キャサリン様
「僕がアリスを母上のところに連れて行くよ」
彼はそう言ったけれど、
「いや、私も行く」
ということで、3人で向かうことになった。
真っ白な扉を公爵様が優しく開ける。
部屋の中央に置かれた天蓋付きベッドに1人の女性が横たわっていた。
焦げ茶色の髪は栄養があまり行き届いておらず、肌は病的なほど真っ白だった。
しかし、やつれているのに美しいと思わせてしまう、なんとも儚げな女性だ。
元は相当な美人の筈……さすが公爵夫人。
そのオレンジ色の瞳は優しく、こちらを見つめている。
「あら?」
「キャサリン、気分はどうだ?」
「アーサー、大丈夫よ。……アラン、おかえりなさい」
「ただ今戻りました。母上。……こちらはアリスです」
「お初にお目にかかります。アリスにございます」
少しだけスカートを摘んで挨拶をする。
「こんにちは、アリスさん」
「キャサリン様、私に診察させて頂けないでしょうか」
私は早く診察して治療をしたかった。
今も微笑んでいるものの、体調が悪いことを少しばかり隠しているようだった。
「えっ」
キャサリン様は驚かれた。
それもそうだろう、いきなり現れた小娘が診察させろというのだから。
「キャサリン、一度アリス嬢に診てもらってほしい」
「……ええ、良いわよ」
初めは驚いていたキャサリン様だったが、了承してくださった。
「では、失礼します」
私はベッドに近寄る。
「手を握ってもよろしいでしょうか?」
キャサリン様は静かに頷く。
私は少しでも力加えたら折れてしまいそうなキャサリン様の手をそっと握る。
……病気の作用が全身に回っているわ。特にひどいのが、心臓ね。元はここからかしら。これは完治させるのに時間がかかりそうだわ。
でも良かった。
アリスはそう思う。
……治せない病気じゃない。
私はほっと息をつく。
「……アリス嬢、どうかな? 」
公爵様が不安そうな顔で聞いた。
「……私の師が申しておりました。急所を刺された騎士より、軽い怪我をした深窓のご令嬢の方が治療が難しいと。それは、もともとの体力の差があるからです。キャサリン様は失礼ながら体力がない」
途端に皆さん暗い顔をなさるので
「安心してください。キャサリン様は治せます」
私は彼らに微笑みかける。
「キャサリン様は現在体力がない。この状態で強力な治癒魔法をかけると、最悪の場合、眠ったまま目を覚まさないなんてこともあります」
植物状態になるかもしれないという言葉に再び空気が重くなる。
……なんだか、話す順番を間違えているのかしら。無駄に心配させているような気がするわ。
「……ですから、毎日少しずつ治癒魔法をかけていき、徐々に回復させていきます。そのために、毎日キャサリン様に面会する許可を頂きたく……」
「あぁ、勿論だ。屋敷の客間を使ってくれ」
公爵様が何とも泣きそうな顔で仰る。
「……本当に、私は治るの……?」
こちらは既に泣いていらっしゃった。
「はい! 私が治します!!」
キャサリン様の瞳から大粒の涙が流れ出した。
私はそっと易しい治癒魔法をかけた。




