シアラ視点4
今回の結婚が援助の対価であること、国王には既に第一王妃がいらっしゃること……それから、私の希望もあり、結婚式は行わなかった。
聖堂で夫婦の誓いもキスもしたくなかったのである。
私の心の中にはあの人がいる。そんな中偽りの誓いを立てれば、ばちが当たりそうだと思った。
結婚の書類にサインした夜、国王は当然のように私の寝室にやってきた。
私は自分の周りに結界魔法をかけて寝たふりをする。
国王が結界をコンコンと叩く音がするが、無視だ。
「シアラ」と呼びかけられても、無視だ。
私はひたすら狸寝入りをする。
しばらくすると諦めたのか、陛下は部屋を出て行った。
1人になった私は部屋の天井を見上げる。
……今頃、みんなどうしているのかしら。
1日目にして私は母国が寂しくなる。
……お父様にお母様、お兄様、お元気かしら。
出発の直前まで一緒にいた家族の顔が浮かぶ。
…………彼は……。
そう思いかけてやめた。
私はもうこの国の王妃なのだから。
……国をまたいだ結婚って、こんなにも孤独なのね。
私は長旅の疲れか、意識を失うように眠りについた。
「シアラ、君は寝る時に結界魔法をかけるのか?」
翌朝、国王は私の部屋にやってきた。
「はい。寝込みに敵襲に遭ったらいけませんから」
「そうだが……」
「襲われて殺されるようなことがあってはいけませんから」
これ以上は言わせまいと、私はニコリと微笑んだ。
私が嫁いで1年が経った頃には、シースール王国は無事に復活していた。
……もう帰っても大丈夫よね。
やろうと思えば、離婚はできる。
この国に来て、国の仕組みを見て、可能だと思った。
母国に迷惑がかかるのではと心配だったが、私を国のために嫁がせたことを負い目に感じているのか、父も母も離婚に賛成だった。むしろ、帰って来いと言う始末である。
……そろそろ始める時期かしらね。
今日も公務の合間に1人、お気に入りのバラ園でお茶を頂く。
最近では王妃の公務に加え、国王までが余った書類を押し付けてくるようになった。
……本当に何なのだ、あの国王は。
怒りを通り越して、呆れてくる。
無意識のうちにシアラは溜息をついていた。
その時、隅の茂みからガサゴソと音がした。
……動物でも紛れ込んだのかしら。
現れたのは、小さな小さな妖精だった。
私が出会った少女、アリスはスペンサー公爵家の娘だった。
慌ててカーテシーをする彼女が顔を上げれば、彼女が私と同じリーララピスを持っていることに気づく。
自分以外のリーララピスに出会うのはそれが初めてだった。
……そう言えば今日は王子の婚約者選びのお茶会があったわね。
とふと思い出す。
公爵家のご令嬢で、この愛らしい容姿にマナーもとてもしっかりしている。何よりその瞳を国王が手放すはずがない。
……王子の婚約者はこの子ね。
そう思っていたのだけれど、本人は王子には興味が無いと断言するし、何故か絶対に選ばれない自信を持っていた。
何故かと聞けばアリスは答える。
「……私は双子の姉なのです。皆から嫌われる者なのです」
確かにこの国には双子の上の子が疎まれる風習がある。
それを知った時、馬鹿なのかしら? と思ったのは秘密だ。
普通ならこの国ではこの子は選ばれない。だけど、国王よ……。
国王のリーララピスへの執着は凄まじい。
国王は私に会うと、私の瞳だけをじっと眺めるのだ。彼の興味は私ではなく、この瞳。それは割と早い段階で分かっていた。だからこそ、私は国王を夫として見ていないのだが。
話を戻すと、国王にかかれば双子の姉など関係ないのだ。リーララピスさえ王家に手に入れば良い、そう考えるはずである。
……双子の姉、それにリーララピス。矛盾が凄いわね。
嫌われる立場でありながら、希少なものとして大切に扱われる。
……これは大変だわ。
私は直感した。
……帰国は少し伸ばしましょうか。
この子を見守らなくてはならない。
同じ瞳を持つ者として、放っておくことはできなかった。




