帝国
「無事に出国できたみたいだ」
「アラン様には感謝してもしきれないです」
「それは、どういたしまして」
眩しすぎる笑顔を浮かべる彼はいつも通り素敵だった。
「……それで、私に治して欲しい人はどこにいるのでしょう?」
彼に協力してもらって、国外へ逃げられたからには私も役目を果たさなければならない。
「あぁ、それ覚えててくれたの?」
「もちろんです!」
約束を忘れるほど薄情ではない。
「僕の、アルテミスの領地にいるんだ。」
「では、アラン様の領地に向かいましょう!」
「また少し馬車の旅になるけど大丈夫?」
地理的にアルテミスの領までは2日3日では着かない。
けれど、休憩を少しずつ挟めば、体力面でも大丈夫だ。
「はい!…………ところで、その患者さんってどなたですか?」
「患者は……」
僕の母だ。
彼は初めてその瞳に影を落とした。
明るい彼しか見てこなかったからか、彼に潜む闇にどう声をかけて良いか戸惑った。
「……それは、何のご病気か聞いても?」
「それが、よく分からないんだ」
どこか遠くを眺めながら話す彼の声は沈んでいるようだった。
「分からない……ですか……」
「うん、特別どこかに痛みが出るわけじゃないんだ。最初は風邪っぽかったんだけど、徐々に食欲が無くなって、動くと貧血の症状が出て、ここ半年はベッドで寝たきりだ」
「衰弱していくんですね」
「あぁ、帝国の腕の良い医師に診せても、魔術師に相談してもどうにもならなかった……」
「それで私に?」
「そうだ。一瞬で僕の体調を元に戻した君なら治せるかもしれないと思ったんだ」
「あまり期待されても困りますが、力は尽くさせていただきます!」
四方八方塞がって、藁にもすがりたい思いだったのだろう。
絶対に彼のお母様を治してみせる!! と私は決意を新たにしたのだった。
婚約破棄から3日が経った。
あの女は消えた。
「お主は一体何をやっておるのだ!!」
俺が叱られなければならないのも、あの女のせいだ……。俺は黙って父上の言葉を聞く。
「国内を捜索しているが見つからん。他国に逃げられたかもしれぬ」
父上は随分と深刻な顔をしていらっしゃる。
この方の執着も酷いものだ。
「隣国に密偵を派遣しろ!! 見つけ次第拉致してこい!!」
「父上、隣国に密偵など外交問題になりませんか?」
発覚したらどうするつもりだ。
「それでも構わん、アリス嬢を見つけたならそれで良い!!」
ラシオン王国は周辺国に精鋭揃いの密偵を派遣した。




