誕生日パーティー
「アリス様」
長旅を終え、離れの自室でゴロゴロしているとフィーがやってきた。
「どうしたの?」
「実は、明後日アラン様のお誕生日です」
「えっ!?」
「明後日、アラン様のお誕生日です」
「プレゼントを用意しなくては!!」
「それは後で用意しましょう。それよりも……」
「それよりも……?」
「アラン様の誕生日に開かれるパーティーにアリス様が招待されています」
「パーティーに?」
「はい、明後日に本邸の方で開かれますがどうしますか? お誘いいただいているわけですし、出席しますか?」
「……そう、ね。出ましょうか」
今まで目立つ行動を避けていたけれど、公爵様が招待してくださったということは、表舞台に出ても問題ないということ。アルドのパーティーは初めてで少し不安も多いが、まぁ何とかなるだろう。
私を助け出してくれた彼の誕生日だ。きちんとお祝いと感謝を伝えたい。その為にもパーティーに出よう。
「今度はどんなドレスにしましょうか? 今から楽しみで仕方ありません!」
フィーは何だかとっても嬉しそうだ。
「それより、誕生日プレゼントを用意しなくてはね」
「はい。私が勝手にいくつか候補を絞ってしまいましたが、大丈夫でしょうか?」
……なんて優秀な侍女なのかしら。
「ええ、ありがとう」
「それでは、後ほど候補の中からお選びください」
フィーが淹れてくれた紅茶は相変わらず香り高く美味しい。
「フィーも座って。ずっと立っていると疲れるわ」
「で、ですが……」
「今は2人なのだから、気にしなくて良いわ。座って欲しいの」
「……分かりました。……ありがとうございます、アリス様」
本邸の侍女の方を借りるのは申し訳なく、今この離れには私とフィーの二人暮らしだ。
「そう言えば、学園は寮なのよね?」
「はい、侍女も同伴可ですからついて行っても良いですか?」
「ええ、勿論! むしろこちらからお願いしたいくらい」
またフィーと一緒にいられるなら幸せだ。
「お誕生日、おめでとうございます」
多くの視線を感じながら、私は彼にご挨拶をする。
「ありがとう、アリス」
真っ白な生地に金糸の刺繍が施されている正装の彼は、輝くばかりの笑顔を浮かべる。……眩しい。
「アラン様には、何度も助けていただき何とお礼を申し上げたらいいか……」
「そんな堅苦しくならないでよ。いつもの感じで良いよ」
「いつもの感じ……元々こんな感じでは?」
「……もういいや。パーティー、楽しんでいってね。見慣れない人がほとんどだと思うけど、きっと母上がアリスのこと見てくれる。……ほら」
彼の視線の先にはキャサリン様。
私が向けば、にこやかに手を振ってくださった。
「それでは、また後ほど」
「うん、またね」
本日の主役である彼を長時間独り占めするわけにもいかないので、会話を切り上げる。
彼から離れれば、即座にキャサリン様がいらっしゃった。
「今日は来てくれてありがとうね、アリスちゃん」
「いえ、こちらこそお招き頂きありがとうございました」
とうとうパーティーまで出席できるようになったキャサリン様。それでもまだ少し不安なので、誰にも気づかれないように弱めの治癒魔法をかける。
「……ありがとう。気分が良くなったわ」
「それなら良かったです。……9月から学園に通わせて頂きますが、離れてしまって大丈夫でしょうか?」
まだ完治とは言えないキャサリン様を置いていくのが何より気がかりだった。
「全く問題ないわ。アリスちゃんは学園に行くべきよ、私になんて構わないで」
「そうですか……。何か異変を感じたらすぐにお手紙ください。駆けつけますので」
「そうね……、約束するわ」
キャサリン様がおすすめとおっしゃる飲み物を頂く。改めて会場を見渡すと、予想以上の人の量を実感する。
「流石はアラン様ですね。こんなに沢山の方がいらっしゃるなんて。今、貴族は領地に帰っている季節でしょうに」
「彼らはほとんど公爵領の中に領地を持つ貴族よ」
……? あ、例の?
