スーリールへ
ゴトゴトと振動を感じ、そっと目を開ける。朝日が……朝日?
「アリス様、お目覚めになられましたか!?」
「フィー?」
「アリス様、無茶はダメですよ。どれだけ心配したと思っているんですか!?」
私の隣に座っていたフィーは私を力強く抱きしめる。
「ごめんなさい」
そうだ……魔力切れを起こしたんだ、私。
ようやく目が覚めてきて、昨日のことが少しずつ思い出される。
なかなか離してくれないフィーだが、本気で心配してくれるのが伝わってきて、怒られているのに何だか嬉しい気持ちになってしまった。
……反省もきちんとしなければ。
「今何時? ここはどこ? ルーナは?」
意識がはっきりしてくると、次々と疑問が浮かぶ。馬車の中、というのは分かるのだが……。
「昨日魔力切れを起こしたアリス様は朝になってもお目覚めにならなかったので、そのまま馬車に乗せました。今は……夕方ですね」
朝日ではなくて、夕日だったか……。
「アリス様が助けられたルーナは今朝は元気そうでしたよ」
フィーの言葉を聞いて少し安心する。
だけど……。
初めての解呪魔法が本当に上手くいったのかどうか確認することができない。
もしかしたらまた今夜も苦しむことになるのではないかと不安になった。
「アリス、おはよう」
「おはようございます」
休憩となり、馬車が止まると彼が外から顔を覗かせた。私は彼と話すために馬車から降りる。
「体調はどう?」
「大丈夫です。……昨日は本当にありがとうございました」
彼には大変お世話になった。深く頭を下げれば、彼は呆れたように、諦めたように笑う。
「……アリスって意外と猪突猛進だよね」
「はい?」
「いや、何でもない」
彼が何を言ったのか聞き取れなかった。
……まぁ、いっか。
赤く染まった空を見上げる。
ルーナはあちらの方角にいるのだろうか。
どうか解呪が出来ていますようにと祈るしか出来ない。
「もうあと少しで国境だ。今日中にはスーリールに入国する」
「分かりました」
「到着するのがギリギリになりそうだ。出来るだけ急ぐ」
「分かりました」
「……ルーナのことか?」
「分かりました」
「おい」
「え?」
咄嗟に彼の方を向くと、彼は大きく溜息をついた。
「話、聞いてなかったよね?」
「すみません……」
「まぁ、いいよ。で、ルーナのことだけど……気になるんだよね?」
「……はい」
「帰りに寄ろう」
「へ……?」
「だから、スーリールからの帰り、もう一度寄ろう」
「……よろしいのですか!?」
「帰り道だし、問題ないよ。……ただその代わりと言っては何だけど、今日は魔法の使用は禁止だ。昨日完全な魔力切れを起こしていたから、安静にするように」
「はい! 分かりました!!」
元気よく答えれば彼は困ったような顔をした。
何故……?
「セラフィーナ」
「はい」
「アリスの見張り、頼んだ」
「畏まりました」
ん? 見張り?
「ねぇ、見張りって……」
「アリス様は本日魔法の使用は禁止ですからね!」
見事に笑顔でかわされた。
スーリールとの国境を無事に超え、私は窓の外のスーリールの街に目を輝かせる。
「シアラ様の母国!」
「王都には今日中に着けるかと、アリス様、お身体は大丈夫ですか?」
「ええ! 大丈夫よ 」
スーリール王国はアルド帝国の北西に位置している。
気候はアルドの南東にあるラシオンとは真逆で、8月にも関わらず涼しい。
人々は全体的に肌が白く、雪のようだ。
私達はアルドからの来賓として、王城に滞在させてもらうことになっている。王城に着いたのは夜遅くだったので、国王陛下へのご挨拶は翌日、ということになった。
スーリールに着いてから2日目、とうとう今日は結婚式である。




