暖かい朝
……様、…………お嬢様。
何かしら……。
そっと目を開けると……
「お嬢様、おはようございます」
そこには穏やかな笑みを浮かべた彼女がいた。
朝の紅茶をいかがです?
と彼女がお茶の準備を始めようとする。
カーテンが開かれた窓から眩い朝日が流れ込む。
侍女が朝の紅茶を淹れる……当たり前の光景なはずなのに……。どうしてこんなに苦しいのだろう。
彼女に返事をしなくては、そう思っているのに声が出ない。
どうしたのかしら、私……。
うまく息が吸えず、呼吸を整えようとして私はその理由を知る。
頬を温かい何かがつたった。
握りしめた手の甲にそっと滴り落ちる。
わけが分からなかった。
……どうして、今?
胸の奥にじんわりとした感触を覚えて、せき止めていたものが溢れ出した。
手の甲で拭っても、拭っても追いつかない。
「……っお嬢様!? 」
一向に返事がない私を振り返った彼女が慌てたように声を上げて、こちらに走り寄ってきた。
「どうかなさいましたか!? 」
彼女が私の顔を覗く。
「申し訳ございません! 私のせいで……」
違う、彼女のせいではない。
そう伝えたいのに話すことができなくて、首を懸命に横に振る。
しばらく私のすすり泣く音だけが響いた。
……止めなきゃ、早く、早く。
そう思うのに一向に止まる気配のない涙は私のネグリジェをびしょびしょに濡らす。
お嬢様、
優しく彼女に呼び掛けられた。
と同時に私は温かな温もりを感じる。
赤ん坊をあやすように、よしよしと頭を撫でられる。包まれている安心感に私はとうとう耐えきれなくなり、声を上げて泣いた。
泣いて、泣いて、体中の水分がなくなってしまうのではないかと思うほど泣いた。
その間も、彼女はそっと抱きしめてくれた。
どれくらいそうしていただろうか。
私が泣き疲れて心が落ち着いてくると、彼女はすっと私から身を離した。
ぐしょぐしょになった私の頬を彼女はハンカチで丁寧に拭いてくれる。
「紅茶の前に、着替えなくては! 」
そう言って彼女は微笑む。
衣装部屋の方に歩き出す彼女に少し遅れながらついて行く。
「あ……」
私の声に前を歩く彼女が振り返る。
「どうなさいました? お嬢様」
セラフィーナ、
「おはよう」
そう言うと、彼女は
「おはようございます、お嬢様」
今朝2回目の挨拶をしてくれた。
何となく寂しくて、やるせなくて、意味もわからず悲しくて、枕に顔を押し付けて1人すすり泣いていた。
……泣いたことなんて数えきれないほどあるのに、今朝は涙が初めて、とてもとても温かく感じた。