「アリスちゃんは知ってる? この公爵領の運営の仕方」
「はい、アラン様から伺いました」
「それなら話が早いわ。彼らは、公爵家の持つ爵位を譲った貴族たち、ある意味部下と言えるかしら。だから今回のパーティーの招待状を出すのだけれど、出席率100%なのよ」
「全員は凄いですね」
「そうね……。次期当主であるアランに顔を売るため、っていうのもあるかもしれないけれど。ほら、アランと同じくらいの歳の人が多いでしょう? 自分の息子を側近に、娘を婚約者にしたいのよ」
え……?
「アラン様って、婚約者いらっしゃらなかったんですか!?」
「えっ!? アリスちゃん、知らなかったの? アランに婚約者はまだいないわよ」
「そうだったんですね……」
「え、アランに婚約者がいると思っていたの?」
「直接聞いたわけではありませんが、アラン様ほど身分が高い方ならもう既にいらっしゃるのかと思っておりました」
「それなら、誤解が解けて良かったわ」
「それにしても、自分の子を側近や婚約者になんて、本当にこの公爵領は1つの国のようですね」
やはりラシオン王国の公爵家とアルド帝国の公爵家では規模が桁違いだ。
「そうね、確かにだんだん似てきたような気がするわ」
これだけの貴族を束ねているのかと、公爵様の偉大さを実感する。それから、未だ挨拶をされている彼にも……。
知り合いが誰もいない私のために、キャサリン様はずっとそばについていてくださった。
それはそれで人の注目を浴びるのだけれど、1人で会場をウロウロとするよりはマシだ。
もうすぐ学園入学ということで、キャサリン様の学園生活のお話を聞いていた。
何でも、当主様との出会いも学園だったそうで……。
学園の様子を伺うつもりが、いつの間にか惚気になってますね。
それでも幸せそうに話されるキャサリン様を止めることはしなかった。止められるはずがない。
2年生の学園祭の話の時に、人々の話し声で埋まっていた会場に優雅な演奏が流れた。
「これは……」
「アラン、挨拶終わったのね」
やはり……ではダンスの時間だ。
「あの子、ダンス得意なくせにあんまり踊ろうとしないから困ったものだわ」
「確かにアラン様、ダンスお上手ですよね……」
「あら! アリスちゃん、踊ったことあるの?」
「スーリールの披露宴の時に……」
「どうだった? 楽しかった?」
「はい、とっても! 今までで一番踊りやすかったですわ」
運動神経、リズム感、リードのセンス、全てをとっても、彼は完璧だった。
上手い人と踊るのは当たり前だが、楽しいものだ。
「あら、噂をすれば……」
本物の王子様のような彼がこちらに歩いてくるところだった。
「母上、アリスを借りても?」
「ええ、勿論よ」
「アリス、僕と最初のダンス、踊っていただけませんか?」
その言葉に、彼がここまできた理由を知る。
また彼と踊れたら……と思っていたから嬉しいのだけれど……。
「私で宜しいのですか? アルドの貴族ではありませんが……」
キャサリン様の話を聞く限り、彼の婚約者になりたいご令嬢が沢山いるのではないか。
そんな中、名前も知られていない私が彼とファーストダンスを踊ったら問題にはならないのか少しだけ不安だった。
「いや、君が良い。……どうかな?」
「……分かりました。私で良ければ」
……彼が良いと言うのならば良いのだろう。
彼の言葉に不覚にもときめいてしまった私はそれを隠すように、自分のよりひと回り大きい彼の手を取る。
どこの王宮の広間だと突っ込みたくなるほど広いホールは中央まで行くにも時間がかかった。私を見てひそひそと話す声に少し居心地が悪くなる。
ぽっかりと人がいないホールの中央まで来ると、引き寄せられて、体が近づいた。
また彼とダンスを踊れるのだと胸が高鳴る。
今回はどんな風に仕掛けてくるのだろうか。
彼の顔を見上げれば、優しく私を見下ろしていた。
「お手柔らかにお願いしますね」
「こちらこそ」
2人で笑い合うと、彼のリードに合わせてステップを踏み始めた。




