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すみれ色の瞳  作者: mayan
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シアラ視点2

 


 心の整理がつくと、私は俄然彼に興味が湧いた。

 彼はきっと、いや確実に私よりも凄い魔法を使う。

 転移魔法を無詠唱で発動させた天才だ。初めて同世代の魔導士に心が惹かれたのだった。



「おはようございます、ウィリアム様!」


「……ん。…………え?」


 朝っぱらから机に突っ伏して寝ている彼に話しかける。周りは私が急に彼に話しかけたことに動揺しているが、気にしない気にしない!


 彼はまだ半分夢の中にいるのか、私を見てぼーっとしていた。おーい、と彼の顔の前で手を振ると、彼はようやく覚醒してきた。


「シアラ様!? お、おはようございます」


 起こしに来たのが王女殿下だと(今更)気づいた彼は、大変慌てていた。


「ウィリアム様!」

「はい!!」

「ウィリアム様はどちらで魔法の練習をなさっているのでしょうか?」

「え……?」

「どちらで練習をなさっているのかしら?」

「あ……屋敷です。屋敷の練習室です」


 侯爵家には魔法の練習室があるのね!


「ウィリアム様、私あなた様の魔法の練習を見てみたいですわ!」

「えっ、ですが……」


「ダメかしら……?」


 上目遣いで落ち込んだような声で言う。教室で何人かの生徒が倒れる音がした。

 これは自分でもやっていてあざといなと呆れる技だが、これでお願いして断られたことはない! 私の必殺技なのだ!!


「……我が家でよければ」


 私はこの日から彼の家に通うことになる。






「……もうちょっと左手の方に魔力を感じて。……そうそう、良い感じだよ」


 彼の家に通うようになって、早半年が経った。


「シアラは右手の方に魔力が偏る傾向があるから、左手の方を意識すると良い」


「分かったわ!」


 彼は、やはり天才だった。初めて見学に来た日はあまりの高度な魔法に興奮して、夜は眠れなかったほどだ。


 そんな彼は教えるのもとても上手かった。天才は凡人の気持ちが分からない、と言うけれど彼は細かく丁寧に分析して教えてくれる。


 たった半年で私の魔法は基礎からガラリと変わった。圧倒的に効率が良くなり、新しい魔法もいくつも教えてもらえた。


 何とか彼に辿り着きたい……それが一生無理だとしても今は彼の背中を追いかけていきたい。

 シアラはその一心で魔法の練習に取り組んでいた。


「そろそろ休憩にしようか」


 ジュースを両手に持った彼は私に隣に座るように促した。


「はい」

「ありがとう」


 ジュースを飲みながら、彼の横顔を見つめる。

 栗色の髪は少し癖っ毛で、エメラルドの様な瞳は光り輝いていた。彼の端正な顔立ちに、私は1人頬を染める。



 これが恋だと気づいたのはつい最近のことだ。


 初めは、彼は私の憧れだった。

 恋愛的な意味のではなく、魔法のだ。前代未聞の4属性持ちに膨大な魔力量、既に上級魔法を平然と使いこなす技術を持っているのに、彼は決して努力をやめなかった。

 どこまでも高みを目指す彼に尊敬の念と、どこまでも先を歩いて行ってしまう彼に対する嫉妬を常に感じていた。



 それがいつのまにか恋になっていたのだから、困ったものだ。

 もしかしたら初めから好きだったのかもしれないが。


 魔法を使うときはその美しい顔や長身が合わさってとてもとてもかっこいい。集中した彼の顔を見るのも好きだった。


 それに対して、普段の彼は優柔不断で、どことなくふわふわしていて、……とっても優しいのだ。

 私の話すどうでも良い話も彼はうん、うんと相槌を打ちながら聞いてくれる。ケーキが2種類あったときは先に私に、どっちがいい? と聞いてくれる。一緒に歩いているときに見つけた捨て猫は、もう大丈夫だ、と言って屋敷に持ち帰る。(現在、侯爵家に住んでいる)


 私はどうしようもなく好きになっていた。この人以外には考えられない、とまで思っていた。


 幸い、身分的にも彼は侯爵家の跡取り。私が降嫁しても大丈夫な立場だ。


「ん? どうしたの、シアラ?」


 私が彼の顔を凝視しているのに気づいたのか、彼はそう問いかけた。


 最初はなかなかシアラと呼び捨てにすることも、敬語なしで話すことも了承してくれなかっだのだが……。


 名前を呼ばれるだけでこんなにも舞い上がってしまうのはどうしたものか。


「何でもないのよ」


 私はふふっと笑った。


 ……いつか、ちゃんとこの気持ちを伝えなくては。


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