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すみれ色の瞳  作者: mayan
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プリミエール

 


「正直言うと、全く必要ないんだ。この放課後の演習は」


 今日は初めての放課後の特別演習、プリミエール。

 部屋までの案内を彼に頼んだところ、快く引き受けてくれた。

 2人で教室を出ればエミリーからの視線が痛かったけれど……。


「必要ないとは?」


「行ってみればか分かるよ」


 幾つもの廊下をスタスタと歩いて行く彼を見て尊敬の念を抱く。


 ……こんな迷路みたいな校舎で迷わないなんて。



 それが普通のはずなのだが、アリスは本物の方向音痴だった。



「で、結局アリスは水属性を選んだんだね」


 東棟に入ると、人の数が一気に減った。

 人の多いところであまり話しかけないのは、自分の影響力を知っている彼なりの配慮なのだろう。

 彼の立場からして、狙っているご令嬢はエミリー様だけではないはずだ。

 彼には感謝しかない。


 ……これ以上嫉妬はされたくないわ。


「はい。特に理由はありませんが……」


 嘘だ。


 本当は、人数が少ない光魔法クラスにエミリー様がいると聞いたので、面倒ごとを避けたかったのだ。


「…………まぁ、いっか」


「はい?」


 何か彼が呟いた気がするのだけれど、気のせいかしら。


「……ここだ」


 辿り着いたのは重そうな扉の部屋。

 なんだか入るのに少し緊張する、そんな雰囲気だった。


「入るよ」

「はい」


 彼の右手はドアノブを、左手はなぜか私の背中に回ってきた。

 その行動に驚くも理由を問いかける声は喉を下がっていった。


「やあ、アラン」

「相変わらず時間ギリギリだな。アルテミス」


「申し訳ありません。彼女を案内しておりまして」


 彼の言葉に私に視線が向く。


「ご機嫌よう。第一皇子殿下、第二皇子殿下」


 取り敢えず挨拶をしなくては、と急いでカーテシーをする。


「今日からよろしく頼む、ミーティア侯爵令嬢」

「そうか、アリス嬢も2属性持ちだったね」


「は、はい」


 おかしな光景に、返事の声が揺らぐ。


 ……これぞ、派閥! 


 広く高級感溢れるサロンの右側のソファには第一皇子のオーギュスト様にそのご友人。

 左側のソファには第二皇子のヨハネス様とそのご友人、それから婚約者のミランダ様。

 室内の人間は皆そのどちらかに付いている。

 中立など1人もいない。


 それから、全くお互いのことを見ていないのだ。

 まるでその場に相手がいないように振る舞っている。

 静かながらもビリビリとした緊張感を感じて、思わず背筋が震えた。


 ……なんだか、お二人も笑っていらっしゃるけれど、怖いわ。


「アラン、一緒にお茶でもどうかい? もちろんアリス嬢も」

「久しぶりだ。話がしたい。アルテミス、ミーティア侯爵令嬢」


 お互いを無視しているから、声が被ってもお構いなしだ。

 皇子の誘いを断ることは難しいが、2人同時となってはどちらを取って良いか分からない。

 板挟み状態だ。


 オロオロしないように動揺は隠しているものの、すぐ隣の彼には伝わっていそうだ。

 彼の空気というか、人の感情というか、そういったものを察知する能力はとても高い。

 何か特別な能力を持っているのでは、と疑ってしまうほどだ。……まぁ、彼ならあり得そうではあるけれど。


 やっぱり彼は私の心をしっかり読んできた。

 再度背中に手が回り、私を安心させるように優しくトントンと叩かれる。


「申し訳ありません、第一皇子殿下、第二皇子殿下。本日はアリス嬢の案内をさせて頂きたく、お話は後日でもよろしいでしょうか」


 にこやかな笑みを浮かべながら、皇族にも負けないオーラと存在感を放つ彼は有無を言わせない圧をかける。


 ……恐ろしい公爵家嫡男。


 アリスは早くも帰りたくなってきた。


「そうだな、それなら仕方ない」

「じゃぁ、また後日」


「行くよ」


 彼にエスコートされるがまま、私達はサロンを突き抜け、大きなホールに入る。


「……ここは?」


「ここが本来の魔法練習場」


 ダンスホールかと思ったら、練習場!!


