりは少なくなったものの、10人ほどのご令嬢に囲まれている。
目があったので、一応会釈をしておいた。
教室に椅子はなく、皆立ったままだ。
「まずは最上級クラスへの選抜、おめでとう」
一段高くなっている教壇からタルッフィ先生は生徒たちを見回した。
「今学期のこのクラスの目標は、中級魔法の定着と上級魔法への挑戦よ。詠唱の省略に取り組んで、魔法の発動時間を少なくしていくわ」
足音1つたてず教壇を下りてきたタルッフィ先生はそのまま真っ直ぐに歩みを進める。
「今日はこれをやってもらうわ」
先生が指したのは円形の的。
「この中心に魔法を当てていく課題……ゲームね」
手のひらに出した水の玉を小さく、小さく調整していく。
少しでも力を入れすぎると水しぶきを上げて破裂してしまうのだ。
丁寧に、でも確実に玉を調節していき指先に乗せられるほどの大きさにする。
右手の指先を的がある正面に向ける。
30mほど離れたその的の中心は、点のように小さかった。
重力を考えなくても良い分、弓よりは狙いやすい気もするがそう簡単にはいかない。
的の中心までの道筋に細い糸を引くように、その焦点を僅か数ミリの世界で変えていく。
……ここかしら?
直感を信じて玉を飛ばす。
「うん、アリスさんいい感じだわ。あと5m離れなさい。ミランダさんも下がって良いわよ」
中心より僅かに逸れたものの、なかなか上手くいった。
タルッフィ先生に言われるがまま、更に5m下がる。
たった5m、されど5m。
……また的が小さくなったわ。
力任せに大きな魔法を出すのは意外と容易かったりする。
私が、賊に怯えて感情のまま凍らせてしまったように。
それでも、細やかなコントロールができる人とできない人では魔法の質が変わってくる。
気持ちの赴くまま魔法を放っても、当たらなければ意味がない。
だからこそ、この一見地味に見える小さな玉の訓練が大切なのだ。
ラシオンにいた頃は、皆この練習を嫌がって派手な魔法に没頭していた。
このクラスにはアリスト学園でトップの水属性の生徒が集まっているのだけれど、誰1人として不満を言うものはいない。
それはきっと、皆この練習の大切さを理解しているからだ。
その表情は真剣そのもので……。
魔力コントロールが優れている人が多い。水を出現させるのに詠唱をしている人はいないし、皆高確率で的の中央付近に当ててくる。
流石は最上級クラスと言ったところか。
特に…………。
「ミランダさん、素晴らしいわ。そのまま、もう少し左側を意識しなさい。もう一回打ったら、更に下がって良いわ」
ミランダ様は飛び抜けた実力をお持ちだった。
やはり集中力も、その点において自信がある私と何の変わりもない。
むしろあちらの方が凄いのではないか、そう思ってしまうほどだ。
だからこそ、負けられないと思うのだけれど。
先ほどより離れた的を見つめる。
……絶対に当ててみせる。
アリスの瞳は闘志に燃えていた。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!!




