国境
「アリス、見える? あれがアルドとの国境」
「はい! 見えます!!」
高さ数十メートルの大きな門の下に、沢山の馬車が並んでいる。
「私、国境を越えられるでしょうか。止められたらどうしましょう」
「止められはしないとは思うけど……出国先がアルドだと特定されるのはよろしくないな」
そうよね。アルド帝国に出国したと気付かれれば、追ってくる可能性は0じゃない。
アメリアを正妃として迎える今、書類仕事をするための側妃なんてなりたい人間はおそらくいないのだ。
「君に、ちょっとした魔法をかけていいかい?」
しばらく考え込んでいた彼は私を見つめる。
「ええ、構いませんが、何をするのでしょう?」
「君の容姿はとにかく目立つ。その金髪もだけど、何よりその瞳はアリスと特定するための確固たる証拠になるだろう。だから……」
「だから?」
「色を変える」
「そんなことができるのですか!?」
「あぁ、軽く色を変えるくらいなら簡単だ。……ということで髪と瞳の色を変えてもいいかな?」
「ええ、もちろんです!」
彼が小さく詠唱すると、淡い光が私を包む。
しばらくするとその光は消えていった。
「これで、変わったのですか?」
「うん、変わった」
「何色に変えたのでしょう?」
「髪は茶髪に、目はピンクに」
それって……。
「君の侍女とお揃いだ」
フィーとお揃い、なんて素敵なんでしょう!
コンコンッ。
窓を叩く音がして彼が窓を開く。
「失礼します。念のためお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、アラン・アルテミスだ。……それにしても本人確認など珍しいな」
「はい、王宮からの連絡がありまして、伝えられた特徴の少女が国境を抜けようとしたら止めよ、とのことで。いつもより慎重になっています。こちらのお嬢さんのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
……これは、アリスって言わない方がいいわよね。偽名、偽名、偽名……
「……ジゼルと申します」
「お時間頂き、ありがとうございました。では」
そう言って男は離れていった。
馬車が走り出すと、私は背もたれにそっと背中を預けた。
「緊張した?」
彼が軽く笑う。
「ええ、でも賊に比べたら人間は怖くありません」
「賊も人間だけど……」
そうしているうちに、私たちは国境を抜けた。
国外逃亡が成功したのである。




