セラフィーナ
6歳になると家庭教師による授業が始まった。国語に算数、マナー、ダンス、私はどれも真面目に取り組んだ。
別に勉強が好きと言うわけではない。
取り組まざるを得なかったのだ。
5歳のあの日以来、アリスは以前よりも厳重に監禁されるようになった。
毎日毎日することがない、誰とも話さない、そんな中絵本の代わりにアリスは勉強に励んだ。
その成果は目に見えるように上昇していく。
それでも、どんなに素晴らしい生徒でも、どんなにテストの結果が良かったとしても、教師も両親も褒めてはくれなかった。
教師たちはメイドと同じように私に対する嫌悪感を隠そうともせず、私を見るたびに顔をしかめる。
両親に至っては最近顔も見ていない。
この家に私の居場所はなかった。
周りの子よりは大人っぽくとも、特別な環境下にいようとも、アリスはまだ6歳の子供である。寂しくて、寂しくてたまらなかった。
私と進んで会話をしようとする人はいなかった。
私をぎゅっと抱きしめてくれる人はいなかった。
私と一緒にご飯を食べてくれる人はいなかった。
泣いている私を慰めてくれる人はいなかった。
彼女は、7歳になったばかりの私の元にやってきた。
「お初にお目にかかります、お嬢様。セラフィーナと申します。本日よりお嬢様専属侍女として仕えさせて頂きます」
色素が薄く、光の角度によっては金髪に見える薄茶の髪。顔立ちは美しく、鮮やかな桃色の瞳が私を見つめていた。将来は相当な美人になるのだろうと思わせる少女だった。
使用人のお仕着せを着る彼女には少し……いやかなり違和感を抱いた。
「あなたが、私の侍女? 」
「はい」
何せ……彼女は私より少し上くらいの子供だったからである。
「あなたまだ子供よね?おいくつ? 」
「……10です」
10歳!?
「どうして10歳の子供が働いているの!? 」
私は驚きを隠せず、思ったことをそのまま口に出していた。
……子供だと思ったけれど、私より3歳上の10歳!
私の言葉に彼女は俯いた。
「お嬢様がお気に召さないのであれば、すぐに出て行きます。それでは失礼しま……」
「ちょっと待って!! 」
早くも部屋を出て行こうとした彼女を咄嗟に呼び止める。
その絶望した表情に、行かせてはダメだと本能が言う。
「私の専属侍女になって! 」
気づけば、私は半分叫ぶように少女に言った。
「よろしいのですか? 私はまだ10の子供ですが」
彼女の目が不安そうに揺れる。
「私の話し相手になって欲しいの。私、同じくらいの子供と話したことがないのよ。だから、お願い!! 」
そうお願いすると、彼女の顔は少しずつ明るくなっていった。
「私でよろしければ。大人の侍女に比べて能力は及びませんが」
「あなた、私の周りにいる大人と同じくらいしっかりしているわ。だから大丈夫よ」
「失礼ながらお嬢様も7歳とは思えません」
「あら、そうかしら? 」
それなら……
「私たち、きっといいお友達になれるわ」
私が笑いかけると、彼女も少しだけ微笑んだ。
私の人生で、はじめて味方ができた日だった。