シアラ視点6
シアラ視点5の続きです。
アリスが国外逃亡した後のシアラ視点となります。
(シアラの「彼」はウィリアムのことです)
アリスがいなくなって、王は狂ったように捜索を始めた。王都、近隣の町、それから国境に使いを出す命が出されたばかりである。
……普段の政治もこれくらい熱心にしてくれたらいいのに。本当にダメな王ね。
昨日、影からアリスが無事に国を出たことを知った。
今日から私は私で計画を実行するのである。
既に近々帰ることは国王である父にも伝えておいた。
父からの手紙には要約して「何としてでも帰ってこい」と書いてあった。
……国王がそれで良いのかしら?
私は苦笑い無しに手紙を読めなかった。
「私を呼び出すなんて、あなた何様なのかしら?」
刺々しい声に振り向く。
「オリビア様、お越しくださりありがとうございます」
真っ赤なドレスを着た第一王妃オリビアだった。
「それで? 何の御用かしら。私とっても忙しいのよ」
……冗談もほどほどにして。誰があなたの公務を代わっているか、ご存知なのかしら。
「オリビア様に少々お願いしたいことがありまして」
「あなたのお願いを叶える義理はありませんわ!」
「それはお願いの内容を聞いてからオリビア様自身で判断なさってください」
私は防音魔法をかける。
「私……離婚したいのです。国に帰りたくなりまして」
苛立ちを隠さないオリビア様は私のお願いに目の色を変えた。
「本当なの?」
「ええ。ですから、あなた様に協力して頂きたくて……」
私の声はオリビア様の高笑いに掻き消された。
「協力するわ」
彼女はニヤリと笑った。
計画、計画と繰り返してはいるが、正直なところ計画なんて大層なものではなく、ずっと単純なことである。
その1番大切なものはオリビア様に協力してもらうことだった。
私には理解ができないが、オリビア様は国王のことを愛していらっしゃる。
それは顔か、身分か、性格か……とりあえず、彼女は国王を愛している。
そんな彼女は私が嫁いできた時から私が気に入らないようだった。
王妃は私だけで十分、そう考えていたのだろう。
それでも私は王女、彼女はもともと公爵令嬢。
私がリーララピスであることもあって、国王に目をかけられる私にかなり嫉妬していた。
そんな私が離縁したいと言えば、彼女は快く引き受けてくれるだろう。
この王妃の影響力は底知れない。
第1王妃の権力でできないことなどないのではないだろうか。
彼女が圧をかければ誰でも黙る。
彼女がお願いすれば国王は何でも叶える。
……オリビア様、最強である。
オリビア様が出て行かれた扉を見つめた。
……お願いしますね、王妃様。
離婚関係の書類やら何やらは王妃様の方で全てしてくれる。
私がするべきことはスーリールまでの旅の準備だった。
彼だったら転移魔法を常人ではありえないほど連発してあっという間に到着するのかもしれないが、私には限界がある。
逃走用の馬車を1つ用意し、荷物を最低限にまとめる。
御者は母国から護衛として付いてきたジョージに頼んであった。
王妃との密談から1週間経った日、私はオリビア様から呼び出しを受けた。
……上手くいったかしらね。
夕日が沈む頃、彼女に指定されたサロンに向かった。
「さああなた、これにサインして。サインしたら離婚成立よ」
テーブルの上には既に国王の署名がある書類。
私はそれにサインしながら聞く。
「……よく、これにサインさせましたね」
「ふふっ、簡単よ。欲しい宝石があるのだけれど、陛下のサインが必要みたい、って言ったらサインしてくれたわ」
……何も見ずにサインとは。もう流石としか言いようがないわ。
「教会の方は大丈夫ですか。かなり離婚には厳しいと思っていましたが」
「安心して、神官長に話は通してあるわ」
……賄賂ですか。教会も結局は金と権力が欲しいのね。
「協力してくださり、ありがとうございました。今夜には出発しようと思います」
「ええ、2度とここには帰ってこなくて結構よ」
……帰るつもりはこれっぽちもありませんのでご安心ください。
「ありがとうございました」
そうお礼を言うと、彼女は今までで1番の笑顔を浮かべた。
「こんなに呆気ないものなのね……」
仮にも国王と王妃の離婚だ。こんなにも簡単にできてしまうとは……。
……この国は腐りきっているわね。崩壊する前に出て行けて良かったわ。
王や王妃は仕事を部下に任せ、その部下たちは不正し放題。
財政が破綻していないのが不思議なくらいだ。
私が仕事で関わった人の中には誠実な人もいた。
しかし、神官長や大臣達は権力に目がない。
救いようがないのである。
……彼は元気にしているかしら。
国を離れてから1日たりとも忘れたことがない彼。
もう彼も私と同じ26、侯爵家嫡男ならもう結婚しているだろう。
……していなかったとしても婚約者はいるはずだ。
何とも不思議な気持ちだ。会いたいという想いと会いたくないという想いが交錯する。
数年ぶりの彼はどんな感じなのかしら。
……偉大な魔導士になっているでしょうね。
彼の隣に自分じゃない誰かがいる。2人で笑いあっている光景を目に浮かべるだけで胸がキュッと苦しくなる。
……もう立派な大人なのに。
一向に捨てきれないこの想いはどうすればいいのだろう。分からない。
シアラはそっと夜空を見上げる。
とても美しい満月だった。




