シアラ視点3
……結果として、私が彼に想いを伝えることはなかった。
私たちが2年生に進級した年、スーリール王国は飢饉に見舞われたのだ。
それもここ数十年で一番ひどい大飢饉だった。
領地の経営のため、学園も休校になる始末。
物価が上昇し、飢えた国民は徐々にだが確実に増えていった。
私は光魔法の使い手として、栄養失調から起きた病を治すために各地を回った。
町や村で病気を治すたびに「聖女様」と崇められたが、私は自分の無力さに失望していた。
今ここでこの人たちを治しても、きっとまた栄養失調になり、病気を繰り返す。もう一度この町に来たときはこの人たちは亡くなっているのかもしれない。
一時的な救いしか与えられないのにもかかわらず、毎日3食の食事を食べている私は何と最低な人間なのだろう。
人々から感謝されるたびに私の罪悪感は募っていった。
6ヶ月ほどの旅を終え、久しぶりに城に戻ってきたときだった。
謁見の間ではなく、父の私室に母と兄、そして私が呼ばれた。
「……ラシオン王国から援助の申し出が来た」
部屋に入った時から沈黙を貫いていた父は重たい口を開いた。
「それは嬉しい申し出ですね。父上」
「国民がこれで救われるわ!」
兄と母はそれぞれ言う。
その顔には安堵の表情が広がる。
援助の申し出、それは我が国にとって救いとなるものだ……ものなのに。
では、なぜ……
「お父様はなぜ難しい顔をなさっているのですか?」
私は父に聞く。
美味しいだけの話は無い。他に何かあるのではないか。
母も兄も私の言葉に父を見つめる。
父は目を瞑り、黙り込んでしまった。
やがて、ゆっくり瞼を開けると、父は言った。
「……援助の条件として、シアラを第2王妃にしたいそうだ」
え……、私を……王妃に?
「……どうして」
無意識のうちに声が溢れていた。
「おそらくリーララピスが目的だ。貴族なら誰もが欲しいはずの力だからな」
誰も発言しなかった。
4人に沈黙が訪れる。
「私、行きますわ」
私は沈黙を破るようにそう言った。
私以外の3人は、驚いてこちらを見る。
「私が行けば、援助を受けられるのでしょう。だったら行きます」
「……本当に良いのか?」
「はい、もちろんです」
「でもあなたは……」
「私1人行くだけで、国中の民が救われます。……お父様、行かせてください」
「……分かった」
父は頷いた。
ここ半年、沢山の人々に会ってきた。皆飢えに苦しんでいたのに、私だけは食事が与えられていた。贅沢なものだ。
……ようやく、国のためになれる。
私は喜びと共に……僅かに切なさを覚える。
少しだけ、心が苦しくなったのは見て見ぬ振りをした。
あれから私の嫁入りの準備は着々と進んだ。
私は彼に会わなかった。
会えないかと言う手紙も断り、彼が王宮に来た時は部屋に閉じこもった。
私が嫁ぐことに文句はない。王女とはもともとそういうものである。
しかし、彼と会ってしまえば私の心は揺らいでしまいそうで怖かった。
彼との思い出は私の心の中で美しい思い出として残るだろう。私は思い出さえあれば十分なのだと、自分に言い聞かせた。
その日は間違いなくやってきた。
王宮の広間にて沢山の貴族、騎士、文官が並んでいる。
最後の挨拶を終えて私はこのまま馬車に向かった。
皆、頭を下げ私を送ってくれる。
彼らの間を歩く間も、どうしても目で探してしまう自分に苦笑する。
……まだ引きずっているのかしら、私。
ふと、あの栗色の髪が見えたような気がした。
誤字報告、ありがとうございます!




