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すみれ色の瞳  作者: mayan
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 翌日、朝早くに私たちは宿を出発した。

 出来るだけ早く国境を越えるためだ。


 1日ベッドで休んだおかげか、なんだか身体が軽かった。


「私は侍女ですから、今日は別の馬車に乗ります」


 そう言ってフィーは別の馬車に乗ってしまった……。

 少しだけ寂しい……。




「アラン様は、剣を使われるのですか?」


 向かいに座る彼は、今日はしっかりとした剣を持っていた。


「うん。念のため」

「戦闘する気満々ですね」

「争いは出来るだけ避けたいけどね」


 ……出来るだけ、ねぇ。

 彼、冷静に見えて戦う場面が来たら一番先頭で戦いそうな気がするわ。


「というのも、この先少し治安が悪い地域なんだ」


「治安が悪い……ですか」


「あぁ、賊が出る」


「それはまあ物騒な」

「僕が見た記録では、ここを通った貴族の馬車は9割襲われる」


「9割!?」


 9割なんてほぼ確実襲われるじゃない!


「だから貴族は普段通らないんだけど、ほら、今は近道しなきゃいけないから」


 当たり前だが、アリスは生まれてこの方、賊に襲われたことはない。


 ……いやぁ、死にたくないわ!死にたくない!

 せっかくここまで来たのに、逃走途中で殺されるなんて嫌よ!絶対嫌!!


「そういうことは早く言ってください!!」

「ごめんごめん。でも絶対大丈夫だから安心して」


 心の準備が出来てません!


「アラン様、ご存知ですか? 絶対なんてこの世には無いんですよ。私が死ぬ未来もあるんです!」


 私は若干パニックになる。


 すると、スカートを握りしめていた私の手に彼が手を重ねる。


 彼は私と目を合わせると



「大丈夫。僕が君を守るから」



 と微笑んだ。


 どきっとした。


 頬に熱が帯びるのが自分でも分かった。


 ……かっこよかった。

 ……とりあえずかっこよかった。



「……ありがとうございます……」


 それだけ言うので精一杯だった。




 それでも、しばらく経てばやはり不安な気持ちが再発する。

 本物の王子よりよっぽど王子っぽい彼にときめいてしまったこと、賊に襲われること、に私の緊張状態が続いていた。


 あれから彼は私の手を包んでくれている。

 その温もりの安心感に助かっているのは事実だが、それと同時に手が触れているという状況にどうしようもなく恥ずかしい。


 元婚約者のあの王子は私のことなど女性として扱ってくれた試しがない。手が触れているだけで私は緊張してしまうのだ。


 私は免疫がないんだ……。


 アリスは悟った。




 そして、その時はやってくる。





 ガタッと音がして、馬車が急停車する。


 何!? 何!? これは何!?


「来たな」


 彼はそう呟いた。


「何が来たの!?」


「ん? 賊だ」


「賊って……賊!?」


「うん、賊だ」


 馬車の外から争う声が聞こえてくる。


 やっぱり来るのね。知ってたけど!! 知ってたけど!!

 早くどっか行って!!


「アラン様は戦いに行かないの!?」


 この人大人しくしているわ。

 戦闘狂だと(勝手に)思っていたけれど!


「僕は君を守ると言ったじゃないか。アリスの側にいるよ」


 心強い、心強いわ。

 でもね、怖いものは怖いのよぉ。



 ふと馬車の窓から外を見ると1人の汚らしい格好の男がこちらに向かってくるところだった。

 そのギラギラとした目に恐怖は最高潮に達していた。


「窓を破るつもりか」


 彼が何でもなさそうに言う。


 何が窓を破るつもりか、ですか!?



 男が窓に近づく中、私は



「いやぁぁぁぁぁぁ!」



 絶叫していた。




 ふと気がつくと私は彼の腕の中にいた。


 私、何でこんな状態になっているのかしら?


「君は……」


 頭上から声がしてそっと見上げる。

 彼は面白いと言わんばかりに笑っていた。


 え?


 彼の顔が思ったより近くてびっくりする。


 もっと余裕があれば、1人の乙女として彼にときめいていたのかもしれないが、今は何も感じない。


「外に出てみよっか」


 えっ!?


「まだっ、賊がいるんでしょう!?」


「いるけど、大丈夫」


 それだけ言うと彼は私の手を引いて馬車から出た。


 まだ賊がいるのに外に出るなんて……。


 アリスは繋がれた手を必死で握る。



「アラン様、ご無事でしたか?」


 彼の護衛が笑いながらやってくる。


「ああ、なんの問題もなかった」



 ……あれ、賊は?


「アラン様から事前に言われてなかったら、あれを防ぐのは無理でした。」

「推測でしかなかったが、一応言っておいてよかった」



「……あの、賊は?」


 恐る恐る聞くと彼は指差した。あれ、と。


 私は言葉を失った。


「見事な氷の彫刻になっているね」



 ……そう……氷漬け人間が大量にできていた。









 


「今はとりあえず、先に進もうか」


 時間が惜しい、そう言いながら彼と私は再び馬車に乗り込んだ。



「あのまま放置してしまっていいのですか?」


 馬車が動き出した中私は聞いた。


「多分、数分で氷が薄いところは溶けるから大丈夫だよ」

「そうですね」


 何となく気まずい沈黙が流れる。


「……氷魔法のこと、ご存知だったんですね。私隠してきたつもりなのですが」

「ただの予測だよ」

「アラン様の予測は当たりすぎます」



「……僕も同じなんだ」


 同じ?


「君が氷魔法を使えることを知ってしまったからね。僕も教える。僕の場合は火の上、炎魔法が使えるんだ」


 炎魔法……学園にいても王宮でも炎魔法の使い手なんて聞いたことがないわ。


「昨日君の魔力が僕と同じくらいあることを知って、僕が炎魔法を使えるのと同じように、君も氷魔法を使えるんじゃないかと思ったんだ」


 ……なるほど、だから予測できたわけだ。

 観察しただけで氷魔法のことに気付かれていたらとんだ化け物だと思ったが、確かに自分という例がいるなら分かるのかもしれない。


「これで、お互いに隠し属性を共有した。フェアだ」



 恐怖を乗り越えた私は俄然炎魔法とやらに興味が湧いた。


「水と氷は液体と個体との差がありますが、火魔法と炎魔法の違いは何でしょう?」


「そうだなぁ、効果は変わらない。焼き払う系の魔法だ。だけど、威力は桁違いに違うんだ」



「炎魔法では……」



 私の彼に対する質問コーナーはそれから1時間ほど続くのだった。





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