 ……もう、大きさにいちいち驚いていてはダメね。


 ホールには私と彼、2人分の靴音が木霊する。


「大丈夫?」


 ホールの端にある椅子に腰掛ければ、彼は心配そうにこちらを見ていた。


「大丈夫です……」


 いや、本当は大丈夫ではないのかもしれない。


 第一皇子と第二皇子があそこまで対立姿勢だったとは……。


「……本当は演習の時間なんだけど、今じゃ誰も魔法を練習しにきてはいないね。ああやってお茶をしながら互いを伺ったり、牽制したりするだけなんだ」


 彼が意味がないと言った理由が分かった。


 どちらの派閥でもない彼にとってはとても退屈なものだったのね。


「あそこまで、とは思っていませんでした。ご兄弟なのに……」


「兄弟と言っても、母親が違うからね。あまり関係ないんじゃないかな。それよりかはライバルの関係の方が似合ってる」


 ……それは、なんだか虚しいわね。


 本来なら助け合い、協力し合う兄弟。

 それが皇帝の座を争う敵になってしまうのだから。



 そわそわする心を落ち着けるために光の玉を出現させる。手の平に乗っかるほどの真っ白な玉だ。


 小さい玉だからこそ、意外と繊細なコントロールが必要だったりするのだ。指先で軽く操れば、心が平常心に戻りつつあった。


 高い天井に沿わせるように玉を動かせば、キラキラと光の粉が舞い降りてくる。

 私は光魔法の、こういった美しい光景が好きだった。勿論、人を治すことのできる治癒魔法や回復魔法だって大切だ。

 それでも、どんな時でも希望を与えてくれるような、そんな眩い光が大好きなのだ。


 シアラ様はこの玉を蝶の形に変えていらっしゃったけれど、まだそれは少し難しい。でも、とても可愛らしいので、密かに練習中だ。


 シュンッと音がして、見上げた天井にもう一つ光が現れる。それは、私の玉が白っぽいのに対し金色が濃い光だった。


 隣に座る彼の顔を伺えば、その瞳を輝かせながら私に笑いかける。


 ……雷魔法、よね。


 光が出せる属性といえば、光魔法に、おそらく雷魔法。

 私は再び視線を天井に戻した。

 すると、彼の光が真っ直ぐ私の元へ向かってくる。

 私は咄嗟に逃げる。


 ……どうしてそうなったかは分からない。


 それでも、私と彼は意志が通じ合った気がした。始めより格段に速くなった玉が迫る。私はそれから逃げるべく、玉をコントロールしていく。


 彼の玉と正反対の方へ動かせば、逆に回り込まれたり、途中から光が二手に分かれたり……。


 …………2つに分割するのはずるいのではないかと思ったが、それがどうでも良いと思えるくらい集中していた。


 2つに分かれたことで挟み撃ち攻撃に遭い、なんとかそれを回避する。


 頭の中の細胞がフル回転しているのがわかる。

 次はどのような動きをすれば良いのか、ここでフェイントをかけるべきか、はたまたここで急降下してみたら彼はどう出るだろうか。


 無言だからこそ、彼もかなり集中してコントロールしているのがわかる。2つはずるいと言ったが、玉の数が増えれば増えるだけ精密なコントロールが必要とされる。

 よって、複数の玉を操るにはそれなりの技量が必要なのだ。


 身体中があまりの楽しさに興奮しているのがわかる。やっていることは追いかけっこ…………5歳児並みの遊びなのだが、それがどうにも楽しい。


 私たちの座っている目の前を私の玉が通り抜け、彼の玉がそれを追う。天井まで急上昇したところで、とうとう彼の玉に捕まえられた。


 …………あぁ。


 と悔しく思ったのも一瞬。


 パンッ!! と破裂するような音が響いて、ホール中に光が走る。

 その眩しさに目蓋を閉じるも、そっと開けてみれば。


「……わぁ」


 彼と私の光が混ざり合い、先ほどよりも輝きが増した光が天井から優しく降り注ぐ。

 そのあまりに美しく壮大な光景に思わず息を呑む。


「綺麗……」

「そうだね」


 ちらりと彼の方を見れば、彼もまたこの景色に目を奪われている。




「なんだか、楽しかった」

「ええ」


 光が消えてしまってからも余韻に浸っていた私たちはゆっくりと現実に戻ってきた。


 彼と顔を合わせれば、あんなに真剣にやっていたことがおかしくなってきた。


「ふふっ、本当に、楽しかったですね」

「ああ。本来の演習という時間を誰よりもちゃんと過ごしているよ」




 初めてのプリミエールは彼と練習室に籠もって終わったのだった。



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